しゅっぱつのまえに、おいのり!

 食事を採ったなら、早速とアビーは、準備をする。

 いつものように、上階の、倉庫に上がっては、漁りだした。

 それをゆっくり見送っては、俺はバックパックを持ち。

 開けて、中身をゴソゴソ漁ってみる。

 さっき買った玩具の他、紙と、ペン。

 見つけて、取り出しては、バックパックを机代わりにして。

 紙を置き、俺は筆を走らせた。

 ちょっとした、メッセージを書いている。

 宛ては、そうだね、海軍の……。あれ、誰にしよう?

 ちょっとしたメッセージは思い浮かんだものの、宛てに俺は迷う。

 何人か知り合いはいる……。

 けど、名前をよく知らない人もいて、どうしようもないや。

 海軍の……艦隊司令官?名前が浮かばない。

 空母の艦載機、航空隊の人?……ニックネームみたいな名前で認識していて。

 恥ずかしながら、名前を知らない。

 他には……。

 「あ。」

 該当する人を頭の中で上げていく内、やっとピンとくる名前を見付けた。

 「サカマタさん。」 

 該当した名前は、サカマタさんで。

 シャチの人。

 確か、海兵隊の隊長で、カワさんに見せたけど、通信機を俺にくれた人だ。

 その名前を口にしては、手紙に書き、ようやく終える。

 終えたなら、そっと、例の玩具の口に入れ。

 また、使い込んだスフィアも、中に入れて、より高感度に扱えるようにした。

 蓋を閉じて、密閉できたか確認したら、完了。 

 準備に勤しむ中、最終的にバックパックに詰め込む前に。

 ああそうだと、俺は再度確認する。

 バックパックの中身。 

 一応広げて見て。

 まずは、大事な盾。

 マフィンからもらった、手袋。アビーからもらった、レーセ。

 スフィアがいくつか。それと、さっきの玩具。予備の服。

 うん、俺の準備はばっちりかな。 

 思って、丁寧にバックパックへ詰め込んでいく。

 準備は万端だと、満足気に、そっと微笑んだ。 

 「わぁ?!ど、どうしよー!どこに置いたっけ?あたしの手袋……。」

 「……。」

 傍ら、上の方からアビーの困惑する声が響いてくる。

 俺は、笑顔から一転、呆れ顔になってしまう。

 アビーらしいや、ここまでも。

 それに、探している物が手袋、ということで、俺はまた閃きを得て。

 そっと、宙を撫でるように手を動かした。

 「!」

 清らかで、甲高い音色が響く。また、手が何かに触れた感じも覚えて。

 悟ることは、見付けたということだ。

 後は、こちらに持ってくるように動かせばいい。

 そっと、手招くように動かす。

 《新しいアタッチメントを確認。装備いたしますか?》

 「……。」

 アビーの探している物を手繰り寄せていた傍らで。

 今度はバックパックの中にある盾が喋ってくる。

 アビーの手袋にも、スフィアが、それも比較的大きい物が、内蔵されていることと、アビー専用ながら、レーセのような光の刃を出せる仕様で、そのまま武器として使えるからか、装備だと認識し、リンクしようとしているようだ。

 「拒否。」

 《確認しました。》

 ……武器だが、アビーの物だよ、俺は大人しく拒否を選択する。

 盾は了承し、静かになった。

 「!おー!見付けたぁ!」

 「……。」

 まだ上階の倉庫の宙を舞っているであろう、アビー専用の手袋。

 ようやく見付けたとアビーがはしゃいでいた。

 俺は、呆れそのまま、微笑んでいた。

 「大和ちゃん!……ありがとー!」

 「……いいよ。これぐらい、やらせてよ。」

 もちろん、そんな道具の浮遊、心霊現象でもない、俺のおかげだとも認識し。

 アビーは上階から、聞こえるように俺にお礼を言ってきた。

 これぐらい、どうってことはないと、俺は言い返した。

 弾むように階段を下りてきたなら、アビーの手には例の手袋がある。

 手の甲に、大きなスフィアがあしらわれた代物。

 爪付近から、レーセのように光の刃を出せる、特別仕様。

 嬉しそうに見せてきた。

 また、他にも持って来た物があり。

 小さなポシェットも、アビーの腰に付けている。

 スフィア狩りの時に、使う物だ。

 中に、採って来たスフィアを入れることができる。

 その様子見て、俺は軽く頷いて。

 「準備は万端だね?」 

 そう聞いた。

 「もちろん!」

 アビーは、元気よく、その場で跳ねながら答えた。

 ……こうして、準備は整った。

 その上で、明日を迎えよう。すぐに動けるように、手にした物を側に置き。

 話そこそこに、俺とアビーは床に就いた。 

 

 朝日射し込むその時、久し振りに、満足げに寝たと思い。

 朝の陽光をこの身に迎え入れる。 

 昨日みたく、正夢のような、そうでないようなこともない。 

 故か、疲労感はそれほどなく。

 そっと起き上がった時に感じることには、何だか非常に調子のいいこと。

 「……。」

 ふと、朝の爽やかな風が、家に入り込んできたなら。

 自身の調子のよさもあり合わさっては、爽快感へと変わる。

 また、側にて、小さく寝息を立てるアビーの寝顔見ては、安心感もあり。

 そうとも、平和な情景だ。

 この、爽やかな朝の一時、アビーが目覚めるその時まで、俺は味わおうと。

 座禅を組むみたいに座り込んで、目を瞑る。

 光を味わう感触から、今度は音を味わう。

 耳をすませば。

 アビーの寝息に加えて、風と外の草木が擦れる音、小鳥の爽やかな歌声。

 そして、一定リズムで、戸を叩く音。

 「ん?」

 ……戸を叩く音?

 それは、残念ながら不自然な音だ。

 俺は目を開き、確認のために視線を向ければ、誰かが外から戸を叩いているように見える。

 首を傾げて俺は立ち上がり、向かう。

 「んにゃ?」

 「!」

 その不自然な音は、アビーを眠りから覚まして。

 アビーは体だけ起こして、戸の方を、また、俺の方を見る。 

 「……大和ちゃん、おはよー……。」

 「……おはよう。」

 眠気眼で、かつ、眠気まだあり、今にもまた、眠りに就きそうな声で。

 アビーはまず朝の挨拶をしてきた。

 俺も俺で、頭を下げて。

 「……どうしたの?」

 次には、俺がどうかしたのかと。 

 「……誰かが呼んでいる気がするんだ。」

 「?……予知?予感?」

 「……。いや、違う。」

 答えとして、相応しいものを選んだつもりだが。

 アビーには的確ではないようだ、変なコメントが返ってくる。

 もちろん、違う。そこは、はっきりと言って。

 「さっきね、誰かが戸を叩いているんだ。用事があるのかもしれない。」 

 根拠も告げた。

 「……分かったぁ~……。」 

 アビーは耳にして、また消え入るような声で頷いた。

 アビーのそんな様子見送った俺は、また戸に視線を戻して向かい。

 手を掛けて開け放つ。

 「!」

 「?!ちょ、ちょっと……!」 

 開けた先にいたのは、マフィンだった。

 何事かと、……互いに驚いた顔を見せてしまう。 

 また、思い返すことには、そう言えば今、起きたばかりで。

 とても外行の恰好じゃない。

 気付いたそこから、微妙な空気が漂う。

 「……あ。マフィンちゃん、おはよー……。」

 「……。」

 「……。」

 そんな空気、読んでいないアビーは、らしいや、いつも通りとばかり、挨拶をするものの、ただでさえ、消え入るような声だ、この場には余計に空しく響いてしまう。

 俺とマフィンは、……そんな微妙な空気に、言葉浮かばず。

 ……堪らなくなり、俺はそっと、戸を閉めた。

 「……ふぇ?」

 アビーは、首を傾げたまま、俺のそんな様子を見てきて。

 「……アビー……。着替えよう。そして、支度をしよう。マフィンが訪ねてきているんだけど、流石にこの状態は……ねぇ。」

 「?」

 一応、諭すように俺は言った。

 アビーは気にしていないかもしれないが、端から見れば、起きたばかりの。

 寝ぼけた様子は、他の人に見せられたものじゃない。

 アビーはアビーで、ただただ首を傾げるばかりで。

 いまいちしっくり来ていない様子だ。

 そうであっても、話は進まない。

 マフィンを待たせることにもなる、とにかくと、急かしながらも支度をした。

 歯磨き、顔洗いして、服も着て、整えたなら。

 俺もそうだが、アビーもいつもの様子となった。

 荷物をそれぞれ手に、戸に手を掛けて開き、マフィンの元へ向かう。

 「あ!マフィンちゃん、おはよー!」

 外で待つマフィンに、アビーが第一声。

 さっきとは違い、いつもの、可愛らしいながらも、通るような声で。

 手を上げて、左右に振るそれは、体全体でも挨拶をしていた。

 「……おはよう。」

 「……マフィン、おはよう。それと、待たせてごめん。」

 「……。」

 「……。」

 待っていたマフィンは、呆れもあるが、諦めもある複雑な表情で返してきた。

 俺も俺で、挨拶をして、ついでに、待たせたことにも謝罪を述べて。

 が、その後、何だか気まずい雰囲気となって、二人押し黙ってしまう。

 「……ええと。……行きましょう。」

 「?あ、ああ……。」

 「?」

 沈黙をマフィンが破り、気まずさはまだあれど、要件はある。

 だから、誘いも言って、マフィンは先導して、道を行く。

 何の要件かは、まだ分からないけれども、俺も従っていく。

 アビーはアビーで、首を傾げながらも付き添って。


 「あ!」

 村の道中、向かう先にて、沢山の人影ひしめき合う場面に遭遇してしまう。

 よく見れば、レオおじさん一家のようだ。

 遠くからだが、俺を含めて、アビー、マフィンつい見入って。 

 見ると、どうやらレオおじさんと、エルザおばさん、シンが見送られようとしている場面だ。

 レオおじさんは相変わらずだが、見送られのために、エルザおばさんの恰好は、以前に見たことのある、腹出しの、奇抜な服装で。

 さて、向こうでは、どうも、リオンキングダム行が決定していて。

 その決起集会みたいな形か。 

 「シン!!あっちに行っても、友達でいような!」

 どうやら、そのようだ。

 長男の話から、リオンキングダムへ行く、その間際に餞別の話。

 長男が駆け寄っては、握手をするみたいに手を取り合っていた。

 「ありがとう!ん?これ……。」

 シンは、短い間だったが、レオおじさん一家と一緒になれて。

 かつ、家族の温もり思い出し、噛み締めた表情しながら、一家にお礼を言って。

 また、何かに気付いたか、互いに握った拳を開くと。

 「!」

 そこには、小さいながらも光を湛えるスフィアがあった。

 「持っていてくれよ!俺っちたち、ずっと友達だろ!」

 「きゃははは!!そうそう!」

 「ともだちともだち!」

 「……皆……。」

 言葉だけではないようだ、餞別に彼らは、スフィアを用意してくれたのだ。

 守る祈りを込めて。

 子どもたちは、一斉にあれこれ言いだして、辺りが騒がしくなり。

 シンは、感じた思い出思い返してか、不意に瞳を潤ませて。

 

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