第8話

 タケオが『第一の選別』で『ドレイ』へとなってしまってから4年。俺は、研修医という形ではあるが、初めて給料を貰い納税を行った。その数日後、一通のメールが国から届いた。そこには、とあるサイトのURL、それに俺のIDとパスワードが記載されていた。納税記録を確認するためのサイトかと思い、俺はそのサイトにアクセスをした。すると、注意として


『このサイト上で観たこと、知り得たことを未納税者に話すことは法律上で禁止されています。もしも、未納税者に話した場合、あなたは法律違反により死刑になります。ご注意ください』


この文言を読んだ時、俺は中学時代に社会教師がはぐらかせたドレイの存在を思い浮かべた。今の日本において未納税者といったら学生しかあり得ないからだ。俺は恐る恐る注意書きに同意した。すると、サイト上には俺の予想通り、ドレイに関する情報が転がっていた。その中で、気になった【ドレイの日常】というタイトルが気になったので、クリックしてみた。すると画面上に、

『【ドレイの日常】

1. 食事は1週間に1回。

2. 休憩時間は存在しない。

3. 就寝時間は1日90分のみ。

4. 倒れた時点で、使えないと認定し廃棄とする。

5. 名前はなく、番号で呼ばれる。』

というテロップが流れたあと、ドレイたちが劣悪な環境の中で、働かされている映像が映し出された。倒れた人間には誰も手を貸さず、ロボットが回収に来るだけ。昔、社会教師が言っていた、ここには人権という概念は存在しておらず、ドレイにとっての夢と希望は『1秒でも早く死ぬこと』という言葉の意味をようやく理解した。同時に、親友で幼馴染のタケオは既にこの世にはいないであろうということも想像出来た。こんな環境下で働かされたら、どんな健康体の人間でも1ヶ月も経たずに死んでしまうだろう。サイトには他にも様々な動画が載せられているようだった。【金持ちに買われたドレイの一生】【初めてドレイになった瞬間の表情集】など、タイトルを読んだだけでも苛立ちしか湧いてこないような内容ばかりだった。その中で、自分の目を疑ったのは、医療系の人限定という項目があったことだ。医療系の人しか見られない項目が、こんなサイト内にある時点で悪い予感しかしなかったが、俺は意を決してクリックした。そこに掲載されていたのは、倫理上の観点で禁止されている人体実験が『ドレイ』を使って行われている映像と医療データの数々だった。世界最先端の医療を支えていたのは、悪魔の所業といっても過言ではない決して表には出せない事実だったのだ。ページから抜けようとした時、画面上に映ったのは、

『人類の発展は、決して表には出てこない悲惨な犠牲の上に成り立っていることを忘れてはいけない。しかし、我々人類が更なる発展と進歩を遂げるためには、この先も多少の犠牲を払い続ける必要があるのも、また事実。我々、医者は現在の人間の命一つを犠牲にする代わりに、未来の命を2つ以上救うことを自分自身に約束しなければならない。』

『日本にとって不要であると認定されたドレイ達は、影で人の役に立っていますよ。』俺には、このサイトを訪れた医者が心を病まないようにするために並べられた詭弁にしか聞こえなかった。ただ、もしもタケオという存在がいなかったとしたら?俺は日本という国がとても素晴らしいものに映っていただろうから、この詭弁に上手く乗せられていた可能性が多いにあるだろうとも思った。

 この事実を誰かと共有したかったが、注意書きにあった言葉を思い出した。『未納税者に話した場合は死刑』という注意書きだ。20代半ばだからといって、今もしっかりと納税しているかどうかは確認の仕様がない。もしも、生きる事に疲れて働くことを放棄していたとしたら?働いてはいるが、納税することを放棄していたとしたら?どちらにせよ、話すことのリスクが大きかった。おそらく、日本はこのように悲惨な現状を共有する手段を強引に封じ込め、この状況を自分自身が納得させることが出来るように、様々な動画をアップしている。なぜ、納税額の基準が最低賃金にしていたのか、中学生時代から疑問であったが、その謎も解けた気がした。あえて最低賃金に設定していることで、『最低限の義務を果たしていない人間が悪いのだ。』と自分自身を納得させる理由を用意しているのだろう。更には、最低限の義務さえ果たしていれば、少なくとも自分は安全な環境で生活することが出来る。仮に、その生活に疲れて暴動を起こそうと考える人間が出て来ることを見越して、30歳で『自殺』することを国が許容するという非常識な道を用意しているのだろう。人間は複雑すぎること、頭で理解しきれない現実に直面した時、考えることを放棄し、最も簡易的に導ける答えにすがろうとする。そんな習性を上手く利用しながら、国にとって使える人間だけを効率よく残していく制度を作り上げていた。

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