第98話 性格のあれこれ

 私には絶対に勝てないタイプがあります。

 それは「負けない」戦いをする人間です。


 私は一発逆転満塁ホームラン型(なんだ、その例え)。

 総合力はなく、個々のスペックもいまいちだけど、状況が奇跡的に噛み合えば無類の強さを発揮する。そういうタイプ。


 趣味のTCGでもそう。絶対勝てる相手と絶対に負ける相手がくっきりと分かれるような戦法を得意とします。


 私のようなタイプは行動の結果が、勝つか負けるしかない。

 だからこそ、相手を負かせなかった時点で敗北が確定する。

 そのため、「負けない」戦いをする人間には絶対勝てないのです。


 では、「負けない」戦いとは何か。

 これまた例えが難しいのですが、盗塁とバントで点を稼ぐようなタイプとでもいいますか。こちらが失敗をしなければいい。相手がミスをするのを待つ、というようなスタンスの相手でしょうか。


 これでも社会人経験二桁。その中で様々な人間と出会ってきました。

 そういうタイプは同僚にもいましたし、外でひょっこり出会った人にもいました。


 私を悩ませ、執筆から筆を置かざるを得なくなった元凶たる異動に関しても、この「負けない」思考を持った上司からの要望。


 私個人はいま異動するのは得策ではないという判断でした。

 定着しない人材。毎日のように変わる状況。それに対応するのに、古参の自分が移動するのはデメリットの方が多い。


 しかし、上司は私の挙げるデメリットを全て打ち消す案を提示しました。

 私が危惧していることは全てお見通しなんだったんでしょう。

 自分の主張や考えを実現することが説得という行為の勝利だとすれば、それを妨害する要因を排除、ないし無力化するアイディアを考案し、その上で提言する。徹底的に負ける要素を排除してから事に当たる。用意周到という言葉しか思いつかないほど、異動の説得は完璧でした。


 じゃあ、異動に納得しているのかというと、もちろんそうではありません。

 納得していたら執筆の停滞なんていませんし。


 ですが、論理的には正しい。正しいのです。覆しようがないほどに。

 私の不満は、ただの感情論でしかないことが浮き彫りになりるだけ。自分の未熟さ加減に落ち込んでしまう。


 そういう人間が近くにいるのだから、せっかくなら小説のキャラクターバリエーションのネタにしてやれと、前向きに考えることもできるのですがね。


 十月から正式に別部署へ移動します。

 九月も中盤に差し掛かっていますが、果たしてモチベーションを持ち直すことができるのか。投資した三十万円は見事に回収することができるのか。実はそのあともう数万円使ったことは内緒です。

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