第10話

 メンタルチェックの仕組みは思ったよりも簡素な作りだった。100個の質問に対して、[Yes or No]の二択で回答していくだけ。たった、これだけだったのだ。このメンタルチェックの目的は恐らく、国民の心理状態を把握し、国の制度や仕組みに不満を持っている人間がいる場合は、早めに不穏分子の芽を摘んでおくためだろうと推測できた。つまり、このメンタルチェックと心療内科医という立場を利用することで、革命に共感してくれそうな人間を見つけることが出来るというわけだ。

「俺の予想通りだったな。革命に共感してくれ、かつ有能な人たちを仲間にすることが出来れば俺の計画を現実のものにすることが出来るかもしれない。」

そして、これは俺の予想外のことではあったが、心療内科の仕事は短時間で終わる業務ばかりであり、プライベートの時間を確保することが非常に用意だった。ただ一つ問題だったのは、俺が来月のメンタルチェックで不穏分子と認識されないように回答する術を見つけることだった。先輩医師が言うには、精神科医がメンタルチェックを受ける場合は、一般の人たちが受けるよりも何倍も詳細なメンタルチェックが課せられるらしい。しかも、過去何人もの医師たちが不穏分子として認定され、処分されているという噂を耳にした。心療内科の医者が少ない理由は、不人気だからという訳ではなく、毎年一定数の医者たちが排除されているという事実があったのだった。誰だって死ぬことは怖い。それは医者だって同じだ。自分の意志を貫いて革命を起こすことと、不穏分子扱いと認定され排除されてしまうことを天秤に掛けた時、どちらが賢明な判断なのかは、医者ではなくても分かる、非常に簡単な決断だった。

「お前はバカな選択をするなよ。これまで処分されてきた医者は、全員、急に異動願いを出してきた人たちだ。つまり、お前が考えていることと恐らく同じことを考えて、心療内科に移ってきた連中ばかりだ。そして、その野心を見抜かれて国に処分されてしまった。今の日本を作った連中は、人間の心理を完璧に把握し、何重にも網を張り、国家を守る術を見つけた天才たちってことだな。お前がそういったバカな連中と一緒ではないってことを信じているよ。」

そう言い残して、先輩医師は仕事に戻っていった。

「やっぱり、一筋縄ではいかないよな。」

一筋の光が見えたと思ったのもつかの間、俺はまた大きな問題にぶち当たってしまった。


 そして、何一つ打開策が見つからないまま、時間だけが無情にも過ぎていき、あっという間に1ヶ月が経過し俺がメンタルチェックを受ける日がやってきてしまった。俺は指定された病院に向かい受付で手続きを済ませ、名前が呼ばれるのをじっと待っていた。

『もしかしたら、今日で俺の人生は終わってしまうかもしれないな。人間の深層心理なんてものは簡単には変わらない。それは医者である自分が一番よく分かっていることだ。きっと、今日の検査で不穏分子として認定され、俺は処分されてしまうのだろう。こんな事なら、バカなことは考えずに、ただ毎日を楽しく生きる事に費やしていれば良かったなぁ。そもそも、タケシと出会ってさえいなかったら、俺はあそこまで『ドレイ』の存在に意識を向けただろうか?いや、向けなかっただろう。自分には関係ない、『ドレイ』にならずに済むよう努力していた良かったと思って終わりだったに違いない。チクショー、本当に俺はバカだった。』

待合室で待っている間、俺はこれまでの人生を振り返っていた。

「番号40番でお待ちの方、3番診察室にどうぞ」

とうとう俺の番号が呼ばれ、俺は重い足取りで診察室に向かった。その扉はまるで、地獄への入り口にも見えた。

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