第2話

社会教師は、ゆっくりと語り出した。この100年の間に日本に起きた壮絶な物語を。

「少子高齢化という世界のどこにも前例がない人口形態に突入した日本。この時、経済が右肩上がりの急激な成長をしていれば、もしくは平均寿命が150歳で80歳は元気に働けるような身体だったなら、これから話す悲劇は起きなかっただろう。ただ、現実は甘くない。今、俺が言ったようなタラレバが起きるわけもなく、日本はとりあえず、とりあえずと延命措置のような対策を打っていくしか出来なかった。いや、もしかしたら故意に打たなかったのかもしれない。なぜなら、当時の投票率は常に過去最低を下回るような時代だったし、投票する年代は圧倒的に高齢者が占めていた。そうなると国会議員は当然、票欲しさに政策を高齢者にシフトしていく。若者に良い顔をしたところで、投票してもらえないんじゃ当選できないからな。また、国家公務員なども日本という国がそう簡単に潰れる事はないと思っていた。とりあえず、自分たちが現役のうちは日本は持つだろうと。将来の事は、将来世代に託せば良い。国は簡単には潰れないから、自分たちの子供が公務員になってくれさえすれば、極論言えば他の国民がどうなっても関係ないと思っていた役人もいたかもしれないだろう。とにかく、高齢者が生活できるように国を回していたんだな。それによって若者や働き世代は将来に対する安心感もなく、ただただ働き続ける事を余儀なくされた。その場しのぎの対策しか出来ていないから結局は、高齢者に対する国の負担が減ることもなく、年々、社会保険料などの支出が増え続け、国は目に見えて疲弊していく結果となった。そして、日本全体がオリンピック不況も重なり、多くの国民が疲れ切っている時に、日本を根底からひっくり返る大事件が起きた。今は事件と認識されているが、昔は事故として認識されていた。」

すると、一人の生徒が質問を投げかけた。

「なぜ、最初は事故と処理されていたのに、事件と認識されるようになったのですか?」

「良い質問だね。それは、この大事故が起きてから50年も経ってから当時の関係者が事実を公表したからだ。」

「50年後ですか?50年も隠せていたのなら、あえて公表する必要は無かったと思うんですが、なぜ公表するに至ったのですか?」

「正確な理由は今もなお明かされていないし、当事者はすでに亡くなっているから確認する事はできない。これは、あくまで私の仮説だが、事実が公表された50年前は、今の日本を支えている法律の中で、一番新しい法律が成立した年でもあるんだ。その法律を最後に、この50年間は一度も法律が改正されることもなければ、新たな法律が出来る事も無いんだ。発表した人間からすると、この最後の法律を成立させることで、目標としていた理想の日本が出来上がったのかもしれない。そして、歴史の中でうやむやにされていた大事故が、真面目に生きている人にとっては理想とも言える日本を作るための必要な犠牲であったと明かすことが最後の大仕事だったのかもしれないね。」

ここまでの話をしたところで、多くの生徒が話に引き込まれている様子だった。一体、100年前にある人物が起こした大事件とは何だったのか?

「じゃあ、みんなの興味がある程度、引けたところで話の核心に触れていこうか」

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