いってきます!……え?いけないの?

 「泣かないでー!」

 「あたちたち、一緒だよ!」

 「「すふぃあとともにあらんことを!」」

 「!!」

 一部は気付き、慰めに言葉を掛けて。

 締め括ることには、祈りの言葉を、たどたどしくも、紡いだ。 

 耳にしてシンは、嬉しさに涙溢れたか、目を伏せて。

 その際、涙の滴が、零れ落ちた。

 「!あーもー……。泣かさないよ!ほら。涙拭いて。」

 見かねたエルザおばさんは、子どもたちに注意しながらも。

 ポケットからハンカチを取り出して、シンに渡してくる。

 シンは涙を拭っていて。

 「あんたたち!泣かすんじゃないよ!」

 「えー……?」

 「泣かしてなーい!」

 「見送りー!」

 「……はぁ。そうね……。」

 いじめるんじゃない、そう言いたかったのだろうが。

 この場合は、別れの時の悲しみだろう。

 子どもたちが口々に言う、反対意見に、何も言えなくなった。

 「おうおう!別によ、これで永遠にさよなら、ってわけじゃねぇ!そんな、悲しくなるような話はやめてな、また会えることを楽しみにしようじゃねぇか!」

 代わりに、だが、その雰囲気を変えたのは、レオおじさんで。

 別に、今生の別れじゃない。

 また会えることを期待して、見送る。

 そうとも、それこそ、また会えるための祈りで。 

 レオおじさんらしい、豪快さもあって、場はみるみる変わっていく。

 「……まあなんだ、お前たち。お別れってのも寂しいしな。ここはよ、旅行みたいなもんだと思ってくれよ!」

 「旅行?」

 「旅ー?いいなー!!」

 「!!じゃあじゃあ、お土産お土産!!!!」

 「!!あーあー……。あんた、言わせちまったねぇ……。」

 旅行に行くようなものだと。

 そうなったなら、子どもたちはなんと、翻って、別のことを要求しだして。

 旅行を羨ましがることもあるが、多分前日に言い聞かされていたか。

 ついて行こうと言い出すのではなく、お土産の催促。

 沢山言われて、エルザおばさんもまた、子どもたちへの呆れはさることながら話題は、ねだりのものに変わっていて。

 「いいじゃねぇか。子供らしいじゃん!」

 レオおじさんは、子どもらしいと言い切った。

 「知らないよぉ。何ねだられるか……。」

 なら、どうなっても知らないぞ、と。

 エルザおばさんは戒めるような視線を送りながら言う。

 「!!じゃあじゃあ、ほら、三角形の建物の……ええとええと……。」

 「ぴらみっど!!本物ー!」

 「あたち、すふぃんくす!!」

 「?!おいおいおいおい!!無茶だぜそりゃ!!どんだけでかいと思っているんだ?!」

 「……ほぉら、言わんこっちゃない……。」

 「きゃははははは!!!」

 ねだられた先、どんな物が欲しいやらと聞けば。

 ピラミッドやら、スフィンクス、向かう所らしい?物産品だ。

 もっとも、スケールが段違い。

 本物を要求してくるあたり、なかなか無茶を振られる。

 そういう目に遭うだろう、エルザおばさんは見越したように。

 呆れた視線を送りながら言う。

 子どもたちも子どもたちで、父親をからかっていたようだ。

 別れの空気をがらりと変えるように、騒がしく、楽しく笑うのだった。

 「……ふぅ。分かった分かった。何か買ってきてやる。」

 観念したみたいに、レオおじさんは言い。

 「んじゃま、気を取り直すか。」

 また、長くなり、色々脱線しそうだった雰囲気を一旦、元に戻すように続けては、さっと子どもたちに向き直る。

 父親がそう言ったのを聞き、子どもたちもまた、きちんと直って。

 「それじゃ、俺と母ちゃんは、シンの国まで行ってくる!留守番、きちんとしとくんだぞ!母さんの話をちゃんと聞く!後、近所の人に迷惑を掛けない!これが父ちゃんとの約束だぞ!」

 「「はーい!!」」

 「行ってくるぜ!」

 「「行ってらっしゃーい!!!」」 

 出発に挑む前に、演説のように言い切っては、繰り返し、行ってくると。

 もちろん、残る子どもたちには、ちゃんとしているように。

 と釘を刺してもいて。父親らしいやり取り。

 最後、見送りの言葉によって締め括られた。

 レオおじさん、エルザおばさん、シンは、見送られながら。

 ……俺やアビー、マフィンのいる方に向かって進んでいく。

 遠く、子どもたちや、他の奥さんたちは、レオおじさんたちの姿が見えなくなるまで、手を振って見送っていた。

 やがて、こちらに辿り着くことには。

 「よう!待たせたな!」

 レオおじさんの、やる気に満ちた言葉が、第一声に出されて。

 態度もそうだ、挨拶代わりに、手を上げて。

 「……。」

 俺とアビーは、応じるように手を上げたものの。

 マフィンはだが、何か思いつめたようであり、応じる気配がない。

 むしろ、何か気まずそうであった。

 その様子に、レオおじさんも気まずそうにして。

 「あ~……。マフィン。とりあえず、おはよう。」

 「マフィンちゃん、おはよう。」

 「あの、……おはようございます。」

 気まずさ感じながらも、始めにはきちんとした挨拶をして。

 エルザおばさんも続いた。

 やや、遅れて、シンも言ってくる。

 おまけとして、深々としたお辞儀も。

 「おはようございます。」

 「おはよー!!」

 「……ええ、おはよう。」 

 挨拶をしてきたなら、俺も俺で返して。

 アビーはらしく、いつもの元気沢山な雰囲気。

 マフィンは、レオおじさんたちと同様、気まずさを抱いたまま。

 「……その、マフィン。どうした?やけに、気まずそうな顔をしているが。まあ、俺たちもだけどよ……。」

 続くのは、なぜか気まずいマフィンの様子への問い。

 もちろんそれは、俺も感じていること。

 「……そうね。水を差すようなことだから、控えていたかったけれど、こうも感じられたら、仕方ないわ。」

 本当なら、別の所で話してもよかったが、隠すこともない。

 諦め気味でもありマフィンは語りだす。

 「まず言いたいのは、ごめんなさい。」

 「?」

 始まりには、謝罪から。 

 いきなりなので、俺は首を傾げてしまう。

 なお、始まりから余計に気まずさは増して。

 「……昨日、町で軍関係者と会ったのだけれども……。」 

 重苦しい口調で、続ける。

 俺たちは、聞き入って。

 「……悪い知らせで、私たちには協力できない、とのことよ。いいえ、協力しようにも、流石に広報関係部署では、力不足だと……。当然、作戦行動に関わる部署に、問い合わせなんて難しいらしくて、ね。そう……。」

 途中、言葉を区切って、深々と頭を下げて。

 「ごめんなさい。私の力不足でもあるわ。結局、リオンキングダムへは、行けないわ……。」

 謝罪を加えて、言い切った。

 「……。」

 一同は沈黙するしかなく。シンに至っては、落胆さえ見え隠れしていた。

 「……。」

 その沈黙の中、レオおじさんは、気持ちを隠すためにか、頭をぼりぼりと掻き。

 ……しかも、やけに良く響く。

 「……あ~、まあ、そっちも戦果なしか……。俺も、何だ……。俺も俺でさ、準備をしたんだが、な。」

 レオおじさんも、何かあったようだ、マフィンの次に、話し始める。

 「……人が集まらなくてな。結局、俺と母ちゃんの二人さ。他は他で、用事で出ていてね……。わりぃ……。」

 レオおじさんが言うこともまた、良い知らせではない。

 自分の力不足に、らしくなく、頭を下げた。

 エルザおばさんも、合わせて頭を下げて。

 結果として、ただでさえ、落胆も混じる。

 気まずい空気は、より濃くなって、一同にのしかかった。

 さて、こんな空気を打開する知らせを持つ者は?

 ……俺だ。

 「ええと、解決策になるか分からないけど、思いついたことがあるんだ。」  

 「?!」

 「え……?」

 「!なになに~!」

 気まずさに、俺はやや後退しながらも、この場の空気を入れ替える。

 あるいは予感させる言葉を紡いだ。

 耳にしたその場の人それぞれ、顔を上げて。

 微かながらも希望を抱いた瞳を見せてきた。

 ああ、アビーはどうも、面白そうだと言わんばかりだったが。

 皆のそれぞれな表情見届けては、早速と俺は実行に移そうとする。

 「……それじゃ、皆、俺について来て!」

 手始めに、そう言って俺は場所を移す。


 何が起こるのか、後に続く皆は、不思議そうにしていて。 

 移動した場所は、海岸。 

 村のある、山間を抜け、森を抜けた、その先にある。

 そこには、高い崖もあり、そこから遠くを望むことができる。

 その麓には、きれいな砂浜がある。

 度々訪れることはあり、特に、残骸を漁るために。

 この前見つけた、俺の持つ盾のレプリカを拾った場所でもあり。

 つまり、ここには、マキナの残骸も流れ着くことのある場所だ。

 砂浜には似つかわしくない、無骨な機械の数々は、きれいな砂浜の情景を、別の物に変えさせていた。

 その海岸に、俺たち一行は辿り着く。

 「……ねぇ、大和。海岸まで来て、何をするつもり?」 

 到着して早々、マフィンが口を開く。

 一体、どういうアイデアかは知らないが。

 大した効果はないんじゃと、疑いの目つきをしていた。

 「まあ、見ててよ。」

 俺は、そう言ってバックパックを下ろし、漁っては、例の玩具を取り出し。

 皆に自慢げに見せた。

 「「……。」」

 驚きの声はなく、無言。

 どちらかというと、呆れているような雰囲気さえ、こちらに漂ってきた。

 中でも、マフィンは寄ってきて、俺の両肩を鷲掴みして。

 俺をしっかりと見つめてきた。

 「大和……。あなた、それで何するつもり?」

 「ん?これを使って、海を泳がせて、海軍の誰かに拾ってもらおうと思ったんだ。一応、手紙が入っているけど。」

 「……。」

 マフィンが聞いてきて、俺は昨日思い付いたアイデアを口にした。

 この、潜水艦の玩具を泳がせて、遠くの。

 どこかにいる海軍の誰かに、拾ってもらえたらという理由で。

 良ければ、サカマタさんがいいんだけど。

 俺のアイデア聞いた瞬間、マフィンは怪訝そうな表情を浮かべて。

 「……私、あなたのことを立派だと思っていたのに……。この機会に、考え直すわ。ねぇ、考えてみなさいな。そのような、ちっぽけな玩具を、遠くまで動かして、拾ってくれたらいいけど、ミスをしたらそのまま漂流しちゃうのよ?上手くいくと考えているのなら、とんだ博打よ。よく考えなさい。」

 「うっ……。」

 続くことは、説教だった。

 何となく、予想はしていたけれども。流石に、こう面と向かってやられると。

 非常に威圧感があり、つい、たじろいでしまった。

 威圧感に耐えかねて、助けを求めようと辺りに目配せする。

 とはいったものの、手を差し伸べてくれそうな人はいなさそうだ。

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