第16話

 サトウ先生との会話を通して得られた情報を元に早速、計画を練り始めた。3年後に自分の運命が決まっていると分かるだけで、人間はこうも単純に思考していた事を行動に移すことが出来るのかと心療内科医でありながら、人間の心と行動における関係性を改めて痛感した。革命の成否を握るのは、仲間集めが出来るかどうかだ。しかし、大胆な行動を起こすことは今の自分が置かれている状況を考えると難しい。何より、俺には多くの人を一度に動かす扇動力も無ければ人脈もない。俺に唯一残された希望は、心療内科医を診察することが出来る立場にいること。そして、俺が診る対象は、俺と同じような不穏分子になり得そうな心療内科医たちということだけだ。

 『まずは、自分の仕事で書かされる書類が何か?どういった手続きが必要なのか?そういった情報を入手することから始めることが最優先だな。恐らく、俺が今も生きているという事実があるということは、どこかに抜け穴になり得る可能性が残されているという事に違いないはずだ。』

俺はとりあえず、最初の3ヶ月ほどは情報収集に全神経を注ぐ事にした。


 心療内科医を専門に診る仕事と聞かされていたが、やることは一般人を対象に行うことと基本的には一緒だった。違いがあるとすれば、サトウ先生が俺に行った質問のように、最初から不穏分子ではないかと見なした状態で質問をぶつけていき、改善の余地がどれほどなのかを判断する。改善の余地ありと判断すれば、国の監視下において今の俺と同じような立ち位置になるか、運が悪ければ処分される対象になる。改善の余地なしと判断された人間は容赦なく処分されて終わり。この時点で最初に考えていた俺の計画は修正を余儀なくされてしまった。なぜなら、俺と同じように国の監視下に置かれた状態になったとしても、外出することは許されず、運動や娯楽、夜のお楽しみといった事まで全てが強制的に住まわされる住居の敷地内で完結するようになっていた。外部とコミュニケーションを取ることは可能であるが、国から支給されたスマホしか所有を許されず、手紙などの手段も必ず中身を確認され問題なければ発信される仕組みであった。つまり、不穏分子と見なされた心療内科医を利用して仲間集めをすることは非常に困難であり、実現不可能と言っても過言ではない状態であった。情報収集をして得られたものは希望ではなく、絶望に近いものであった。唯一の救いがあるとすれば、それは

『改善余地の判断は診療した医者自身に委ねられていること。

 改善余地ありと判断した場合、強制連行されるまでに手続きなどで1週間の期間が必要であること。

 診療中は基本カメラが回っている状態であるが、最初と最後に握手をするくらいの身体接触は問題ないと判断されること。』

これら3つの要素をうまく連携すれば、抜け道になり得るかもしれない。そんな藁をも掴むような非常に小さな可能性が残されているのではないか。そんな気分にさせてくれる要素があるという事実くらいだった。

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滲む世界 エセヒューマニスト @munetsu

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