第22話 各作品のあれこれ(2)

 カクヨム掲載作品第二号「せめて炊き立てのご飯を」は完全新作である。

 前作のように書きかけがあったわけでも、構想があったわけでもない。本当の意味で私の最新作だ。


 ただし、その執筆には実験的な意味合いも含まれていた。

 というのも、前作「ファウナの庭」は三人称形式で書いていたが、カクヨム界隈を読み回していると、一人称形式が大部分を占めていたからだ。


 ……やはり、昨今の読者は一人称の方が読みやすいのだろうか?


 私は本当に初期の頃の作品や同人ゲームシナリオを除いて、自作のほとんどを三人称形式で書いてきた。

 世界観などという読む人によっては無駄の極致のようなものに心血を注ごうと思った私にとって、が地の文に反映できない一人称形式は、非常に書きにくかったのである。


 しかし、苦手の一言で避けるのではいつまでたっても成長しない。

 なので、次回作は一人称形式に挑戦しようと思った。


 一人称形式の最大の利点は深い心理描写と共感のしやすさだ。

 なので、わかりやすい主人公にしよう。英雄的な人物像は一人称ではかえって嘘っぽく見える。共感してもらうためにも、あくまで普通な少年がいい。


 性的表現のあれこれ(1)でも語ったが、エロスは万人の関心の的だ。

 下手な聖人君主を書くよりも年相応にエロい内面にしよう。ミランが枯れ果てていたので、逆にがっつくぐらいの勢いで。あれくらいの年齢であれば、同年代よりも年上の女性に恋い焦がれるもの。じゃあ、ヒロインはおねえさんにしよう。


 その時、私に天啓が降りる。――そうだ、おねショタだ。

 人間、歳を取ると甘えられる存在がいなくなるもの。そのせいかヒロインにバブみを求めてしまいがちだ。だいたい、年上系ヒロインつっても、世の中のヒロインはすべからく私よりも年下だからな。創作物の中でくらい、幼児退行してオギャりてぇのである。


 いやまて、冷静になれ私。ショタじゃいろいろ不都合だ。

 特に最後のあの展開で主人公がショタじゃ説得力がない。最後は男と男の意地の張り合いを描きたかった。そんなガッツのあるショタがいるか。仮にいたとしても勝負になるわけがない。しょうがねえ。14歳くらいにするか――そのような思考の連鎖によって、あっさりと「僕」の立ち位置が決まった。


 じゃあ、次。どんなおねえさんをヒロインにしてやろうか。

 そう考えて、とりあえず前作の残り物を適当に詰め込むことにした。「前作で金髪と銀髪と赤髪は出したから、差別化を図るために黒髪にするか」とか「そういえば、おっとり系はいなかったな」とか「せっかくの腹ペコ枠がミランに取られていたから、今度はヒロインに割り振るか」とか――ああだこうだしているうちに「師匠」ができあがった。


 この師匠、私の予想に反して大勢の読者に受け入れられた。

 試験的に執筆したにもかかわらず「炊き立てご飯」は非常に好評だったのは、この師匠のおかげだ。


 もっとも、ヒロインを師匠一人に絞って、しかも一人称形式による深い内面描写があったからこそだと思う。その意味では実験は成功したと言えるだろう。


 え?

 じゃあなんで、現在執筆中の「少女剣聖伝」が三人称形式に戻ったんだって?

 そりゃ、天才の内面とか凡人の私に書けるわけないからである。


 世界観から抽出したのは「武器」。中でも太刀や剣術に関する分野。

 これはいつか「少女剣聖伝」を書くことを前提としたものだ。まったくの新作である「炊き立てご飯」と違って、「少女剣聖伝」は既に漠然としたプロットが存在していたのである。ネタ的には「ファウナの庭」よりも古いだろう。


 当時はまだ私の中で書く時期ではなかったらしく、今のうちに少し戦闘描写の練習をしておくかと思い立ち、その流れを汲んだストーリーラインにした。おかげでいくつか「少女剣聖伝」のネタが潰されてしまっている。なんちゃって道場からいちゃもんつけられる話なんかはそうだ。本当に考えなしである。三章の停滞具合は何も仕事が忙しすぎることだけではない。


 引き続きイール地方を舞台にしたのは、読者に早い段階で私の作品がリンクしていることを示したかったから。こうやって少しずつ数珠つなぎのよう作品同士を連結させて神話を作っていけたらなと切に思う。

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