かんそなおへや!

 「む?」

 「!」

 その頭を下げた際に、何かに気付いたか、声を上げる。

 視線は、シンの方に向かっていて。

 「子ども……。かなり幼いな……。」

 やがて、不安交じりに言ってくる。

 シンは言われて、びくりと体を弾ませた。 

 「……。」 

 俺は見ていて、やはりかとも感じる。

 不安は、子どもへの危険だろう。

 今いる場所は、場合によっては、すぐそのまま戦場へと変わる代物。

 まして、子どもには危険すぎる。

 その不安。

 「あの……。」

 その時、マフィンが庇うかのように前に出てくる。

 「!む……。」 

 「私たち……。」

 マフィンが言い始めることには。なお、艦長さんは不安な様子を一旦止めて。

 聞き入るために、マフィンをきちんと見た。

 マフィンは、俺やアビー、レオおじさん、エルザおばさん、シンを一瞥しては頷き。 

 「私たち、ただ戦場への協力だけじゃなく、この、シンという子を、ちゃんと家まで送り届けたいとも思っているんです。不安なのは、分かります。ですが、その不安や、注意は、私たちが請け負いますので。……安心してください!」

 「……。」

 自信満々に言い切った。 

 艦長さんは、静かに聞き入って。

 「……そういう事情なら。やむを得ないな。」 

 軽く、不安に悩みがあったが、マフィンが言うならと、納得をしてみせた。

 ……マフィンの言う通り、俺たちは単に、軍隊と協力するだけじゃない。

 シンを、自分の家に、家族の元に送り届けるという役割もあって。

 そのために、この道を進むんだ。

 マフィンの言葉に、俺もアビーも、レオおじさんも、エルザおばさんも頷いてみせた。 

 「……艦長さん。」

 「?」

 マフィンはなおも続ける。

 「もし、子どもである、ということが不安であるのでしたら、私やアビーもまだ、子どもですよ。成人の儀は、終えていません。」

 そっと、笑顔も添えては、追加で言ってきた。

 子どもであることが不安であるなら、そもそもマフィンもアビーもそうだと。

 ……俺は……伏せられている。やっぱり、不明なためか……。

 「ふぅむ……。」 

 聞いていて艦長さんは、顎を撫でながらも言葉悩み。

 やがて、ちらちらとソードとウィッチさんを見ては。

 「なるほど。……確かに。」 

 言葉を紡ぎ始める。

 「マフィンさん。あなたの言葉通りなら、我々にもいる。そこにいる、ソードとウィッチだ。彼らもまだ子どもの年齢だ。昔ほどじゃないにしても、まだまだ平和じゃない。未だに彼らの力を借りねばならんしな……。」

 「!え、俺?!」

 言葉はそう、自分たちにも、成人という年齢の人じゃないのもいて。

 その筆頭にソードとウィッチさんが挙げられて。

 言われたソードは、ぎょっとしている。 

 が、それ以上ソードは言わない。

 そこは、訓練されているからなのかもしれないな。 

 「……。」

 まだ言いたげで、終わりではない。また悩んでは。

 「分かった。」

 決する。

 悩みを拭い捨てて、きちんとシンや俺たちに向いたなら。

 「君たちもまた、我々の仲間だ。我々は、ならばなお一層君たちを守るために全力を尽くそう。そうして……。」

 決意に言葉を紡いで。

 だが、途中変に区切る。

 「?」

 俺は首を傾げると。 

 そっと艦長さんは笑って、俺に視線を向けて。

 「……また、見せておくれよ。ウィザードが見せた、あの奇跡のような、活躍を。」

 「!……はい。」

 その先を紡ぐ。

 それは、俺がかつて見せた、英雄と言わしめた偉業のこと。

 それは、期待であった。ならばと俺は頷き。

 かつ、皆にも向き直り、頷いてみせる。 

 皆もまた、頷いて答えた。

 あの時、皆が起こした、偉業をまた。

 それを約束すると、艦長さんに向き直っては、再び頷いてみせた。

 

 作戦の説明がなされたなら、艦長さんは柔和な表情になる。

 「堅苦しい話はこれで終いにしよう。」 

 「!」

 話題が変わった。艦長さんは、にっこりと笑い。

 「長い航海だ。もてなしは十分とは言えないが、ゆっくりしていってくれ。さあ、シールド。」

 「!はっ!」 

 口上の後、シールドさんに話題を振る。

 言われたシールドさんは、まず敬礼して答えて。

 「彼らを部屋まで案内しておくれ。」

 「了解しました。」

 それは命令で。俺たちを部屋まで案内するというものだ。

 命令されたシールドさんは、応じる。

 シールドさんは言われた通り、こちらに向き直っては。

 「では、案内しよう。狭い艦内だが、結構複雑だ、迷わぬように、私の後についてきてくれ。」

 先導し、この暗い部屋から最初に出た。

 俺たちも、言われた通りシールドさんに従い、部屋を出る。

 「!ソード、ガント、ウィッチ。君たちも下がってよい。」

 「!はいっ!」

 「了解しました。」

 「は、はいっ!」

 傍ら、残された3人も、艦長さんに指示されて。

 暗闇の中ながら、敬礼でもして応じているかのようだ。

 その通りかは、分からないが、踵を返して、こちらに向かっている様子。

 やがて、俺たちが、暗がりの部屋が見えなくなる所まで来たなら。

 ソードたちと合流、からの、ソードが緊張ほぐす背伸びを見せた。

 「ん~~~!!くはぁ!緊張した!」

 「……あはは。」

 ついでに、欠伸一つ、緊張感どこかへ行かせる言葉も添えて。

 俺は、何だか呆れてしまう。

 アビーを見ているかのようにも思えてならない。

 「全く貴様は……。ふん。今日は大人しいから、咎めんことにする。」

 「おほっ?ガント、やっさしー!」

 「……。やっぱり咎めるか。」

 「?!おふぅ?!ガント、きっびしー……。」

 「……。」

 それは、ガントさんも同じようだ。

 緊張感から解き放たれた様子に、呆れている。

 いつもなら、これ以上の様子だと含みがあるようで。

 ソードは、珍しいと喜んでいるが、撤回されて、震え上がっている。

 俺は見ていて、余計に呆れてしまう。 

 「……何だか、アビーを見ているようだわ。」

 「!……実は俺も思った……。」

 傍ら、マフィンが言ってきた。

 俺と同様、呆れた顔をしていながらだが、俺も思っていたことを。

 特徴といい、ソードはやたらとアビーに似ている気がする。

 「?え?あたし、似てないよ?」

 こちらもこちらで、ルンルン気分で歩きながらだが。

 俺とマフィンの会話に気付いたアビーが、振り返っては言ってきた。

 どうやら、本人は気付いていないようで。 

 同じ、アビシニアンを思わせる毛の色といい、性格といい。

 共通点は多いと俺は思う。 

 「え?俺が、その女の子と?……そうかぁ?」

 噂の本人もまた登場だ。

 アビーの方を見て、ジロジロ観察。

 「……似てるっちゃ似てるな……。」 

 本人は気付いたようで。

 何やら悩みながら、ぽつりと言ってくることには。

 「……俺もアビシニアンだからかな?」

 付け加えて、自分の種類も。

 「……あ、そうだね。」

 「……ええ。確かに。」

 ソードが言った言葉聞き届けて、俺とマフィン2人して納得した。

 最後分かったことは、アビーと同じ種類のようだったと。

 「……ん~~?」

 もやもやしたものを感じてか、ソードは頭を掻いてしまう。

 

 「さあ、ここだ。」

 「!」

 艦内の案内そこそこ、話している内に、屋に着いたようだ。

 一応の終着点みたいで。

 シールドさんは、言って、分厚く、丸い窓のついた重苦しい扉を開いた。

 中は一応は寝室と呼べるものではあった。

 三段ベッドが壁際にあり、後は簡素な机が一式のみ。

 ベッドもベッドで、豪華絢爛とは程遠い、簡素な物。

 ベッドと、体に掛ける薄い毛布一枚があるだけの。

 当たり前だが、軍艦である。豪華客船などではない。

 戦闘のために、戦い抜くためにある船である以上、余計な物はない。

 ただまあ、簡素であっても、俺は大して苦しいとは思っていない。

 いつも寝ているのが、アビーの家でも、どこでも、床に簡単に敷いただけの布団や毛布程度であるのだから。 

 「……まあ、客人をもてなすにはあまりにも粗末だが、すまない。」

 申し訳なく、シールドさんが言ってくる。

 「……いいえ。私たちの方こそ、半ば無理言って乗せてもらっているわけですし。お気になさらずに。」 

 マフィンが、シールドさんを宥めた。

 「それと、隣に女性の方に、と。」

 「!」

 流石に、三段ベッドじゃ足りないや。

 と思いそうになったものの、案内はまだ続いていて。

 すぐ隣の方も開けてくれた。

 そこもまた、ここと同じ様子。

 「……。」

 前に出て見ていたマフィンは、両手を腰にやり、こんなものかと一息。

 「……とりあえず、ここまでは案内した。後は、各自好きにやってくれて構わない。そうだな、私もいいが、他、何か分からないことがあったら、艦内の他の連中にも声を掛けてくれ。それでは、私たちは失礼するよ。」

 「!」

 案内もここまでか。

 シールドさんは最後言って、立ち去ろうとする。その際、頭を下げて。

 気付いた俺も、他の仲間も、それぞれ頭を下げて応じる。

 「ありがとうございます。それでは、現地までよろしくお願いします。」  

 加えて、俺はそういう言葉も。

 聞いた航空隊員さんたちは、またまた頷き。

 それぞれの持ち場に戻るように足を進めていく。

 「おっと!」

 と、その中の1人、ソードが立ち止まる。

 「なぁ!ウィザード!!後で遊びに行ってもいい?にひひっ!」 

 「!」 

 振り返っては、予定を聞いて、笑顔も見せる。 

 「……いいよ。特に予定はないし。」

 俺も、特に予定はないし、そこは自由にしていいやと頷いた。

 ソードは聞いて、とびっきりの笑顔を見せて去っていった。

 彼らが去っていく足音を遠くに、こちらもこちらで、あてがわれた部屋に入り荷物を下ろす。

 下ろしたなら、レオおじさんは大きく伸びを見せて。

 ここまで、珍しく静かだったというのもあってか。

 シンもまた、レオおじさんに倣って、伸ばして。

 こちらは、緊張もあっただろう。

 何せ、ここにいる人間は、全員年上で、かつ軍人だ、緊張するのも無理はない。

 背を伸ばしたなら、シンは俺に向く。

 「……そ、その……。」

 「?」

 何か、言いたげだ。 

 俺は顔を向け、ちゃんとシンに向き直ると。  

 「大和お兄ちゃんって、すごいんだね……!」

 「!」

 言われたことには、俺のことがすごいとのことで。

 またまた、横腹を突くようなことで、俺は思わず目を丸くしてしまう。

 「……そうか?」

 続くのは、疑問。

 あんまり実感がないために、首を傾げてしまう。 

 「だって!共和連邦の人と、お話しできるんだもん!すごいよ!」

 「……。」

 シンは理由を次に言ってきて。

 そうであっても、俺は気恥ずかしさもあって。

 目を逸らし、頬をポリポリと掻いてしまう。

 また、煌めくシンの瞳に、応えられるほどの自信がないこともあって。

 「おいおい!別に恥ずかしがらんでもいいだろ。」

 「!」

 傍ら、レオおじさんが言ってきて。にやりと笑みを蓄えて。

 「前は、まあ、そうだな。震えていたろうけどよ、言った割には、ってな。」

 「……うっ。確かに……。」 

 過去のことがついでに言われて。

 確かにである。

 あの時、俺は帝国へ向かうと言ったはいいものの、実際、震えていたし。

 今は……。どうだろう?

 「だが今はよ。一介のスフィアの使い手じゃねぇか。ウィザードって言われるほどの、な。自信を持っていいぜ?」

 「……?そうかな。」  

 かくして、帝国を切り抜けた今は、ウィザードこと猫耳勇者と謳われるほど。

 自信を持てよ、と締め括られるものの、やはり疑問あって。

 そうであっても、ぐっと、自分の手を開いたり閉じたりしても、不思議と震えのないことから、あれからやはり、成長はしているのかもしれない。

 「なっ!」

 「うん!」

 レオおじさんは、そんな俺を見て、ついでに、シンにも合図を送るように。

 したなら、二人して頷いた。

 「……。」

 二人がそう言うならと俺は、静かに頷いて応えた。 

 

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