第111話 坐骨神経痛のあれこれ

 二年前に椎間板ヘルニアを発症した私。

 一時期は左足が麻痺して、足首から先が動かなかったこともあった。

 しかし、一ヵ月もせずに麻痺は回復。今では日常生活に支障はなく、仕事も車の運転も問題なく行えている。


 それが逆に慢心を産んだ。

 どんな病気も時間が解決してくれると錯覚していたのだ。


 2021年2月初頭。

 職場の改装に伴う荷物の移動を手伝って以降、どうにも足の調子が悪かった。

 臀部から右大腿部にかけて、常に筋肉が引っ張られている感じが続く。HPをがつんと削る大ダメージではないが、RPGで毒沼を歩いているのような感じで、ジリジリとスリップダメージが蓄積していく。朝はよくとも、昼を過ぎるころには「ちょっと休憩」と言って姿勢を変えなければ耐えられないほどだった。


 そのような状態であっても、私は病院へ行かなかった。

 あの椎間板ヘルニアの麻痺だって一ヵ月くらいで回復したのだ。今回も一時的なものだろう。そんな根拠のない考えだった。


 そんな思い込みとは裏腹に、それから一ヶ月経った3月になっても症状は収まらず、やがて横になることさえ難しい状況になった。


 これは不味い。こんなに続くとは予想していなかったし、悪化するとも思っていなかった。私は職場に事情を話して有給を取り、朝一で整形外科の門を叩いた。


「坐骨神経痛」


 ドクターの診断は極めて早かった。


「レントゲンで見る限り、二年前のヘルニアから生じた坐骨神経痛だね。遡ればヘルニアが原因だから、ヘルニアを取り除かない限り、一生付き合っていかなきゃならないよ」


 現代では、ヘルニアの切除は積極的には行わない。

 切除したところで再発する可能性は十分にあるし、切除する過程で重要な神経を逆に傷つける危険もあるからだ。なので、医師が切除を決行するのは、もうそれ以外の対処しかない場合のみ。


 現実に戻された瞬間だった。

 これまで生活に支障がなかったから忘れていただけで、自分の体はもう治らないものだったことを思い出した。


 幸い、私の坐骨神経痛はまだ服薬で抑えられるレベルだった。

 朝夕に三種の錠剤。完全に痛みは消えないが、だいぶ楽になった。お陰様で、現在はつつがなく生活できている。趣味のTCGの新弾を発売日に買いに行く程度には元気になった。


 しかし、朝夕、錠剤を水で流し込むたびに、これなしでは生活ができなくなるのかと思うと、暗澹たる気分になってしまう。一生という言葉が、私の双肩に重く圧し掛かっている。とはいえ、死に至るものでなかっただけ幸運と思うよりほかない。


 カクヨム諸兄の皆様も、くれぐれも体調には留意しましょうね。


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