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それで……ああ、まだ本題に入れない。ATG(アフェクションシンキング)が銀河系の殆どでレンジャー網を構築した頃、大戦が起こった最初の惑星ノラである事件が起こり、俺が調査の目的でノラへ送り込まれた。それは当時のレンジャー、「フォーミラレンジャー」の一人、赤川 猛(レッド)が行方不明になったことだった。俺は現地レンジャーと合流して一緒に調査する手はずだったがバックれた。まだ新任で一年未満のレンジャーだ。俺の足を引っ張るに決まってる。で、一人で調査を進め、どうやら町外れの廃倉庫にいることが分かり、一人で向かった。そして、ああ、そこでレッドは死んでいた。殺されたんだ。誰にって? そりゃあ、奴、正確には奴の土人形にだ。土人形はまだ経験が幼いレッドを殺害した。しかも上半身と下半身を永久にバイバイさせてな。おまけに伸び出た腸を弄って俺が着いた時にゃ腸で蝶々結びと洒落込んでいやがった。ま、そいつは対処法を知ってる俺が倒したんだが。現場は辺り一面血の海でかなり凄惨だった。足の踏み場もないくらいにだ。
俺は若い血を踏み散らしながら土人形と戦う羽目になった。土人形は乾いた腕を血に濡らして俺を捉え、可哀想なレッドの様に引き千切ろうとしてきた。俺はデジリボルバー(※(1))を抜き、口径を四四から五〇に変えた。で、二、三発撃ちながら牽制してみた。腕の体表が何枚か禿げたがそれだけで有効な攻撃にはならない。そこで俺は腰からアーキテクトウィップ(※(2))を取り出した。奴の動きはかなり遅いからウィップを巻きつけるのは至極簡単なことだった。そこから奴の体を上下左右に揺らし何度か壁に叩きつけた。動けなくなるまでな。
「くたばれ。この野郎」
冷静なつもりだったが、俺は静かな怒りを覚えていた。若い青年だぞ。どれだけ捻くれていようと育て甲斐は十二分にあるはずだったんだ。もう動かないのを確認してウィップを解き、……解かなきゃよかった。次の瞬間、俺は土野郎にあえなく捕まっていた。
で、立派なモノを持った下半身が無くなって機械仕掛けの水飲み鳥になったのかって? いや、もちろんまだある。
※(1)デジリボルバー=口径を自由自在に変更可能な可変金属(モブメタル)を使用した特殊回転式拳銃。荒久佐の愛銃。常に二丁持ってる。
※(2)アーキテクトウィップ=誰も知らない惑星ノヴ(ノヴァじゃない)より回収した鞭。使用者に反応して自由自在に動く。最大九〇〇kgまでなら持ち上げられる。リボルバーと同じく荒久佐が愛用している。
土人形はそのまま片方で俺の両腕を掴み、もう片方の手で俺の両足を掴んだ。途端に骨が軋みを挙げてあわや俺の体はぷっつんいくところだった。だが、実は俺にはある秘密兵器があったんだ。
その名も「アンリミテッド」。こいつは約五秒間だけ精神が肉体を凌駕する。つまり肉体が制限するところの精神を逆に精神が肉体を支配してしまうという何ともとんでもない技術だ。俺は惑星ノヴの探索中に……おっと、また話が脱線するところだった。兎に角、ノヴで不本意に起こった肉体改変のおかげで俺は五秒間だけ自分の体を自由自在に変化できる。この技術はテラにもノラにも存在しない貴重なもので俺の血と骨と肉と脳みその中にしかないものだ。
今の説明でわからないってんなら、端的に言って「五秒で相手を殺せる」ってことだろう。例外はない。奴、土人形の主人を除いてな。
俺は瞬間的に全身の筋肉を膨張させ、掴まれているその手を軽快にぶち壊した。まるで風船を割るみたく大きな破裂音がして奴の両腕はあっという間にただの土塊(つちくれ)に戻った。奴は急転直下の状況変化についていくこともできなかっただろう。俺はすぐ態勢を整えて呆然とする奴の前頭部を掴み、そのまま力任せに割った。ここまでで三秒だ。ちゃんと数えちゃいないがな。
頭を潰した。これで終わりなのかと言われればそれはまだだ。土人形には明確な倒し方と弱点がある。というより、むしろ弱点を的確に突かなければ奴は倒せない。再生機能はないのにな。例え四肢を破壊しても弱点を突かなければ永遠にマナーモードの達磨人形だ。そうならず、ただの泥に戻してやる方法はたった一つ。
口の中のノドチンコを貫くことだ。
奴の口を力任せに開き、デジリボルバーを五〇口径のままその中に押し込んだ。引き金を一回引いて、ハイ、おしまいだ。それで奴はただの土の塊に戻り、床一面に広がった若若しい血の上にバシャリと落ちた。銃を回しながらホルスターにしまい、膨らんだ俺の上半身は元に戻った。五秒ピッタリだ。数えちゃいないが。
そして俺は一息を吐き、目の前にできた土の山に倒れこみ意識を失った。
アンリミテッドを使うと五秒間だけ神の如く超人になれるがもちろん弊害もある。肉体を酷使した精神が肉体の中に舞い戻ると当然、酷使した肉体が悲鳴を上げるし、疲労した肉体に精神は耐えられない。要はこの力を使ってありえない無茶をすれば最悪死ぬってことだ。だが、この時は気絶しただけだった。が、それが余計にまずかったんだ。
次に目が覚めた時、俺はベッドの上で四人のフォーミラレンジャーにフォーミライフルを突き付けられていた。
※フォーミライフル=全体的に白く丸く、持ち手(グリップ)の上にある球形のエネルギーボールが露出しており青白い光りを放ち、またボールと銃本体の接触面が赤く発光している。ボールを頂上とする山なりになった形をしており、引き金(トリガー)の右脇に射出されるビーム強度を変更するダイヤルが、左には実弾とビームの切り替えが可能になっている。またビームモードは二種類あり一つはガンモードもう一つのソードモードは銃口から八〇㎝程度の光刃を出現させる。またATG内でも一、二を争うほど名前がダサい。
四人とも変身しちゃいなかった。で、髪の長い月次 朱里(ピンク)が衝撃的なことを言った。
「レッドを殺したわね!」
月次 朱里(つきなみ じゅり)は色気よりも可愛げの方が勝る十九の少女だ。黒いストレートヘアーは若さを前面に押し出したような艶だが、その実彼女を見る時は下の短いスカートの方に目がいく。動きに合わせてヒラヒラと動き、しかも短いものだから時たま白いものが拝めてしまう。「俺は殺してない」突き付けられた銃口より彼女の太ももを見ながら言った。そしたら、青山 コウ(ブルー)が言う。
「嘘つけ! あんたが赤川を殺したんだろう!」
俺は殺しちゃいない。だが、今度は緑と黄色が同じようなことを感情任せに言いやがる。もうこれだけで重症なのはよく分かったが、一応その顔を一人一人よく拝んだ。仏を四度怒らせたような顔をしていて、俺は事の次第を冷静に説き伏せようかそれともこいつらから逃げ仰せちまおうか考えた。それで、俺寝ているベッドと壁と天井を見た。近未来SFが示すところの近未来感。曲線的なデザインで白く輝いていて何故か壁の床近くと天井近くが青く光ってる。ああ、どうやら俺は逃げられないようだった。
ここは衛星軌道に浮かぶ最悪最強の超巨大空母「ヨシキリ」(※)の中だ。
※巨大空母「ヨシキリ」=現在ATGの象徴であり子供達にとっての(プロパガンダ教育的)憧れの存在である。惑星ノラの衛星軌道上をノラへの太陽光照射を阻害しないように浮遊しているATGの旗艦でスーパーレンジャーの一大拠点である。船員の殆どはレンジャーと彼らを支援する下部組織であり、情報支援から作戦立案、各レンジャーへの技術開発、提供までこの艦で全てを行う。また空母という名目ではあるがその実戦艦でもあり、甲板が無く小惑星程度なら破壊可能なスペースデブリ振動砲を六門、また近辺にある小惑星を任意の地点へ誘導、衝突させるメテオシステムを搭載している。しかし、ちゃんと戦闘艇や輸送艇を一〇〇以上有している。
続く
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