滲む世界

エセヒューマニスト

第1話

「えー、今日は教科書199ページからだったよな。今日やるところはテストに出すからなー、しっかりと聞いておかないと後悔するぞ。ここは、中学3年生になって初めて教えることが許可されている部分だからな。あとで、聞いてなかった、知らなかったなんて言い訳しても遅いからな。俺は、ちゃんと伝えたからな。」

 社会科の教師が今日もつまらない授業を始めた。親も学校も、何かにつけて『勉強しろ、勉強しろ』と口うるさく言ってくる。俺だって、勉強が出来ないよりは出来た方が良いことくらい分かっている。ただ、今やっている勉強が将来、何の役に立つのか?これが全く分からないから勉強する気が起きないだけなんだ。これはもう、勉強しない俺が悪いのではなく、勉強する気にさせてくれない学校や社会が悪いのではないか?そんな事を考えながら授業を聞いていた。しかし、こんな事を考えていた5分後、俺は必死に勉強しなければならない理由を初めて理解した。


 今日の社会科の授業は近代史だった。今が西暦でいうと2120年だから、教師が話している時代は百年くらい前の時代か。当時の日本は、東京でオリンピックが開催されるなど明るいニュースもあったようだが、少子高齢化、消費税増税、借金大国に経済成長も低迷するなど、どちらかというと暗い話題ばかりが世間を包んでいるようだった。特に問題視されていたのが、少子高齢化による問題だったようだ。世界的にも類を見ない早さで進み、どの国も直面したことがない問題だったらしい。経済成長も停滞しているため、個人消費も伸びない。経済が伸びないから、賃金も増えず、自由恋愛の負の側面なのか、結婚する人も増えず、とにかく日本は子供がどんどん減っていく社会構造になってしまったらしい。逆に、医療の進歩により人間の寿命は伸びる一方となり、高齢者比率が大きくなってしまったらしい。そして、企業はより税金が安い国へ収益を逃したりするなど税法の抜け道を狙い、節税の限りを尽くしながら世界の名だたる企業と切磋琢磨しながら成長を目指していた。様々な要因が重なり、日本という国は収入よりも支出が圧倒的に多くなり、借金大国となっていたらしい。

『今の日本では考えられないような時代だな。当時の日本人はよく、こんな悲惨な現状でも生活していたもんだな。しかし、こんな悲惨な状態だったのに、よく日本は生き残ってるなぁ。やっぱり、ちょっとやそっとじゃ国は崩壊しないということか』

俺は今日、発売されたばかりの漫画を教科書の中に隠して読みながら、社会教師の話を片耳で聞きながら、当時の日本人を不憫に思っていた。ただ、2120年の日本に借金がいくらあるのか、年齢別の人口比率がどれくらいなのかは全く知らなかった。


「ここからが、お前たちが初めて聞く歴史だ。本当に大事なことだから、しっかり聞くように。テストに出る出ない関係なく、絶対に聞くように。この歴史は、お前たちがずっと疑問に思っている『なぜ、勉強しなければならないのか』に対する答えにも繋がるはずだ。」

生徒に対して、もう一度釘を刺した後、ゆっくりと歴史を語り出した。



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