06
驚いた顔を浮かべて、彼女は「どんな?」と訊いてきた。
それに対して、先ほどの自動販売機を指差して答えた。
「解決の糸口は、あれだったんだ」
ますます意味がわからないという風に首を傾げる麻奈。俺自身もいま導きだした考えを、どう説明したものかと思い、少しずつ説明していった。
「あの自販機を、そのままALAの監獄に置き換えるんだ。つまり出てきたジュースがラビで、それを飲む俺が蜘蛛だ」
「ああ、なるほど。たしかにそう言われれば、待ってれば自動的に落ちてくる食料源なんて、ぴったりそのままだもんね」
「ひどい言われようだな」
「えー! 自分で言ったんじゃん!」
「……まあいいや、話を続けるぞ。それで、いまこの場には紅茶が二本あるだろ? 俺が持ってる分と、麻奈に渡した分だ。この程度だったら俺たち二人で分配すれば、簡単にさばくことができる。……じゃあもし、出てくるのが二本じゃなくて、もっと多かったらどうなるだろう」
「そりゃあ、飲みきれないから適当に余らせるんじゃないかなぁ」
そう言ってあとで、彼女は目を丸くして「あっ」と声を上げた。どうやらこちらが言いたいことを察したのだろう。
「……そういうことだ。さばききれないほどの食料源が一斉に出てくれば、受け手側は後手に回るしかなくなる。……つまり」
一旦言葉を区切り、導き出したこの作戦が確かなものであれと願いつつ、手に持った紅茶を強く握った。自分をこんな状況に陥れているアラクネを睨み据えるように前を向き、最後の言葉を紡いだ。
「捕らえられているプレイヤーと示し合わせて行う、一斉同時ログイン。それが俺に残された、唯一の未来へ進む道だ」
「……」
無言で俺を見る麻奈が、首を縦に振って肯定を示しながら言った。
「なるほどね。たしかにそれなら、敵を撹乱もできるし、その隙を突いて一掃できるかもしれない」
「確実とは言えないけどな。……でも、孤軍奮闘するよりは、何倍も成功率は上がるはずだ」
自惚れかもしれないが、彼女の声には感心が多く含まれているように聞こえた。もっとも、この作戦には一つ大きな問題もあり、彼女はそれにも気づいているようだった。
アイディアに水を差す居心地の悪さからか、座ったまま足を持ち上げ、ぶらぶらと揺らしながら、横目で訊いてきた。
「でもそれだと、なるべく沢山の人が見てるBBSでアピールしないといけないよね? それに、こっちが本気だってことを伝えるためにも、プレイヤーネームを出さないといけないと思う。……名前、出すの? 粘着されるよ?」
「仕方ないさ。いまはあそこから抜け出すのを最優先に考えないと。それに、問題はまだあるんだ」
「え?」
「もし俺の発起に賛同してくれる書き込みがあったとしても、冷やかしの可能性がある」
「あー、確かに。遊び半分で適当に送信する人もいるだろうね。でもそんなの、信用するしかなくない? さすがに相手が本気かどうかまでは、わからないでしょ?」
渋面でそう返してくる麻奈に、俺はかぶりを振って応えた。
「いや、あるんだ。翔にはできないけど、ラビにはできることが」
「ラビにって……だって、ログインした途端に一瞬で毒でマヒさせられるんでしょ? そんな状況で、何かできることあるの?」
「俺たち召喚者なら、誰だって持ってる能力さ。体が一ミリも動かせなくなっても、まだ操作できるものがあるだろ?」
俺は目の前に、四角い枠が出現したようなジェスチャーを伝えた。麻奈はそれを見て、はっと息をのんだ。
「……そうか、ステータスウィンドウ!」
「ああ。死ぬまでの時間で、ウィンドウから相手にパーティ申請を出すんだ。そして相手がそれを承認すれば、仲間同士でマップにお互いの位置が表示される。それで書き込んだ相手が本気かどうかがわかる」
「なるほど……へぇ……」
「? なんだよ?」
「ふふ、翔クンって、もっと直情タイプだと思ってたから、意外だなーって」
「……褒めてるんだよな、それ?」
「うーん、どうだろう?」
「……おい」
人が本気の話をしているときに、こうやって茶化すような物言いを差し込んでくるのは、どうも彼女の性分のようだ。だが確かに、重くなっていた空気がこの子の纏うオーラで柔らかくなり、妙案が浮かんだのも事実である。俺は肩を落とした溜め息をつくと、本題へと話題を戻した。
「……でだ、これにもまだ問題があるんだ」
「うん、あるね」
「なんだ、気づいてたのか」
「そりゃあ、パーティ申請するのに必要な情報が何かってことくらい、わかってるからね。つまり、相手にも名前を書き込んでもらわなくちゃいけないんでしょ? 巨大BBSで。なんの信用もない相手に」
そう、それが一番の問題だった。パーティを組むには、ウィンドウから相手のプレイヤーネームを検索して申請を出さなくてはいけない。つまり、ログイン前に相手の名前を確認しておく必要があるのだ。時刻を示し合わせてログインし、監獄の中で口頭により名前を伝えてもらうという手も考えたが、蜘蛛の毒で即座にマヒさせられる状況で、そこまで作業を行う余裕はなかった。
「正直、かなり望み薄で難しいよ」
麻奈は隠しても仕方ないという様子で、あっけらかんと告げた。
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