第3話 始まりの試練2周目

《挑戦者の復活を確認》


 頭の中に響く声で目が覚める。


「殺さないでくれ!!」


 ガバリと飛び起きて悲鳴を上げる。一番新しい記憶はスライムにこの身をゆっくりと溶かされながら死んだものだ。命乞いもやむなしである。


《ダンジョンの再生成を実行──完了》


 頭の中にまたあの声が響く。再生成?


《アイテムの初期化──完了》


 何だと。確かに手に持っていた銅の剣-1が無い。


《ステータスの初期化──致命的失敗》


 何か失敗したらしい。心なしか声もしょぼくれて聞こえる。


《再試行──ステータスの初期化──致命的失敗 。時間超過により試行放棄》


 再度やるところに性格の悪さが現れている。どうやら致命的に失敗したようだ。俺の外れスキル「ステータス保持」が影響しているのかも知れない。


「ここは……石碑の部屋か? ならばさっき死んだのは夢なのか?」


 自分の記憶に自信が持てない。だが痛みだけはハッキリと覚えている。

 周りを見回して確認したが、ダンジョンに入る前と何ら変わりがない。部屋の真ん中に石碑があり、その奥にダンジョンへ入る階段があるだけだ。


 石碑をじっと見る。こちらを馬鹿にするように赤く点滅している。目が痛いから止めて欲しい。


「言いたいことがあるなら……言えばどうだ?」


 石碑の表面を軽く叩く。すると赤点滅が終わり、書かれている文字が瞬時に移り変わった。ご丁寧にも知っている言葉で書かれている。



 アンリ・ボースハイト

 累計死亡回数00001

 始まりの試練1/3階層 6分3秒

 矢の罠で弱ったところをブルースライムに溶かされて死亡

 HP23(+3) MP10 攻撃力5 防御力6(+2) 魔法力1 素早さ3

 武器:銅の剣-1

 防具:無し

 特殊スキル:ステータス保持(固有)



 どう見ても先程のダンジョンの挑戦結果だ。俺はどうやら入って6分で死亡。到達したのは3階層のうちの1階層目で、HPと防御力は……多分だが上がっている。

 ステータスなど見たのは何年ぶりか。魔術師に鑑定して貰えれば教えてもらえるが、中々に手間と費用が掛かるものだ。なので外れ王族の俺でも数えるほどしかやって貰ってない。


 それよりもだ。


「死亡回数『00001』ってどんだけ桁数を用意してるんだよ!! 何回殺す気だ!!」


 ふざけている。まるで俺が何万回も死ぬのを楽しみにしているようだ。それに、もう一つ俺の心をかき乱すのものとしてステータス上昇がある。


「HPと防御力しか上がってねえ!!」


 確かにダンジョンでした事と言えば矢で射られて酸で溶かされただけ。何一つ成し遂げてはいない。


「はあ……」


 死ぬことは恐ろしい。あれには慣れというものは存在しないだろう。尊い俺の命は本来一つしか無いのだ。ならば死ぬのも本当なら一度きりの筈なのである。



 ◆



 懲りずにダンジョンに潜る。


 どうやら死んでも入り口に戻されるだけ。ならば死ねば終わりの草原で食料を探すより、このダンジョンで食料や物資を探すほうが賢明だ。

 死んだらアイテムは全て失ったが、死なずに3階層を下りきれば何か報酬が貰えるかも知れない。魔物に会っても逃げ切れれば問題はない。


「よし防具ゲット! 何々……革の鎧+2か。よし強化値も良い感じだ」


 プラスとかマイナスの数値は便宜的に強化値と呼ぶことにした。何だかしっくりと来る。長年履いた下着の様に。

 茶色の革鎧を着込む。気持ちはまさに戦士の心地。後は斧さえ有れば北方で暴れまわっている海賊集団にも入れそうだ。


 次の部屋に行くために通路を通る。明るい部屋に比べると通路は薄暗い。少し先は見えるが、奥の方までとなると何があるかも分からない。

 足音を殺して魔物を避け、何とか次の部屋に着く。部屋の中にはまたまたアイテムが有った。


「よっしゃあ鉄の斧+1もゲットだ!」


 蛮族めいた装備を着込むと気持ちまで荒々しくなる様だ。

 高揚する気分のまま歩くと足元でまた「カチリ」と音がなる。


「罠だ!! うぉおおおおおおおおおおおおおお!!」


 全力で前方にダイブする。

 先程まで居た場所に矢が通り過ぎ「ガツン」という音を立てて向かいの壁に突き刺さった。


「はは……ははははは!!」


 二度も同じ手段を食らうわけにはいかない。立ち上がって体についた土埃を手で払う。

 足元の罠は何故かは知らないが、どうしても事前に見つける事が出来ない。地面に盛り上がりも無いし、色が変わっていたりもしない。踏んで初めてその存在を認識できるのだ。


 前方にまたアイテムを見つける。今度はスクロールだ。


「なになに『壁消しのスクロール』か」


 スクロールにもご丁寧に名前が書いてある。しかし効果が書いていない。名前から判断するに壁を壊してくれるのだろう。小さな穴を作ってそこに隠れるもの戦略としては良い筈だ。


「男は度胸。ひとまず読んでみよう」


 巻かれたスクロールの封を解くと、スクロールは端の方から燃え尽きていく。そして効果が顕現した。



 ──爆音が鳴り響き、が消える。全ての魔物が俺に気づいたようだ。爛々とした魔物の瞳は獲物を見つけた喜びからか。



「クソがあ!! 掛かってこいやあ!!」


 ヤケクソだ。どうせ死ぬなら一匹でも多く道連れにしてやる。王族の剣、いや斧の鋭さを思い知れ。腐りきった王族だけれども。


「セイ!!」


 グレートソードを持った騎士のような魔物の頭を斧で叩き割る。割れた兜の中身は空っぽだ。よし「ホロウナイト」と名付けよう。

 しかしホロウナイトは頭を失っても剣を振るう。グレートソードが足元を狙って振るわれ、俺の右足が吹っ飛ぶ。


「ああああ!! 足ぃいいい!!」


 体勢を崩して倒れ込むが、破れかぶれで斧を全力で投げつける。見事にヒットしたが致命傷にはならなかった。

 落ちた斧は大袋を担いだゴブリンが盗んでいく。お前は「盗人ゴブリン」だ。クソ野郎が。


「俺は絶対死なないぞ!! 俺にはやる事が……」


 俺のやるべき事とは一体何だ。

 考えを巡らそうとしたが、一風変わったモンスターを見つける。太ったオークは拳大の石を振りかぶって──全力で俺に向かって投げた。


「お前は投石オークかな……見たま──」


 最後までは言えなかった。

 血を吐きながら胸元を見ると、鎧の左胸部分に大穴が空いている。呼吸をすればヒュウと音がしてゴボゴボと血が溢れる。

 もう体は動かない。目の前のホロウナイトが上段にグレートソードを構える。それが最後の記憶となった。



 アンリ・ボースハイト

 累計死亡回数00002

 始まりの試練1/3階層 20分45秒

 ホロウナイトにより真っ二つにされて死亡

 HP30(+7) MP10 攻撃力12(+7) 防御力14(+8) 魔法力1 素早さ4(+1)

 武器:鉄の斧+1

 防具:革の鎧+2

 特殊スキル:ステータス保持(固有)

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