04
「どうですか? 私ちょっと凄いでしょ?」
「あ、ああ……驚いたな、《ヒール》以上の回復魔法を使える神官に会ったのは初めてだ」
「へへー、わかってもらえればいいのです! じゃ、いきましょうか!」
「行く? どこへ?」
「へ? 城塞都市に帰るんですよね? ……あっ、そうか!」
彼女はぽんと手を叩き、
「最初は自己紹介ですよね! ごめんなさい! ……こほん。じゃあ改めて、はじめましてっ! 私はアミュレ・レーゼンフロイ。あなたたちのパーティに入ることにしました! 今日からよろしく!」
「……は?」
「……は?」
自己紹介と参加加入が同時に飛んできて、俺たちは声を合わせて困惑した。あのリズレッドさえも面食らったように目を白黒とさせているのだから、この子、只者ではない。
アミュレと名乗った神官の子は、これで大事なことは済んだとでもいうように満足げな顔をすると、リズレッドに駆け寄った。
「うわーっ! お姉さんエルフですよね? 私、エルフ初めてみました! とってもお綺麗ですね! 髪の手入れはどうなさってるんですかっ!?」
「ああ……ありがとう。髪は……いや、いまはそれどころではない! ええと……アミュレ殿」
「アミュレでいいですっ! えっと……」
「……ああ、これは申し遅れた。私の名はリズレッド・ルナー。……アミュレ。どこから話せばいいのかわからないが、まず、なんで私たちのパーティに入りたいのだ?」
「んー……それは、街に戻ってからにしませんか?」
「……隠すような理由があると?」
「というよりも、お腹が空いちゃいまして」
「……は?」
「ふふふ……実は私、もう二日もなにも食べてないんです。正直そろそろ限界です」
「……冒険者なら携帯食くらい持ってるだろう」
「ぜんぶ使い切っちゃいました! いやあ、私、計画的に動くのが苦手なんですよね」
神官なら計画性がなによりも大切だと思うのだが、彼女はそんなことは気にしていいないようで、あけすけに笑って見せた。
その態度に毒気を抜かれたリズレッドが、少し考え込んだあと、溜め息をひとつつき、俺に向き直った。
「……ラビ、君が決めてくれ。私では手に負えない」
「俺かよ! ……ええと、アミュレ、俺の名前はラビ・ホワイトだ。とりあえず街までは連れていくよ。《ヒールライト》のお礼はしないといけないしな。でもパーティに入れるかどうか考えるのは、そのあとだ。それでもいいか?」
「はいっ! それで構いません!」
そう言うと、とたとたと歩いて俺たちの前に立ち、彼方を指差しながらアミュレは告げた。
「さあラビさん、リズレッドさん! 城塞都市へ帰りましょう! 私、あそこに行くのが夢だったんですよ! わくわくしますねーっ!」
「……アミュレ、城塞都市はそっちじゃないぞ」
明後日の方向に歩き出そうとするアミュレをリズレッドが静止する。計画性がない上に方向音痴とは、この子、どうやってここまで来たのだろうか。
俺はこの先どうなるのか不安になりながらも、新たな旅の始まりを予感し、それと同量の期待を感じていた。二人を追う表情に、いつの間にか笑みが浮かぶのがわかった。
《城塞都市ウィスフェンド》
目的地に着いたのは、ゴーレムを倒してから二時間歩き通したときだった。
さすがに道中でお腹をぐうぐうと鳴らすアミュレを気の毒に思い、持っていたパンをあげると、彼女はそれを美味しそうに頬張って食べた。
それに感化され、俺もリズレッドも思わず空腹を感じて、手持ちの携帯食を噛りながら帰路についた。
城塞都市に着くと、すっかり日が落ちて、街は炎の灯に照らされていた。
何度見てもこの街の堅牢さには目を見張る。エルダーの外壁も見事だったが、ここはそれを遥かに上回っていた。大きさはエルダーほどはないが、それでも広大な面積の外周を囲う分厚い石の壁は、そう簡単には突破されないであろうとわかる堅牢さを発揮している。
厚さは約ニ十メートルもあり、内部は戦士の詰所や居住空間まで設けられているのだという。部外者の俺はそこまで見学できたことはないが、一度はお目にかかってみたいものだ。
外壁の上には何人も弓兵が待機しており、これはアモンデルト率いる飛行部隊によってエルダーが壊滅させられたことを受けての、この街の領主による迅速な人員配置によるものだ。
「通行証は?」
屈強な大男が二人、街に入るための通行口の両脇に立ってそう訊いてきた。
俺は鞄の中から通行証……といっても鉄のプレートだが……を取り出して、それを見せた。
彼らは目だけを向けて確認すると、短く「通れ」と応えて、お互いの槍で作ったバツ印のバリケードを解いた。
この街に来て一週間が経ち、その間に何度もここを通っているが、彼らが笑ったり世間話をしている所は見たことがない。勤労という二文字がとても似合う二人だが、それはなにも門番だけに限った話ではない。
この街は『城塞都市』という名前からの印象通り、とても勤勉な人たちが多かった。朝起きてから夜寝るまでの生活ルーチンワークを完全に確立させ、それを滞りなくこなすことが美徳とされる文化なのだとか。
外壁の長いトンネルを通っている間、俺はリズレッドから教えてもらったこの土地の歴史を思い出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます