故郷を捨てて

 ぼくが、この街を出たのは十八歳の春のことだった。ぼくの実家は代々農業を営んでおり、当然ぼくも高校を卒業したら父の仕事を手伝い、ゆくゆくは家の畑を全て受け継ぐ事を期待されていた。ぼくは嫌だった。こんな田舎で、敷かれたレールに沿って生きるのが。そんなぼくが逃げ場所に選んだのは山を一つ越えた先にある街にある専門学校だった。無謀にも、ぼくはほとんど知らないプログラミング専攻を選んでしまった。祖父と父の激しい反対と、親戚たちからの冷たい視線を一身に浴びながら、ぼくは未知の海へと漕ぎ出した。不思議と不安はなかった。それ以来、ぼくはここに帰っていない。


 ***


 さて、少し話が逸れてしまったので、本筋に戻ろう。ぼくとカナデは実家に向かうべくタクシー乗り場に向かう事にした。

「ねえ……圭一さん、私も乗れるかなあ?」

 カナデの不安を払うかのように、ぼくは言う。

「大丈夫、きっと乗れるよ」

 そうしてるうちにぼく達は目的の場所に到着した。タクシー乗り場と書かれた標識のそばには、運のいい事に、タクシーが一台止まっていた。それに近づくと、扉がパッと開き、中からどうぞ、という男性の声がした。ぼく達はすかさずその中に乗り込む。


 ***


「一名様ですか?」

 タクシーの運転手である眼鏡をかけた五十代くらいの男性は、ぼくとカナデを一べつすると、そう言った。

「いいえ、二名です」

「はあ……?」

 ぼくがそう言うと、彼は怪げんな顔をした。ぼくはあわてて隣にいたカナデを見せた。彼女を見た運転手は眼鏡をずらしながらしばらく凝視した後、受け入れたのかため息をつきながら前を向いた。そんな相手にぼくは言う。

「T郵便局前まで」


(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます