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そんなことを考えていると、アミュレがついに待ちきれないといったように、勇んで口を開いた。
「それでラビさん、さっきの魔法はどういうことなんですか?」
「え、どういうことって?」
「さっき使ったのは呪文の《魔導変換》じゃないですか。上級職でも中々持つことができないパッシブスキルですよ!」
パッシブスキルとは呪文や武技のような通常スキルと違い、常時発動するスキルだ。そういえば、ファイアを撃ったときに何か音が鳴ったような気がする。ステータスウィンドウを開くと、習得したスキルが列挙されたリストとは別に、パッシブスキルの欄に確かに《魔導変換》という名が追加されていた。
こんなものは先ほどまではなかったはずだ。……となれば、あの岩陰の敵を射撃した際に習得したのだろう。上級職でも習得が難しいスキルということを考えると、《断罪セシ者》は余程魔導系に特化した職業なのかもしれない。そういえば女神様と初期ステータスを決めたとき、魔導師になりたいと伝えていたのを思い出す。もしかするとその希望を汲んでくれたのかもしれない。だが、だとすれば魔導系の職を神託してくれたのに、剣を振るって戦う俺を見て、あの女神様はどういう心境だったのだろうか……。
「どうも、さっき覚えたみたいだな」
簡素にそう伝えると、アミュレは感心したように言った。
「ひょっとしてラビさんは、上級職なんですか?」
「いや、俺は……どうなんだろう、実はよくわからないんだ。リズレッドも聞いたことがないと言ってたし、おそらくこの職を神託されたのは、世界で俺だけだと思う。便宜上、俺達は異級職って呼んでるよ」
「……異級職、ですか」
「ああ、《断罪セシ者》という職で、パラメータから察するに、おそらく魔道士に近いものだと思う」
途端、アミュレが慌てふためいた。しかしそれは『他人に自分の職を公言しない』というご法度を破ったからではないだろう。そもそも最初にアミュレ側から、成り行きとはいえ盗賊であることを明かしてくれたし、そして俺たちはいまはパーティなのだ。誰とも知らない他人という訳ではない。では一体何に驚いているのか、俺が眉根を寄せて疑問符を浮かべていると、
「魔道士系で、ゴーレムと近接戦闘してたんですか!?」
……ああ、確かにそれは驚くよなあ。
「……そういうことになる……かな」
「そんなの可能なんですか?」
「完全な魔道士系という訳じゃないし、剣戟スキルも習得できるからな。それにナイトレイダーがあったからこそできた荒技だと思う」
「……なんだか、召喚者という方は私たちの常識を破るのがお好きなようですね」
「別にそういう訳じゃないんだけど……それに、魔法は鍛えてなかったから、いまいち不得意だしさ。言うなれば長所じゃなくて短所を伸ばしてしまった失敗例みたいなもので……」
「……これを見る限り、そうとは思えませんけど」
呆れたように辺りを見回すアミュレの目線の先には、投げ込んだファイアの手榴弾で形成された焦げ跡が広がっていた。
「いや、昨日まではこんな威力はなかったはずなんだけどなあ……?」
首を傾げて疑問を口にすると、アミュレはついに溜め息までつき、告げた。
「もう、からかわないでくださいよ。ブラッディスタッフを装備してMNDが上がってるんだから当たり前じゃないですか。なんのために高いお金を払ったと思ってるんです?」
「…………あ」
「……まさか、本当にお忘れになっていたんですか?」
「いやあ……ははは……ほら、この武器を買ったのはアビリティを移し変えて近接戦をするためだったからさ」
「……つまり、最初から杖で殴る気満々だったんですね。それを作った製作者も泣きますよ……。もう本当に、魔道士系とは思えませんね……本当に蛮族なのでは?」
「ひどいな!?」
自分でもおかしいと思っていたことを他人に指摘されると凹む。俺だってキャラクリエイトをしたときは真っ当な魔道士を目指してこの世界に来たはずなのだが、何故こんなことになっているのだろうか。落ち込む俺を見て、アミュレが笑った。
「もうっ! そんなに真剣に捉えないでくださいよ! 遠隔も近接もこなせるなんて凄いじゃないですか!」
「……そ、そうか?」
「はい。私たちは神託された職に……良い意味でも悪い意味でも人生を縛られますから、選択肢の多い職につけたのは、素直に羨ましいです。さ、この調子で、もっとレベルを上げましょう!」
アミュレはそう言うと、再び感知に意識を集中させた。俺は蛮族の汚名を返上してほっと胸をなど下ろすと、次の戦いに向けて腰に下げた杖を握った。
その後は二時間ほど狩りを続けた。まばらながら他の冒険者も散見でき、狩場としてまずまずの人気のある地帯なことがわかる。すると遠方から、怪我をしているのか、足を引きずりながら歩く冒険者を見かけた。追っ手はいないようなので戦闘には勝利したようだが、自分たちの傷も相当なので、一度ウィスフェンドへ引き返しているところなのだろう。
「……ラビさん」
「ん? ああ、オッケー」
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