第6話
横薙に繰り出された刃を避けると、すぐに突きを繰り出してくる。
やっぱり剣術は、完全にジルベールのほうが上だ。一撃をかわしたと思えば、すぐに次の一撃が襲ってくる。それも一撃、一撃が重くて俺への負担が大きい。
そのうえ俺より、かなりリーチがながい。このまま続けていても、確実に俺が負ける。
俺はジルベールとの間に、氷の板を構築する。それに反応し後ろに距離をとった奴から、さらに後方にとび距離をとった。
近距離が駄目なら、遠距離しかない。近づいたら敗けは、確定している。俺はジルベールの周りに絞り、氷の刃を出現させると一斉に奴に向けて放った。
だが、俺が放った氷の刃はジルベールに傷ひとつつける前に消滅した。ジルベールは、自分の周りに出現した氷の刃を、火の術を行使して一瞬で蒸発させやがった。
風で切り裂けばそれで事足りるのに、氷を消すという術を放った相手からすれば完全な敗北を印象付ける方を選択しやがった。
とんでもなく、素敵な性格をしている。
だがここで敗けたら、モブの名がすたる。最近のモブは少しは、がんばるものだ。モブの意地を見せてやる。一度蒸発させたからって、勝ったと思うなよ。
俺は再び先ほどと同じように、ジルベールに刃を向けた。
ジルベールは同じ様に氷を出現させた俺を訝しげに見てくる。
いやわかってるよ。同じことしても俺にかなうわけないのに、なにやってんのこいつとか思ってるんだろう? わかってる……おい視線がうるさい。
心が折れそうになりながらも、俺は同じようにだが全てでは無い刃を放った。
今度も、一瞬で蒸発させられたが、ほんのわずかだけ時間をずらして放った刃を奴の目の前まで放ち動きを止める。
いやいくらなんでも寸止めじゃなくて、刺したら洒落にならいからな。
「まいった」
すぐに消されるなら、それに気を取られているうちに第二段を放てばいいと考えたんだ。だから全ての氷を一斉に放たずに、タイムラグを与えた。一撃目を消して油断しているところに、気づかれない位に残した第二撃を放つ。一撃目を全て消してもう大丈夫だと安心したわずかな隙間に、待機させていた氷の刃を喉元に向かい攻撃させた。
勝てたかと思った瞬間、ジルベールは笑みを濃くした。
「なんてね」
そう笑った直後、刃の切っ先が風に切断される。
そしてジルベールは、刀身を俺の腹めがけて横に打ち付けた。すんでの所で術を行使して、防御に使うが強化のほとんどされていない氷は、あっけなく崩れ俺は少なからずダメージを負う。
「面白い」
うんあれだ。モブのくせに攻略キャラに手心を加えていたら勝つもの勝てないよな。気づかせてくれことを、ジルベールに感謝しよう。
相手はレベル99まで行ける奴だ。よし手加減なしでいこう。俺は痛む腹を押さえながら、術を構築する。
ふと追撃をしかけようとしていたジルベールが、動きを止めてこちら見てくる。なんで動きを止めたかを考えている余裕はない。俺は術の構築を最優先にして闘技場の内腔をすべて覆うように、氷の刃を出現させた。これで勝てなかったらもう終わりだろう。そう思う位には頑張った。
だがジルベールは、焦りを見せないどころか降参を告げるわけでもない。目を輝かせたあと口角を、三日月のように上げる。何をする気だと訝しんでいると次の瞬間、闘技場内の俺とジルベール以外のすべてを炎が包みこんだ。
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