顎骨骨髄炎だったころ

作者 宵澤ひいな

歯痛殿下の襲撃

  • ★★★ Excellent!!!

 本作の作者(宵澤ひいな氏、以下同)は、知的で合理的で誠実無比な性格をしているのが作中からうかがえる。いうまでもなくオカルトめいた事は一切述べていない。それは、大前提として踏まえねばならぬ。
 歯痛殿下の出典は、かの水木しげる妖怪大翁の『世界の妖怪大百科(講談社)』である。外科手術でも抗生物質でも中々退治出来ないようだ。ちなみにベルギー出身。
 本作は、冒頭で平成中盤……即ち十年以上前の話と断られてはある。それにしても、私の主観で恐縮ながらそんな妖怪……あれはもう、文字通りの妖怪だろう……に延々とつきまとわれている苦痛苦難は生涯忘れられないに違いない。余談ながら、歯痛殿下は本作とは全く無関係な別の作品へのコメントにも何度か引き合いに出した。負の有名妖怪だ。
 さておき、歯医者に限らず病院に当たり外れはつきものだ。いや、完全な外れならまだ良い。なまじ中途半端な腕があると、見切りをつけるタイミングを失いズルズルになり易い。心身の健康にかかわる話でズルズルは文字通りの致命傷になりかねない。
 これは単なる偶然だが、三十年ほど前になろうか。当時私が通っていた高校の教師が、ある学生の作文を教室で紹介した。即ちその学生の父親は作者とほとんど同じ経過をたどり、結果として亡くなった。つまり、作者が直面している難儀は決して大袈裟でも軽くもない。
 なににも増して真の苦痛は、それがまだ……少なくとも本作においては……完結していないという事だ。
 ご快癒に向けて読み進めたい。 

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