第4話 ウィル

 死んで生き返り、死んで生き返り、死んで生き返る。


 最初は死ぬ度に泣いたり喚いたりしていたが、少しずつだが慣れてきた。

 変わらず部屋には石碑がある。ため息をついて石碑に触れると、文字が死亡詳細画面に移り変わる。

 この石碑の操作にも慣れてきた。触る場所により反応が変わるのだ。今の所、この死亡詳細画面でステータス確認をするくらいだが。



 アンリ・ボースハイト

 累計死亡回数00007

 始まりの試練2/3階層 1時間20分8秒

 トラバサミの罠に掛かる。動けない所をファイヤプチドラゴンに焼き殺される

 HP110(+10) MP10 攻撃力56(+6) 防御力75(+9) 魔法力1 素早さ15(+2)

 武器:ミスリルショートソード+3

 防具:鋼の重装鎧-7 青銅の兜+1 力の指輪

 特殊スキル:ステータス保持(固有)



 トラバサミの『トラ』というのが良く分からない。あんなに悪どい罠で捕まえるのだったら、とても恐ろしい魔物に違いない。


 この周回は惜しかった。まずミスリル武器が強いお陰でザコ敵は悠々と倒せた。

 それとダンジョン内には何故かパンが無造作に落ちていて、それを食べ繋ぐ事で2階層まで行けたのだ。

 途中でブルースライムに襲われて鎧の強化値をしこたま減らされたのには参ったが。

 さらに罠で動けないところをファイアブレスで焼かれるのは辛かった。自分が焼ける音や匂い、あれは思い出したくもない。


 けど、こんなに辛いダンジョン生活でも癒やしはあるのだ。

 そう、それは友達。楽しさを二倍にして辛さを半分にする掛け替えのない存在だ。水を汲むために出向いた草原で、運命の出会いを果たしている。


「なあウィル、見てくれよこの死に様」


 大笑しながらウィルに話しかける。もう死亡回数は7回を越えた。こんなに死んだ人間は世界でも俺だけだろう。


「それにステータスも上がったんだ。凄いだろう!」


 HPは王宮に居た頃の五倍。各種ステータスも十倍近くになっている。魔法はまだ使っていないので関連ステータスは上がっていない。残念だ。ウィルも残念そうに同意してくれる。


「確か攻撃力が10あると少し鍛えた一般人。一般的な冒険者が30くらいだったかな? 1000もあると強大なドラゴンですら殺せるらしいぞ! 夢が広がるなあ!」


 ドラゴンを屠り称賛を浴びる姿を想像する。横にはウィルもいる。


「アイテムを持ち帰れないのは残念だけどな。ウィルにもミスリル武器を見せてあげたかったよ」


 ダンジョン内のアイテムは多種多様だ。武器や防具に指輪・スクロール・ポーション・食料・魔法杖。拾っては試してみたが、有用なアイテムは多い。

 ダンジョン内で複数のアイテムを持つと、どこかにしまわれる感覚がしてかき消える。だが「あのアイテムを使いたい」と念じると勝手に出てくる。これをアイテムボックスと名付けた。

 収納上限は20。アイテムを取捨選択する必要がある。当然のごとくダンジョン外ではアイテムボックスは使えない。


「ウィル……返事をしてくれ」


 返事は帰ってこない。


「ウィル!!」


 つい怒鳴ってしまった。最近は感情の制御が上手く出来ない。


「ああぁ……ごめんよウィル」


 ウィルに駆け寄って頭を優しく撫でる。返事をしないだけで怒鳴り散らすなど、人として恥ずかしい限りだ。


 撫でていると、ふと異変に気付く。



 ──入り口の方で大きな音がした。重い何かが落下する音だ。獣のような呻き声も聞こえる。



「草原からの入り口に何かが落ちたか……ウィルはここで待っていてくれ。俺が見てくるから」


 石碑の部屋のドアをそっと開ける。危険な魔物なら始末しなければいけない。ここからはダンジョン外。死んだら終わりの世界だ。危険が心の警鐘を鳴らし、高まる胸の鼓動を抑えられない。



 ◆



「狼だ」


 そこには茶色の狼が居た。毛並みはボサボサでぐったりとしている。

 噛まれてはかなわないので枯れ枝でつついてみる。


「グルルゥ……」


「元気がないな。怪我をしたのか? それとも腹が減っているのか?」


 喋りかけると狼は弱々しい瞳でこちらを見つめて唸る。言葉は分からないが「助けて欲しい」と訴えているように感じた。


「ここは俺の領地だ。ならお前も俺の領民になるのかな」


 手を差し伸べる。可哀想だが噛んだりするようならこの場で始末しないといけない。


「おお……」


 だが予想外にも狼は手を舐めてきた。案外人懐っこいのかも知れない。


「俺の領民になるか? ウィルが居るからお前で二人目だぞ」


 狼は弱々しく唸ってから頷いた。賢い魔物や人と長く過ごした魔物は、表情や話し方で人の感情の機微を読み取るものも居ると聞く。

 この狼がどちらかは分からないが、賢いことには違いはないのだろう。


「よし、領主としてお前を助けよう! 見た感じ腹が減ってそうだな。俺が外で狩りをしてくるから待ってるんだぞ!」


 やるべき事が出来ると体中に力が漲ってきた。

 獣臭い狼を石碑の部屋に運び込む。ステータスが上がったお陰で、人間の子供ほどの重さがある獣でも軽々と運べる。


 ゆっくりと狼を地面に横たえると、振り返ってドアから外に出る。


「セイヤ!!」


 ジャンプして壁に齧りつく。崩れる土壁を無視して登りきると、そこは見慣れた草原。魔物や盗賊はいるが、領民のためには食料が必要だ。適当に狩りをしよう。


「オラア!!」


 そこらにあった大石を投げて砕き、手頃な石片を武器として拾う。先が尖っていて、いい感じだ。それと丸っぽい石も投石用としてポケットに詰め込む。


「あの投石オークは強かったなあ。まあ外には居ないとは思うが……」


 草原を低い姿勢で進む。目指すは弱い獣か食べれそうな魔物。


 さあ頑張ろう。

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