うわさをすれば、くーんちゃん!

 面白い……けど、真剣さを考えると、どうかな、とも感じてしまう。

 ただし、スフィアを内蔵していることから、俺が上手くコントロールして、届けることができたなら。

 手紙、ないし他何かで連絡手段とできる可能性は十分にあり得る。

 「あ、これは余談だけどね!」

 「?」

 俺が思案している最中、カワさんは何か余談を付け加えて来るみたいで。

 一旦中断して、聞き入ると。 

 「クーンちゃんも買って使ったことがあるの!」

 「クーンが?」

 クーンの話題になり。

 あの、アライハウスで働く、クリーニング屋の人。髪が長い、猫耳の少女。

 ……男漁りが趣味だと、俺は認識している。

 持ち前の、魅了の力で、男を、その、いわゆる喰っているんだとか。

 耳にして、俺は少しだけ緊張してしまう。

 その魅了に、俺は一旦やられかけたからね。

 「……へぇ。けど、何に使ったんだ?」

 「ん?んとね、遠くにいる、自分のお婿さんにお届け物だって。何か、指輪か何か入れていたかな?」

 「?妙だな……。」

 気を取り直して、そんなクーンのことを聞くと。

 何やら恋人に対して贈り物のようだが、俺は違和感を覚えてしまう。

 俺が感じたクーンには、何かこう、男がいるような雰囲気じゃないんだが。

 「ん?どして?」

 「……何だかね。男の人いないんじゃないかなって、感じたんだ。失礼ながらだけど……。悪い気がするけどね。」

 「あ~……。」 

 俺がそういう風に感じていると、不思議がるカワさんに説明すると。

 何か納得したような声を上げる。

 「……大和ちゃんの予感、多分当たっているよぉ。クーンちゃんって、結構、惚れっぽい所あるから。多分、その時も、そうだと思うの。」

 「……。」

 カワさんは、申し訳なさそうな顔をしながら、俺の予感が正解だと告げる。

 俺も俺で、悪い気がしてならず。

 「!えとね!気にしなくていいよ!クーンちゃん、だからってしょんぼりするタイプじゃないし、ね?」

 「……!……そう?」

 そんな、悪い気がして、雑貨屋の空気が淀みそうな中。

 カワさんがフォローして、空気を戻すようで。

 俺は、しっくりこないながらも、頷きはする。

 「……。」

 そうであっても、上手く晴れやしない。

 だからで、心の中で俺は、クーンに謝罪をした。

 「?」

 「!」 

 俺が不意に黙り、何か念じる様なことをしていたら。

 カワさんが不思議そうに顔を覗き込んできた。 

 気付いた俺は、何でもないと首を横に振る。

 「それはそうとして……。」

 「!」

 俺は、こんな暗い空気を変えるべく、話題を逸らすことに。

 「……クーンが使ったの、どうなったの?」

 「!」

 クーン自体のことはさておいて。

 使った潜水艦の玩具?は、最後どうなったのだろうかと、聞いてみる。

 「んとね。簡単に言ったら、行方不明。途中、何かイルカさんたちの声が聞こえたような気がするって、言っていたからね……。もしかしたら、だけどね、イルカさんや、シャチさんに壊されたって可能性もあるの。」

 「……イルカに、シャチ……。!」

 カワさんは、残念そうに締め括った。

 最後、それがどうなったのかというと、行方不明ということだが。

 気になる単語があって、逆に俺は、何か閃きそうになる。

 「……それ買ってもいい?」

 「!」

 閃いたからこそ、俺は、商談に乗ることにする。

 残念そうな顔だった、カワさんは、一転して目を丸くして。

 「どしたの?」

 「何か使えるかな、って思ったんだ。」

 「へぇ!」

 理由聞かれるものの、俺はアイデアがあるからとして。

 言ったなら、カワさんは目を輝かせてくる。

 「それじゃ、はい!」

 商談は成立か、例の潜水艦を手渡してくる。

 「……これでいい?」

 俺は、代金として、スフィアの原石を提示した。

 そうすると、更に目を輝かせた。

 「いいの?これぐらいなら、もっと付けられるよ?」

 「いいよ。その、お話の代金と、お小遣い、かな。」

 「!」

 大きくお釣りがくると、カワさんは言ってきたが。 

 俺としては、別に執着はしない、お小遣い代わりも、とした。

 聞いたカワさんは、嬉しそうに笑った。

 「あ!これは、私の我儘かもしれないけど……!」

 「ん?」

 「使った後、お話聞かせてね!」

 「!分かった。」 

 付け加えだが、カワさんはお願いをしてきた。

 使ったエピソード、聞かせてとのことだ。約束に俺は、頷く。

 

 「!アビー!」 

 「にゃ?!」 

 買い物を終えて、丁寧に梱包された潜水艦の玩具をバックパックに入れたなら。

 店内をうろつくアビーに声を掛ける。

 俺が、カワさんと話し込んでいる間。

 暇になったからか、店内の品物を、見て回っていたようだ。

 時に、興味深い物を見付けては、覗き込んでいたり、触っていたり。

 その通り、猫らしい、いや、アビーらしい。

 「……待たせてごめんね。とりあえず、俺の方は、共和連邦軍と連絡が取れる手段を見付けたよ!」

 「にゃ!そう!良かったね!」

 退屈していたに違いない。アビーに俺は長く話し込んだことを謝り、おかげでいい方法を思い付けたと報告も添える。 

 アビーは、聞いて自分のことのように喜んで、にっこりと微笑んでくれた。

 アビーを呼んだなら、再び帰路に就こうと。

 最後、この店の番をしている、カワさんに俺とアビーは向き直る。

 「それじゃあ、また。……あれ、ありがとう!」 

 「カワちゃん!ありがとー!」

 お礼に頭を下げて、店の戸に手を掛けて。 

 カワさんは、にっこりと笑みを浮かべては、見送りに両手を振り。

 「こちらこそ、ありがとー!まったねー!」

 元気よく、俺たちを送り出してくれた。

 やがて、外へ歩み出て、再度カワさんに向き直るも、カワさんは、戸が閉まるその時まで、俺たちを見送ってくれた。 

 「!」

 店の外に出ると、すっかり暗くなっている。

 夕刻から、大分時間が過ぎていたようだ。 

 「……アビー。何だかごめんね。」

 遅くなったことに、申し訳なくなり、俺はつい、謝罪の言葉を漏らす。 

 「?」 

 一方のアビーは、何のことやらといった顔で、首を傾げて。

 「!」

 遅れて気付くと、顔を明るくする。

 「ううん!気にしてないよ!あたしも、カワちゃんのお店の、色々な物見て回れたもん!むしろ、楽しかったよ!ありがとー!」 

 明るくしては、気にしてはいない、むしろ、楽しかったとお礼を言ってきた。  

 「……そっか。」

 アビーらしいや、俺は言葉を終わらせ、アビーと一緒に帰路を進む。

 「あ!そう言えば!」

 「?」

 その最中、アビーがまた、声を上げて。 

 何事と俺は、アビーの顔を覗き込むなら。 

 「クーンちゃんも、可愛いことしていたんだな、って思ったの。」

 「可愛いこと……?ああ、ボトルメールよろしく、あの玩具?でどこかの誰かに贈り物したことか。……聞いていたんだ。」

 「うん!」

 道中の話題にだろう、出したことは雑貨屋で俺とカワさんが話していて。

 気になったことのよう。

 クーンの話題を出して、何だか可愛さに頬を緩ませてくる。 

 アビーもアビーで、会話を聞いていたらしい。

 聞かれちゃまずい話題でもないし。

 話題になることに俺は、特に気にすることもない。

 「……一体誰に送ろうとしたんだろうな。本当に、恋人がいてさ、それも、遠くのどこかに。その人に贈ろうとしたんだったら、何だか、ちょっと、お話みたいだな。」

 合わせるように俺も言葉続ける。

 想像だが、ロマンチックに考えるなら。

 お話みたいに、どこか遠い、例えば、海を隔てた向こうの、帝国とかに恋人がいて、その人宛てに、何か贈り物をしたくて、あの玩具を使ったと。

 最後は、どこか儚くて。

 恋愛ものにありそうな、一つの物語があったのかもねと思う。

 「そうそう!お伽話みたい。えへへ~。クーンちゃん、可愛い!」

 アビーも同意してくれた。

 そうして、何だかからかう感じでか、にへらと笑みを浮かべて。 

 俺も、想像して、可愛らしさに頬を緩めた。

 「?!」

 緩めたその瞬間、俺は突然悪寒を感じて、身震いしてしまう。

 尻尾の毛が逆立ち、体には鳥肌が立つ。

 更に感じることは、何者かが俺を狙い舌なめずりする光景だ。

 「!!や、大和ちゃん!大丈夫?!」

 俺の突然の豹変に、アビーは目を丸くして、気遣いに言葉を掛けてくる。

 「な、何だか、ものすごい悪寒が……?!」

 「!!」

 俺は挙句、悪寒に震え、耐えかね体を押さえて、蹲る。

 風邪?

 病気?いいや違う、何者かが、……迫る!

 「呼んだ~?」

 「!!」

 「!あ!」

 そのタイミングで、道を踏み締める音を立てて、眼前に何者かが現れた。

 村の、仄かな明かりに照らされて、姿をより鮮明に象ってくる。

 エプロン姿に、不揃いな長い髪、左右で色の違う瞳の、猫耳少女……。

 噂通りの、クーンだ。ただ、胸の前に腕組み、強調する不思議な姿勢を取っているのは、気に掛かるところだが。

 登場に、アビーは知り合いに出会えたと、喜びが増して。

 恥ずかしながら俺は、緊張が増し、さっとアビーの後ろに隠れてしまう。

 「?」

 アビーは、そんな俺を咎めもせず。

 一旦こちらを見ては、首を傾げるばかりであり。 

 すぐに視線は、クーンの方に向けた。

 「……もう。大和ちゃん、そんな顔しないで。お姉さん、悲しくなっちゃうわよ。うふふ……。」 

 アビーの陰に隠れている俺に、クーンは声を掛けてくる。

 どこか優し気に、どこか艶めかしく、笑みも添えて。

 その様子が、余計に俺を緊張させてしまった。

 「大和ちゃん、大丈夫!いつものクーンちゃんだから。食べられないよ。」

 「……。」

 アビーはクーンの様子に、いつも通りだと察し。

 安心させる言葉を掛けてくれるものの、信用できないでいる。 

 クーンは一方、そんな俺の様子をからかうように笑う。

 「それはいいとして。クーンちゃん、どうしたの?珍しいね。こんな時に会うなんて。いつもなら、家に帰っているのに。」

 「ん~?」

 怯える俺に代わって、アビーがクーンに、ここにいる理由を聞く。

 クーンにしては珍しいという感じ。言われたクーンは、首を傾げては。

 「いいじゃない、そんなこと……。な~んてね。実は、カワさんのお家から、愉快な声が聞こえてね~。何だか、お姉さんの噂話をしていたみたいなの。それも長い時間、だったからね。お姉さん、大和ちゃんやアビーちゃんがお腹空かしていると思ったから、お弁当作って来たの~!」

 「……。」

 クーンが言うことには。

 どうもカワマツリさんの家から聞こえた、愉快な話を耳にしていて、それも、長い時間。

 それほど時間が経過したら、きっとお腹が空いているだろうからと、わざわざ用意までして、……こうして帰路で待ち伏せしていた、ということだ。

 「?!」

 ……色々と辻褄が合わない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る