第13話

 突然、現れた政府の使いの人たちに連れて行かれた場所にいたのは、テレビで見たことがある政治家だった。

「突然、押しかける形となってしまい申し訳ありません。既に使いの者から聞いているかと思いますが、先生には心療内科医を専門にメンタルチェックを行う仕事に就いてもらいます。これは打診ではありません。命令です。つまり、あなたに拒否権はありません。とはいえ、なぜ自分が?といった疑問はあるかもしれないので、質問は受け付けます。何か質問はありますか?」

急な展開で頭が追いついていなかったのは事実だったが、ずっと引っかかっていた疑問をぶつけてみた。

「私はメンタルチェックの時に、国を根底から変えようと考えた事がある人間だとカミングアウトしました。不穏分子として処理されるならともかく、なぜ、心療内科医を専門に診る仕事に?」

「やはり、そこが気になりましたか。一言でいうと、そういった考えを抱いたにも関わらず、改心されたことがメンタルチェックの結果から判明したからです。ただ、一度の検査では網の目をすり抜けている可能性も否定できないので、あなたには表向きは心療内科医専門のメンタルチェックという仕事をしてもらいますが、本当の狙いは、『どうすればあなたのような人間を出さないようにすることが出来るのか?』という研究を政府のためにやっていただきたい。言葉を選ばずに言うなら、政府の監視下にあなたを置かせてもらうという訳です。あなたにとって幸運だったのは、心療内科医として働いていたという事です。違った職業であったならば、今頃、処分されていたかもしれなかったんですからね。他に質問は?」

(やはり、そうだよな。一度でも、不穏なことを考えたことがある人間を野放しにするハズがないよな。少しでも安堵した自分がバカだった。)

俺は政治家の話を聞きながら、自分の人生の行く末が何となくではあるが、見えたような気がした。

「いえ、他には特にありません。これからは政府のために、私のような人間が生まれないための研究に没頭させていただきます。」

そう言いながら頭を下げた。

「非常に物分かりの良い先生でこちらも安心しました。サトウ先生の見立ては間違っていなかったということですね。」

「サトウ先生というのは、私のメンタルチェックを担当した先生ですか?」

「はい、そうですが。それが何か?」

「いえ、再度質問してしまい、すみません。」

この時、俺の頭の中に新しい疑問が生まれた。(なぜ、サトウ先生の名前が出てくるんだ?)

「では、話を進めますね。今からお話することは非常に大事なことです。一度しか言いませんし、質問は受け付けません。必ず、今から提示する二択のどちらを即決してください。心療内科医を専門に診る医師の皆さんも、これまでと変わりなくメンタルチェックは受けて頂く必要があります。しかし、政府の監視下にいる皆さんなので、受ける方法として2つの選択肢をご用意しました。選択肢1は、これまでと同じように年に1回の受診をしてもらいます。そして、もしも不穏分子であると認定された場合は、処分の対象となります。選択肢2は、受診回数が3年に1度に減ります。その代わり、もしも不穏分子であると認定された場合は、先生ご自身だけではなく、その家族、そして前回のメンタルチェックを担当した医師が処分の対象となります。まぁ、前回の医師が対象になる理由は、不穏分子となり得る存在を見落とした責任を取ってもらうという訳ですね。では、お聞きします。5秒以内にお答えください。あなたは、どちらの選択肢を選びますか?」

すると、政治家秘書が腕時計に目をやり、「5、4」とカウントを取り始めた。どちらにするか、普通だったら、もしもを考えて1年に1回を選択するだろう。しかし、なぜ3年に1度という選択肢が用意されているのかが少し疑問に思ってしまった自分がいた。その疑問を引きずってしまった影響なのか、俺は

「3年に1度でお願いします。」

という答えを口走っていた。この瞬間、政治家の顔が一瞬曇ったように見えた。

「かしこまりました。では、あなたは3年に1度の受診として設定させて頂きます。まぁ、変な気は起こさないと信じていますが、もしも3年後、メンタルチェックに引っかかるようなことがあれば、その時はあなたの大切な人も、あなたのせいで犠牲になってしまう人がいること、あなたのせいで犠牲になった人にとって大切な方々が悲しむ結果になるということを決して忘れないでくださいね。では、以上で話は終わりです。これから秘書のものが、あなたの仕事場になる場所まで案内しますので、この後は秘書の言う通りに行動をお願いします。」

そう言い残して政治家は部屋を後にした。

「では、先生。仕事場までご案内します。」

俺は、なぜ3年に1度など口走ってしまったのかと自分を責めていた。もしかしたら、まだ心の奥底では、親友であり幼馴染のタケオを国に殺されたことを恨んでいて、革命を諦めていない自分がいるのかもしれない。そんなことを思いながら秘書の後に続いてた。

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