第9話

 『ドレイ』の実態、今の日本が世界最先端の医療を確立できた裏側など影の一面を知った俺は、この社会を正さなければならないと思うようになっていた。しかし、この社会をどのように正せば良いのかというアイデアが浮かんでいる訳でも無かった。また、もしも俺が『今の日本は間違っている』と声をあげたとしても、多くの人々は今の生活に満足しているだろうし、医療に関わっていない人たちは、『ドレイ』を使った人体実験が行われている事実は知らされていない。その結果、急に頭がおかしくなった人間が現れたなぁという程度で認識され、俺は何処かの収容施設に匿われて終わりになってしまうだろう。

『もしも、革命を起こそうと思うのであれば、綿密な計画と仲間となってくれる存在が必要不可欠だ。俺が医者であることを上手く利用することは出来ないだろうか?』

 しかし、まだ研修医レベルの俺は日々の仕事に忙殺されており、計画を考えるような余裕がある生活は送れていなかった。それに、もしも時間を確保するために仕事を辞めれば、『第二の選別』時には基準となる納税額を納めることが出来ず、俺自身が『ドレイ』になってしまう可能性だってある。

「本当によく考えられている制度だよ、この選別システムは」

俺は八方塞がりとなってしまっている現状に頭を抱えるしか無かった。


 突破口が見つからないまま、俺は研修医としての日々の業務に忙殺されていた。そんな時、国から一通のメールが届いた。タイトルには、【メンタルチェックの受診日時について】と記載されていた。中身を開くと、

『納税者のみなさまへ。

 毎年、必ず1回の受診が義務付けられているメンタルチェックの期日をお知らせいたします。下記に記載されている日時に、必ずメンタルチェックの受診をお願いいたします。こちらは法律で定められおり、もしも受診を拒否される場合は、次回の納税額の基準値が100倍となります。

 健康はお金よりも大切なものです。心と身体は密接に繋がっております。1年に1度、自分自身を見つめ直す機会にもなりますので、必ず受診されるようにお願いいたします。』

と記載されていた。このメールを見た瞬間に、俺は叫んだ。

「このメンタルチェックこそ、突破口になり得るかもしれない。」

俺は早速、メンタルチェックを受けるための手続きを済ませた。そして翌日、勤務している病院に心療内科に転向したい旨を申し出た。突然の転向だったため、何か言われるかと思ったが、心療内科はあまり人気のない分野で、医者不足が心配されていたこともあり、すんなりと受理された。100年前の日本は精神的に病んでしまう人がかなりの数いたと研究論文で読んだことがあるが、現在の日本は犯罪も無く、他人を傷つけるような人間は存在していないためか、心を病んでしまう人は、ほとんど皆無だった。そのため、心療内科の医者たちの仕事は、この納税者に義務付けられているメンタルチェックの仕事くらいしか無かったのだ。

 手続きが完了した日から、俺は心療内科に配属となりメンタルチェックの業務にあたる事になった。俺が受診する日は来月となっていたため、まずは業務をこなしながら実態把握に努めることにした。

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