第34話:あとひとつ、なにか

 結論から言えば、喜田:兄からもめぼしい情報は入手できなかった。それこそ週刊誌やワイドショーでも報道されているような、「子どもからもその親からも愛される人気の保育士」であることを再認識させられただけだ。これでは何のためにわざわざ遠くまで来たのか。名探偵であれば、常人とは違った着眼点で、着実に事件の真相へと近づいているはずなのに。やはり僕にこういう調べ物は向いていなかったのか。


 再び新幹線に乗って、占い師、田井中厚子の地へ向かう。刊野さんからタクシー代や宿泊キャンセル代として多めにお金を預かっていたので、早めの夕食として駅弁を購入した。


 移動中は、前席の背中に付いているテレビでずっと、新たな事件のニュースを観ていた。


 被害者は設楽太一したらたいち、三十七歳。職業はカウンセラー。


 ミヤコさんは、被害者の共通点が「心」に深く関わる仕事をしていることだと言っていた。設楽もその条件に当てはまる。


 やはりこれは、連続殺人なのだろうか。


 それでもまだ、確証が持てない。あと一つ、何か。


 九哀。


 鬼怒川サキ。


 喜田圭吾。

 

これまで三人の関係者から話を聞いたが……。


「……あれ?」


 待て。でもこれは。死んだ順番じゃない。訪問順だ。


 でも五番目の設楽太一だって当てはまる。


 だったらどうして今まで気がつかなかった?


 一人、イレギュラーがいたからだ。


 田井中厚子。彼女だけが「この」条件には該当しない。


 でも、田井中は占い師だ。


 まだ可能性はある。


 駅弁をかき込んで、ごくりと喉を鳴らした。

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