kanade-the unreal lover-

藤城 レイ

SIDE-A:keiichi kitayama

山を抜けて


 二〇二一年三月十四日


 午後十一時、きっかり。ここはまだ雪が残る東北地方。未だに白さが残る中を流線型の車体が駆け抜けていく。そのスピードに合わせるかのように、窓の外の風景はせわしなく動いていた。ぼくはそれを窓際の席でぼーっと見つめていた。一面の、一面の白い世界。こんもりとした山合いには、小さな家が点在している。都会育ちなら憧れる、古き良き田舎の風景だ。ぼくはいわゆる田んぼの広がる町に生まれた。一度は棄て去った自分の生まれ故郷に、ぼくは今新幹線で向かっている。


 ***


 変わらない景色に飽きたぼくは、あくびをした後、反対側の席を見た。そこにはぼくの愛する人がいる。

「カナデ」

 ぼくがそう呼ぶと、彼女は肩のすぐ上で切りそろえた茶色い髪を揺らしてこっちを見た。

「圭一さん」

 カナデは、ぼくの名前を呼んだ。その声は、少し甲高くてかわいらしい。

「カナデ、疲れてないか?」

「うん、大丈夫だよ」

 彼女はぼくの問いかけに元気に答えた。本当にその元気な姿と笑顔にはぼくは毎日癒やされているのだ。


 ***


 ぼくたちがたわいのない会話をしてる間に新幹線は山中を抜け、徐々に街中へと向かっていった。

「ねえ……圭一さん」

 カナデがそう上目遣いで話かけてきたのは、ぼくがもうじき駅に着くだろうから降りる準備をしていた時だった。

「ん、どうした?」

「あのね……窓の景色見たいから、膝に乗せて欲しいの」

「いいよ」

 もはや断る理由はなかった。彼女は小柄なので、ぼくのように窓の景色を見れないのだ。ぼくはそんなカナデを自分の膝に乗せた。

「うわあ……」

 窓の向こうに見える景色に、カナデは感動した。今彼女の目に映っているのは、無限に広がる初夏の田植えを待つ茶色い田んぼだ。これはぼくの中では当たり前のように見た風景だ。それに心を動かされるなんて、本当にカナデは降り積もったばかりの雪の色のような、混じりっけのないピュアなやつなのだ。


 ***


 午前十一時十分。ぼくとカナデは故郷の駅に降り立った。いまだに自動化されていない改札を通ると、隣県へ引っ越す時に見たものと変わらない昔なじみの青空が広がっていた。駅の階段を降りると、冬のツンとした空気が鼻を刺激した。

「ここが圭一さんの故郷?」

 そう問いかけるカナデに、ぼくはこう答えた。

「うん、そうだよ、いいところだろ?」

 彼女は目をキラキラと輝かせて、うんと答えた。その瞳の輝きとは裏腹に、ぼくは憂鬱になっていた。なぜなら、今日帰る事を母親の他に伝えていないからだった。


(続く)

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