第8話 ダンジョン踏破報酬
酒のせいで頭は痛むが、身体能力は一切落ちていない。やせ我慢をしているわけでもなく、恐らくこれはスキル「ステータス保持」のお陰だろう。
状態異常を防ぐことは出来ないが能力は落ちない。これもダンジョン攻略に少しは役立ちそうだ。
不安げに佇んでいるトールとシーラに声を掛ける。
「二人とも、帰る場所が無かったんだよな」
「そうだよ……悪いんだけどシーラだけでもお願いできない? ボクは自分でなんとかするから」
「この草原で? 街までは歩いていくのは無理だし、魔物も居るぞ」
「ううぅ。けど頼る人なんて居ないし……」
トールは勝ち気な印象だったが、姉妹思いな所もあるようだ。
俯いていたシーラが絞り出すように大声を出す。
「あ、あの! お兄さん!」
「お、おお。どうした?」
「私とお姉ちゃんをこの部屋に住まわしては貰えませんか!? お母さんに教えてもらったので家事は出来ます! お願いします!」
勢いよくシーラが頭を下げる。震える肩は恐れからだろうか。草原の魔物、身寄りのない子供の人生、どちらも比べられないほど恐ろしいものだ。
「俺はこの地の領主だ……領内にごろつき共を通したのも俺の責任。だから責任を取って二人を領民として迎え入れるよ。良い暮らしは保証できないが」
シーラの顔がぱあっと明るくなる。
「お願いしますお兄さん! 頑張って働きます!」
トールも少しこわばっていた顔を綻ばせる。
「ありがとうアンリ。いや……領主様って呼んだほうがいいの?」
「いやアンリでいい。領主って言っても城も無いし、領民もこの部屋に居るだけで全員だからなあ。これから村を開拓って所だな」
「なにそれー。けど何だかワクワクするね。一から村を作るなんて初めてだよ」
トールはその場でアグラを掻き、年相応の笑顔を見せる。シーラもお淑やかにトールの横に横座りになる。
大人しく座っていたガブリールが、シーラに近づいて頬を舐める。
「わあ! お兄さん! 狼が! 狼が!」
「ガブリールは顔を舐めるのが好きだな。なんか味でもするのか?」
ガブリールもエルフの姉妹を気に入ったらしい。顔を舐めるのも群れに加えていいという意思表明だろう。多分。
「俺を暗殺しようとする馬鹿兄上たちも居るし、まずは力が必要だ。それと俺たちが安全に暮らせる村を作る。その為には──」
力をつける。草原の魔物を狩って村を作る。そして領民を守る。単純明快な答えだ。
その為にはダンジョンに潜る必要がある。
石碑に近づいて触れる。死亡回数は変わらず7。踏破するまでにどれだけ増えるだろうか。
トールが興味津々な様子で、俺の肩越しに石碑を覗く。
「ねえアンリ。この石碑って何なの?」
「これは古代人とやらの遺物らしい。今俺はダンジョンに潜ってるんだが、それの情報が色々と載っているんだ」
「魔術的な物なのかな? ふうん……おりゃ!」
トールが勢いよく石碑に触れる。すると画面が見たことのない文字で埋め尽くされる。
目に入るのは報酬の一覧。延々と続いており、指でなぞると色々な項目が目に入る。そのうちの一箇所を見て目を見開く。
「始まりの試練」踏破報酬
初級食料素材 20DP
初級鉱石素材 20DP
初級錬金素材 30DP
「何だと!? これは!?」
驚いているとシーラが俺の横に来る。
「ダンジョンって凄いですね。他にもこんなダンジョンが有るのですか?」
シーラの問はもちろん否だ。人外の知恵を持つ魔物が、独自のダンジョンを持つことは有る。
冒険者がダンジョン主を討伐し財宝を手に入れて、一財産を成すことだってありふれた話だ。
だがこんなダンジョンは無い。そもそも死んでも入り口に戻されたり、アイテムが消えることなどあり得ない。さらに報酬が選べるなどと言うことも。
「あり得ない……だが今は頼るしか無いか」
「あのお、お兄さん?」
「あ、ああ悪い。このダンジョンは変わってるな。さすが古代人だ」
さすが古代人。さすこだ。
ダンジョン内の魔境っぷりからして、相当に性格が悪い奴が作っているのだろうが、ご丁寧にも報酬は俺たちにピッタリだ。
むしろ「俺たちに合わせて報酬を用意している」とも考えられる。この迷宮に俺を誘い込んで、何かをさせようとしているのか?
考えても答えが出るものではない。行動あるのみだ。
「ああー、うん。傾聴!」
号令を取ると皆が俺の前に集まる。
「俺はこれからダンジョンに潜り、開拓のために必要なものを手に入れてくる。二人はここでガブリールと一緒に大人しくしているように」
シーラが目を丸くして驚く。
「危ないですお兄さん! 中で何かあったら……お兄さんが!」
もう既に7回死んでいるとは言えない。
「そうだよ! シーラを養うって約束はどうするの!?」
トールも反対する。確かに領民にするとは言ったが、養うとは言ってない。
「これは決定だ。このままでは皆で揃って死──」
死ぬという言葉を軽々しく使ってはいけない。この子たちは村を焼かれているのだ。家族や友達も死んでいるだろう。
「このままでは袋小路だ。だから賭けに出る」
きっぱりと言い切る。
「ガブリール。二人を守るんだぞ」
ガブリールがこちらを心配するようにじっと見つめてくるが、撫でて誤魔化した。
立ち上がり、ダンジョンへ続く階段を降りる。
今までの7回の挑戦は決して無駄ではなかった。死ぬまでに色々な経験を積み、ステータスと知識を重ねてきたのだ。
次の周回では必ず踏破してみせる。
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