第105話 紙とペンとバーテンダーのあれこれ

 つい先日、過去作『紙とペンとバーテンダー』にコメントを頂きました。


 公開して既に一年半ほど経っている古い作品ですが、それでもこうして触れていただけたことは、生み出した身としてはとても幸福なことだと思います。


 過去に公開した作品、試験的な作品については削除も検討していたのですが、こうしてどこからか辿り着いてくださるケースもあるので、なかなか踏ん切りがつきませんね。


 さて、この『紙とペンとバーテンダー』ですが、去年3月のカクヨム三周年イベント(KAC)の四日目に参加するために書き下ろしたものです。今読み直しても、よくもまあこんな話が書けたものだと思います。過去の自分が現在の自分を凌駕するのは私の中ではよくあることですが、今の私にはこんな話は書けそうにもありません。


 KACはテーマが公開されてから48時間後が締切ですので、仕事の合間に駆け足で書きました。私の筆の遅さではストーリーラインを書き落とすだけで精いっぱい。なんとか間に合ったものの、時間さえあればもっと書き込みたかった部分も多々あります。


 特筆するなら、バーの描写。

 作中のバーにはモデルがあって、友人Iと通っているお店がイメージ元です。残念ながら(?)バーテンさんは女性ではなく男性ですが。


 バーテンさんは私や友人Iと同い年。ユニークの一言に尽きる御仁で、入店している客層の傾向を瞬時に把握して、瀟洒なバー風味から居酒屋風味まで、場の雰囲気を自由自在に作り出してしまいます。以前、仕事場の同僚を一度連れて行ったことがあるのですが、その方曰く「距離感の測り方が絶妙」とのこと。さすが接客業の極致ですね。


 私と友人Iと行く時間帯は人が少ないので、もっぱら居酒屋風味のがやがやが多いです。ミニ四駆とかFF(スーファミ時代)とかの話をカウンターで平然と繰り広げられるバーってどうよ。私は大好きです。まあ裏を返せば、私たちが瀟洒じゃないってことかもしれませんが。


 また、ウィスキーの専門家でもあって、特にスコッチの薀蓄を語らせたらピカイチ。設定魔の私としては、その人の薀蓄を聞くことがお酒以上に楽しみでもあったりします。


 お酒というものは、材料から製造法からその地方の文化に直結しているのだと学ばせて頂き、この人と出会わなければ『ファウナの庭』で少し語った酒造統制や庶民の娯楽としての麦酒の話などは生まれなかったでしょう。文化圏で酒を嗜まない民族はいない。「その世界の人々がどのような酒を飲んでいるのか」は、「その世界の人々が主食に何を食べているのか」に匹敵するほど重要な異世界要素です。


 そして、私がスコッチ・ウィスキーを愛飲することもなかった。作中でテイスティング・シートというものが登場しますが、私が初めてテイスティング・シートに挑戦したのがラフロイグだったりします。作中でこの銘柄をチョイスしたのは、こういう思い入れがあるからなんですね。


 書きだしが「保健室の香り」だったのでバーテンさんからは大爆笑されましたが。おいおい、それでも物書き志望か。もっと詩的な表現があっただろうに。


 そんなすごく魅力的なバーですので、またバーを舞台にする小説を書くなら、次もこのお店がモデルになるでしょう。その時はもっと魅力的に描けるよう精進したいものです。


 そのバーテンさんが独立して、自分の店を構えてから三年が経ちます。

 先月、その三周年記念に参加してきました(もちろん一周年、二周年も参加済み)。お店がお店だけにコロナの影響でどうなるかと思いましたが、無事に経営が続けられているようで何より。微力ながら、これからも通わせていただきます。そして、これからも小説のネタになりそうな薀蓄の提供をお願いします。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る