第5話

「よし、じゃあ最後の犠牲に関する部分について話していこうか。」

そう言うと、社会教師は一度、大きな息を吐いて心を落ち着けているようだった。俺たち生徒は、その仕草により一層の恐怖を煽られ、これから知らされる事実に怯えていた。

「最後の犠牲、それは20歳以上の国民全員が対象だ。ただ、高齢者や犯罪者の時とは違う。彼・彼女らは有無を言わさず、ただその対象だからという理由で排除された。20歳以上の国民は、年齢によって、基準とされるものが違っていた。20歳の時が最初の選別、通称『第一の選別』と今でも言われている事だ。この基準は、『大学生もしくは就業し納税しているかどうか』この観点で判断される。百何十年も変わらず存在している日本国憲法に記載されている国民の義務を果たしているかどうか。この観点で選別が行われる。もしも、この選別で基準を満たしていなかった場合、国民ひいては人間としての尊厳を剥奪され『ドレイ』として扱われる。2100年にもなって『ドレイ』という制度を公にしているのは、日本だけだろう。ドレイとなった場合は、もう人間ではないと国が見なすため、何をされても文句は言えない。正確には文句は言えるが聞く耳を持ってくれる人は誰もいない。ドレイは主には国が抱えるが、一部には大金持ちの観賞用だったり遊び道具のような扱いを受ける場合もあるらしい。詳しくはまだ君たちには教えられない決まりとなっているが、とりあえず夢や希望があるとすれば、それは『1秒でも早く死ねること』なんだと思う。

 次が30歳の時、通称『第二の選別』。この時は、全員に自殺薬が配られる。つまり『死ぬ権利』を国が認めているという訳だ。もしも、この世の中で生きていく事に疲れたなら死んでくれて構わないという事だな。生きる気力もない人間に生きられても国として迷惑だと宣言しているようなものだろう。そして、国民の義務である『納税』の義務をここでは基準として判断される。30歳までに累計での納税額が一定額に満たしていない場合、無能な人間だと判断されて自殺薬を手に入れる前にドレイとして収容される。次の選別は40歳の時、通称『第三の選別』。この時も、30歳の時と同じく、基準の納税額に達しているか否か。これが基準となる。もしも、基準額に満たしていない場合、国はその人間を強制的に死刑にする。40歳にもなると、身体も衰えるからドレイとしても使えない、稼ぐ力も無い、無能な存在と国が認識するんだろう。そして、次が最後。50歳の時に行われる通称『最後の選別』。この時の基準は100年前の日本には存在していない国民の義務である『子供を育てる義務』だ。50歳の時点で、戸籍上に子供が2人以上いるかどうか。子供がいない場合は、国として用済みだと判断され死刑となる。この最終の選別を通過した人たちだけが自分の人生を思い通りに最期まで生き抜くことができるという訳だ。」

「僕たちが生きている『日本』という国は、どれだけ人の命を軽く見ているんですか?大膳という男は何様なんですか?」

生徒の一人が怒りに震えながら声を荒げた。

「お前の怒りも最もだと思うよ。」

教師はなだめるように声をかけた。

「こんな国なら世界に出て行った方がマシじゃないですか」

また、別の生徒が声を発した。

「そうだな。日本を飛び出るという選択肢もある。別に江戸時代の日本ではないから国を出ることは今の日本も禁止はしていない。ただし、一度出国をした場合は二度と入国は出来ないようにはなっていることだけは覚えておけよ。旅行は認められているが、50歳になってからだ。パスポートは何歳でも作れるのに、旅行は50歳になってからしか出来ない。よく分からない制度だよな。国としては、日本が嫌なら出て行って構わないという意思表示なんだろう。ただ、この50年近く日本を出て行った日本人は一人もいないんだ。なぜだと思う?」

「日本が海外よりも暮らしやすいからですか?」

「そうだ。基準とされている納税額も非常識な額ではない。普通に働いていれば稼げる額に設定されている。普通というのは、最低賃金というルールがあるんだが、その額に設定されているという意味だ。そして、医療が大きく進化したことや法整備が進み代理出産という手段も一般化している現在においては子供を持つという事が全ての人間に可能になった。犯罪を犯さなければ殺される事もない。つまり、今の日本は、ちゃんと勉強して、人に迷惑を掛けず、ちゃんと働いてさえいれば何一つ不自由ない生活を送ることが出来る国なんだよ。日本の秩序を乱す恐れがある存在を常に見つけるための網を張っているだけに過ぎないんだ。無駄な人間が存在しないから、国は税金を医療や技術分野に多く投資することが出来る。その結果、世界で最も医療と技術が発達している国になった。地球を見回した時、最も裕福で安全に暮らせる国が『日本』なんだ。分かったか?なんで今、しっかりと勉強しておく必要があったのかが」

「第一の選別の時、大学生でいることができれば20歳の選別はクリアできるから。もし大学に進学しないとしても就職できるだけの常識がないと『ドレイ』になってしまうからですよね。」

「その通りだ。『最初が肝心』というわけだな。だから、勉強をした方が良いと学校や親は口を揃えてしつこく言ってくるんだよ。進学も就職も出来ないようなアタマじゃ日本では生きることが出来ないから。」

ここまで言うと教師は再度、一呼吸置いたあと、

「最後に、この選別はすでに一般化した今の日本だから問題ないように聞こえるが、この選別が制定された当時は、かなりの日本人が犠牲になったと聞いている。ただ、何度も言っているが当時の日本人は『人が死ぬ』という事に慣れ過ぎていたし、国民の義務を果たしていない人間は死んで当然だという意見が大半を占めるような異常性があったためか、多くの国民が反対しなかったという事実を忘れないように。」

そう言うと、社会教師は「今日の授業はここまで」と言って教室を後にした。

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