第4話

「こうして、大膳は高齢者を日本から消した。今お前たちがこうして生きている過去には、数多くの尊い犠牲があった事は忘れるなよ。しかし、人間は本当に愚かな生き物だと俺は思うよ。他国との戦争で核兵器を使い一瞬にして命を奪うのも、高齢者の命を奪ったのも、どちらもやった側は『正義』という大義名分を掲げて自分たちの行為を正当化しているに過ぎない。人間の歴史は、大量殺人という事実を尊い犠牲と言い換えて、人の命を奪い続ける繰り返しだって事だ。もし、お前たちが今の日本に違和感を感じて行動を起こし社会を変えたとしても、いずれ誰かの手によって、また『尊い犠牲』の上に社会を塗り替えられてしまう。それでも、やる価値があるのかどうか?あると思うならば行動を起こせば良い。人はこの先もずっと、歴史を知ることはあっても学ぶ事は出来ないだろうから。少し話が逸れたから戻そう。高齢者を消した後、総理大臣となった大膳が次に排除したのは犯罪者だった。今の時代は、軽微な罪以外は全て死刑となっているが当時の日本は、死刑制度はあったが死刑と裁判官から宣告されるには、かなり高いハードルがあったんだ。懲役刑で数年から長くても十数年を刑務所と言われる場所で過ごせば社会に出てこれた。だから再度、犯罪を犯してしまう人間もいたし、抑止力も今よりかなり弱かったために犯罪がなくなる事は無かった。そのせいで真面目に生きている人間が住みづらい社会だったに違いない。『犯罪者にも人権はある』この考え方が大きな壁となり、犯罪者とはいえ簡単に死刑にするなんて出来なかったんだろう。この決断をした時も人権論争が起こったらしい。ただ、もうこの法案を通す時には高齢者はいない。つまり、刑務所に入っている犯罪者の半数以上の親はいなかった。兄弟や子供などの親族はいただろうが、犯罪者の身内というレッテルに苦しめられている人たちの方が多かったのだろう。論争は起こったが、結局は大きなデモを起こすといった行動を起こす人間がいなかったし、犯罪者がいなくなる事で世の中が平和になるなら必要な犠牲なんだと心の底では国民は納得していたのかもしれない。この瞬間、『日本は犯罪を犯せば即死刑』という国に生まれ変わった。高齢者が一気になくなった影響もあったのか、人が死ぬという事に国民が慣れるという異常な時代だったのだろう。大膳という男にとって、国民の大半は排除すべき存在として映っていたんだな。これで犠牲が終わったと思ったか?実はもう一つ、大きな犠牲が存在している。俺がこの授業の最初にちゃんと聞けと再三に渡って言っていたのは、まさに今から話す最後の犠牲となった対象に現在の日本人もなり得る可能性が残っているからなんだ。この話を聞けば、なぜ勉強をした方が良いのか?その答えがハッキリするからな。」

そう言うと、社会教師は「少し休憩」と言って教室を出て行った。あまりに衝撃的すぎる歴史に加えて、自分たちも犠牲になり得る可能性が今もあるという事実に、多くの生徒が喋ることもせず黙って座っている事しか出来なかった。

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