その2 同じの人、違う人

 アタシは弟2人の手を引いて、大きな駅の中を歩いている。

 毎日毎日朝になると駅に来て、1日中うろうろしている。夜になると帰る。

 弟たちは小さいから、すぐに疲れて座りたがる。


 列車が来ると列車から降りてくる人の側に近寄って、何かちょうだいと頼む。何かもらう為にアタシ達はここに来ている。

 同じの人はいっぱいいて、ちょっとのお金をくれたり食べ物をくれたりする。でも、怒鳴ったり、叩かれたりすることもある。なるべくそういう人には近付かないようにする。綺麗な布をいっぱい巻いているオバさんたちは優しかったり、すごく優しくなかったりする。


 違う人はたまにくる。違うのは布の巻き方だったり、服だったり、顔の形だったり色だったり。違う人の中でもいろいろ違う。

 違う人でも綺麗な人はお金をいっぱいくれたりする。頭を撫でてくれたりもするけど、お母さんがたまにしてくれる方が気持ちが良い。色々話しかけてきたりするけど、何を言っているのか分からない。弟たちも分からないみたいでキョトンとしている。お金をくれる人はお金だけくれれば良いのにといつも思う。

 違う人で、あまり綺麗じゃない人もいっぱいいる。あまり綺麗じゃない人は、あまり何もくれない。お金もあまりくれないし、食べ物もあまりくれない。ああいう人達は甘いチョコレートを持っているのをアタシは知っている。だから頂戴ってたまに言うけど、ほとんどくれない。あまり綺麗じゃない違う人はケチだ。



 ある日、あまり綺麗じゃない違う人が1人で列車から降りてきた。アタシ達はしばらくその人を遠くから見てた。ベンチに座って、その横に大きな赤いカバンを置いていた。

 列車がどこにもなくなっちゃったから、アタシ達はその違う人に近付いていった。違う人は全然気が付いてなかった。何かくれって言って手を出した。

 違う人は驚いてこっちを向くと、アタシと弟達をジロジロ見た。それから困ったような顔をして、どっか行けって言った。やだ、何かくれって、また言った。また、どっか行けって言われた。何かくれるまで、どこにも行かない、お金がないなら食べ物をくれって言ったけど、アタシが何を言ったか分からなかったみたいだ。

 違う人は、どっか行けだけを繰り返してた。それしか言えないみたい。


 アタシは弟の口の前に手を持って行って、食べさせる真似をした。違う人は嫌そうな顔をしたけど、赤いカバンの中に手を突っ込んだ。赤いカバンから黄色いに茶色の模様が入った箱が出てきた。箱を開けると銀色の袋が入っていた。その袋を違う人は指で摘んでアタシの差し出した黒い手の中にポトンと落とした。

 アタシはその袋を開けると、薄い黄色の四角い塊が2つ入ってた。一番下の弟がそのうち1つをいきなり取って口に入れた。違う人は何だか慌てている。水、水って繰り返していた。

 下の弟は、しばらくして泣き出した。それから咳をして、口に入れたものを吹き出しちゃった。アタシは勿体無いから大きな塊を拾って口に入れた。甘くて美味しいけど、すぐによだれが全部なくなった。弟はこれが嫌で泣いたんだって分かった。あと、違う人が水って言ってたのも分かった。アタシ達の水はさっき全部飲んじゃった。また、駅の水飲み場に行って水を汲まないといけない。誰かに見つかると怒られる。今は人が多い時間だから嫌だなぁと思っている間も、弟は泣き続けてる。上の弟は残った1つを勝手に取って少しずつ食べてる。ニコニコしている。半分はアタシの分だから、って取り上げたら上の弟も泣いた。


 違う人は少し笑って少し困った顔をして、もう1つの銀の袋もくれた。あと、水もくれた。アタシ達は、それをもらった。

 それから違う人は、行けってまた言った。


 アタシは弟達の手を引いて、そのベンチから離れた。弟達はやっと泣き止んだけど、グズグズしてあまり早く歩かない。

 次の列車はいつ来るんだろうな。

 後ろを振り返ると赤いカバンが遠くに動いて見えた。

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