第12話

 検査を終えて結果が届くまでの1週間は正直、生きた心地が全くしなかった。毎日、寝る前に考えていたことは、もしも検査で不穏分子と認定されてしまった場合、どうやって収容される前に命を絶つか。この一点だけだった。俺は、少しでも不安から解放されるためにガムシャラに働いた。仕事に没頭している瞬間だけ不安から解放されていたからだ。たまに職場の先輩から

「お前と会えるのも後少しかもなー。せっかく出来た後輩と会えなくなるのは寂しい限りだよ。」

と冗談めいたことを言われる度に、俺はどん底へと突き落とされる感覚に陥っていた。

 そして、とうとう地獄から解放される瞬間が訪れた。検査結果のメールが届いたのだ。

「これで俺の将来が決まる。」

そう思うとメールを開封する勇気が無かった。メールを開くことも出来ず悩んでいると、突然、家のチャイムが鳴った。インターホンのカメラに映し出されたのは、ビシッとスーツを着込んだ男二人の姿だった。その姿を見た俺は確信した。

『あー、検査結果がダメだったんだな。どうせだったら、自分が招いた現実の結果は自分の目で確認しよう。』

そして、俺は開けずにいたメールを開封した。


『メンタルチェックの検査結果をお伝えします。

検査の結果、あなたは特に問題ありませんでした。

おめでとうございます。

次回の検査はまた来年になります。もしも、それまでの間に不安に思うことなどあれば、最寄りの心療内科へ行き、早めの受診をお願いします。』


メールを確認した俺は、一度読んだだけでは理解が出来なかった。

『俺は問題なし?だとしたら、今玄関前にいる人たちは誰なんだ?』

様々な疑問が頭の中を駆け巡っていた。そして、再度インターホンを鳴らす音が聞こえた。俺は恐る恐るドアを開けた。

「はい、どちら様でしょうか?」

「私たちは政府のものです。あなたに政府からの要望をお伝えに参りました。」

『政府が俺に何の用件が?俺は検査で問題ないと判断されたんじゃないのか?』

いくら考えても答えの出ない問いを考えるのに疲れた俺は、玄関のドアを開けた。

「お待たせしました。政府の用件とは具体的には、どんな内容でしょうか?」

「あなたにはぜひ、心療内科医を対象としたメンタルチェックの専門医として働いて頂きたいと思っています。これは政府からの命令で、あなたに拒否権はありません。既に職場の病院には話を通してありますので、ご心配なく。今から私たちと一緒に来て頂きたいところがあります。5分だけお待ちしますので、出かける支度を整えてください。」

そう言うと、二人組の一人が時計に目をやり「残り5分」と勝手にカウントダウンを始めた。状況が全く飲み込めなかったが、俺はとりあえず急いで支度を整えて彼らに付いていく事にした。

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