第86話 後悔のあれこれ
過去に戻りたい――そう思ったことはあるだろうか。
私は幾度となくある。異世界に転生して神様からチートスキルを授かって俺TUEEEするよりも、あの時に戻ってやり直したいという欲求の方が遥かに強い。
過去に戻りたい理由は山ほどあるが、そのうちの一つに、私が描いたとある作品に対する心残りがある。
その名も「水馬高校美術部/MTG編」。
通称「マジ☆ギャザ」。あるいは「魔法少女あゆみ」。
かつて、白武がHP時代に小説の息抜きで描いていた4コマ漫画であり、創作に対して誰よりもシビアな友人Sから「下手したら天下を取るかもしれん」と言わしめた作品である。
私の美術部時代の体験をもとに生まれた、水馬高校という学校の、美術部という小さな世界に属するキャラクターたちが、筆者に変わって各々の小説の解説をするという、なんとも痛々しいシリーズ……の番外編。
MTG編というだけあって、美術部員たちがMTGをしながら、特に意味のない会話で盛り上がる、ほのぼのした内容。
(MTGという単語を知らない人のために補足すると、マジック・ザ・ギャザリングというカードゲームのことである)
これが予想外に受けた。
女子高生が風変わりな部活動に入部する4コマ作品は、現代では一つのジャンルとして確立しているが、これを描いていたのは早十数年前。きらら系などという言葉すら存在しなかった時代。女子高生×MTGという題材は競争相手が確かに少なかった。
いや、私が知る限り、皆無といっていい。
当時にもMTGを題材にしたネット漫画はいくつか存在したが、だいたいは競技指向の内容がほとんどだった。未経験者は興味を持つどころか削がれること間違いなく、経験者であっても思わず引いてしまうほどの濃ゆいのばかり。
まあ、そういう作品を描きたかった作者の気持ちはわからなくもない。
ある程度の年齢に達すると、ホビー系漫画にありがちな「ホビーで世界を救う」ノリについていけなくなるもの。
私も幼少期に読んでいたコロコロコミックでは「爆走兄弟レッツ&ゴー」よりも、その後ろに掲載されていた「ミニ四ファイターV」の方が好きだった。リアルでは絶対真似できないマグナムトルネードよりも、リアルのレースで役立つ堅実な知識を蓄える方が楽しかったのだ(年齢がバレそう)。
思えば、日本人ってそういう傾向がある気がする。
ロボットモノにおいてリアルロボットをこよなく愛する人がいるように、どうせ読むなら実用書に近いものがいい、現実にあり得そうなものがいいとか、そんな作風を好む傾向があるよね。
そんな当時のネットMTG漫画がリアルガチばっかりだったのは、「カードゲームで世界を救う」ノリへの抵抗だったのかもしれない。
まあ、そんな濃ゆい作品ばかりがネット上にひしめく中、私のゆるいMTG漫画は確かに異色だったに違いない。MTGが主役ではなく、MTGをしている部員たちが主役。MTGはあくまで日常を構成するパーツでしかない。友人Sの、天下取れるかもしれん発言の所以。時代を先取りしていたということなのだろう。
とはいえ、当時の私は本当に小説の息抜きとしてしか捉えていなかったため、結局続きを描くことなく、この漫画は読み切りで終わった。
もしも、私がタイムマシンで過去に戻ってやり直せるなら、あるいは過去の自分に干渉できるなら、数年後に「けいおん!」を筆頭としたきらら系4コマが流行ると教えただろう。
そうして、めげずに描き続けて発信し続けていれば――版権の問題もあるので商業的な展開はできないものの――後世のMTG文化に何らかの形で語り継がれるようなものになったかもしれない。
このネタは現代ではほとんど通じないだろう。
似たような作品はごろごろ転がっているだろうし、ついこの間もアナログゲームで遊ぶ部活動のアニメが放送されたばかりだ。本当にあの時代だからあったチャンスのように思える。惜しいことをしたと思う。
もっとも、もし過去を変えてしまえばカクヨムで小説を書くような現在には辿り着かなかったかもしれないわけで。あの時、絵を描くのを諦めて小説を選んだことを誇れるように、これからも頑張っていくしかない。
だいたい――本当にタイムマシンがあるなら、黒枠のブラック・ロータスを買い漁るっつー話ですよ。当時は10万くらいだったのになぁ……今は諭吉が百人いても足りない。私の稼ぎではせいぜい白枠しか買えないのです(買ったのかよ)。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます