第92話 ハンバーガーのあれこれ
大学生になるまで、私は外食というものをほとんどしたことがありませんでした。
その理由は、私の家庭環境にあります。私の両親が教職を務めていたのです。
教員の子供という立場は存外、息苦しい。
素行が悪ければ両親の顔に泥を塗ってしまうし、勉強が出来なければ「教員の子供なのに」と周囲をがっかりされる。幼少のころから、私は普通の家の子ではないのだと自覚して生きてきました。
生徒や保護者と不要な接触をしないため、自分が受け持っている学区内の遊楽施設は利用してはいけないという暗黙の了解があったそうで、遊びに連れて行ってもらえることも稀。
休み明けの学校で、友人がどこそこへ行った、連れて行ってもらった、という話を聞くたびに、なんで自分は教員の子供に生まれてきたのだろうと暗い気持ちになることもしばしばでした。そんな環境だったせいか、ファミレスデビューもカラオケデビューも、私が大学に入ってからです。
しかし、一つだけ例外がありました。
郊外のハンバーガーショップにだけは連れて行ってくれたのです。
当時から、ハンバーガーはありふれた食べ物でした。
マックだろうとモスだろうと、普通の家庭では特筆すべきイベントことではないでしょう。
けれど、私にとってハンバーガーというのはただのジャンクフードではなく、非日常の象徴。みんなと同じものを食べることができる。わずかながらでも、教員の子供という立場を忘れさせてくれた魔法の食べ物だったのです。
さて、そんなハンバーガーが生まれた場所はアメリカですが、その歴史は19世紀まで遡ります。
南北戦争が終わって、農業国から工業国へ発展していく過程で、アメリカには外食文化が栄えました。これまで農業に従事していた労働者の多くが、工場に出向して働くようになったため、家で過ごす時間が減少し、食事を外で済ませることが多くなったからなのだとか。。
酪農が発達して肉牛が市場に充実したことから、屋台ではビーフステーキ・サンドイッチが大人気だったそうですが、しかし、当時の貧しい労働階級の人々は歯磨き文化がなく、歯の大部分が欠けていたそうです。労働者の歯の数の平均がなんと4本。つまり、せっかくのお肉が噛み千切れずに食べられない。
何とかしてくれという労働者の願いが聞き入れられたかどうか不明ですが、同時期に挽肉機が開発され、硬い肉をミンチにして成形した柔らかいハンバーグをステーキの代わりにパンに挟んで、これが転じてハンバーガーとなったそうです。
……なるほど。面白い。
この知識を創作に活かすとすれば、「その世界の人々の健康状態で食文化が形成される」というところでしょう。
ファンタジー世界の歯の状態なんてあまり考えていませんでしたが、確かに歯がなければ咀嚼ができない。歯を大事にする文化がなければ、私が想像している食事風景もまた違ったものになる可能性が出てくる。
歯磨き文化は紀元前のインドで生まれたものですが、細い木の枝で歯間を掃除するという行為は縄文時代からあったそうな。
本格的に日本に歯磨きが始まったのは、仏教が伝来した5~6世紀に、歯木(菩提樹で作った歯ブラシのご先祖様)で歯を清めるという行為が仏僧を中心に普及。日本でも江戸時代には歯磨きは定着していたようです。
特定の宗教がないサーガ世界で、どうやって歯磨き文化を定着させるか。
いろいろ考えた結果、国家賢人の連中が何とかしたという結論に。いやあ、すごく便利な存在だなぁ(投げやりとも言う)。
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