第1208話 「闇払」

 ローはタウミエルの攻撃に対して魔剣の障壁を展開して防御。

 銃弾は着弾点とその周囲の空間にある物を消滅させる作用があるので、防御より回避が対処としての最適解だが構わずに突っ込む。 銃弾は障壁をあっさりと食い破りローに襲いかかる。


 ローは体のあちこちが抉れるが、強引に間合いを潰す。 最短距離を行ったので瞬く間にタウミエルとの距離は縮まり、剣が届く間合いに入る。

 タウミエルの対応は変わらず、状況に応じた最適な行動を選択。 武器を引っ込めて腕には光る枝のようなものがメキメキと軋むような音を立てて生える。


 ローは魔剣を第一形態に変形。 タウミエルは貫手のように指を揃えて伸ばす構え。

 両者は同じ攻撃手段――突きを放つ。 間合いは魔剣の方が長いので攻撃が先に到達するのはローなのだが、タウミエルの空いた手に魔法陣のようなものが浮かぶと螺旋を描いた魔剣の刃が消える。

 

 タウミエルの行動はそれだけでは終わらない。 魔剣の刃を掻き消すと即座に銃を生み出し、やや無理のある姿勢――脇に挟むような姿勢で背後に発砲。 銃弾は奇襲を仕掛けようとしていたサベージを正確に捉え、回避を許さずにその体を大きく抉る。 咄嗟に大きく仰け反って攻撃範囲から逃れようとしたが、胴体部分が大きく欠損し、文字通り胴体がバラバラになって散らばる。


 ――これで二手。


 魔剣、サベージの対処でそれだけのアクションを行った以上、本命への対処は遅れる。

 ローは左腕ヒューマン・センチピードを振るう。 複数の百足は網のように広がってタウミエルへ襲い掛かりその全身に絡みつく。 通ったと確認したと同時に影による拘束と魔眼など、動きを止める能力を持ったあらゆるものを放つ。


 片端から対処されるが動き自体は完全に止まった。 拘束できた時間は僅か数秒。

 だが、それだけで充分だった。 ローの性格上、他人任せにするような事はあまり好まないがこだわっている場合でもないのでまぁいいかと思い最後の詰めを他者に委ねたのだ。


 この場に居る最後の一人――聖女の聖剣がタウミエルを背後から袈裟に両断。 胴体の中心を間違いなく捉え、構成する重要な何かを切り裂いた手応えを感じる。

 ローは枝による侵食を受けていた百足を自切し、小さく下がって距離を取り、魔剣を分身させて全てを第二形態に変形。 魔力の充填を行うと一斉に発射する。


 聖女は既に攻撃の範囲外へ離れており、何の障害もない。

 光線は崩れ落ちようとしていたタウミエルを捉えるとその姿を完全に消し去った。

 ローは注意深く周囲を警戒し、タウミエルが完全に消滅した事を確認すると小さく息を吐く。


 サベージはバラバラだが、頭部が無事だったので放っておけば再生するので放置。

 聖女も敵の撃破を確認し、分かり易く全身の力を抜いた。

 

 「あの――」

 

 何事かを口にしようとしたが、ローは無言で手を上げて制する。

 タウミエルの撃破はなったが、まだやる事が残っているのだ。 休んでもいられない。

 そのまま歩き出し、タウミエルが守っていたであろう巨木へと近づく。


 本当の意味での植物ではなく、表面は光っているがよく見ると鉱物にも見える。

 印象としてはジオセントルザムに存在したオブジェクトに似ていた。

 

 ――さて、これはどうしたものか。


 内心で首を捻りながら取りあえず触ってみようと手を伸ばすとバチリと何かが弾ける音がして、手が跳ね返される。 ローは無言で数歩下がると魔剣を変形させて光線を連射。

 魔力を弾く性質があるのか届いていない。 ならばと刃を直接叩きつける。


 すると固い感触が返ってきたが、樹の表面に傷が刻まれた。

 第一形態に変形させて試すが、接触前に刃が分解される。

 

 ――なるほど。


 傷はつけられる事を知ったローは魔剣を分離させて両手に握ると交互に樹に叩きつける。

 斬るのではなく叩きつけて表面を破壊していく。 樹は抵抗するように弾こうとするがローは意に介さず淡々と作業のように魔剣を用いて掘り進める。


 何か確信があった訳ではない。 ただ、そうするのが正解だと何となく思ったからだった。

 一振りごとに破片が飛び散り、表面が大きく抉れる。

 聖女はローが何をしているか理解できていないので、声をかける事も出来ずに黙って彼の背を見つめるだけだった。 再生の済んだサベージは聖女の斜め後ろで周囲を警戒。


 タウミエルの消滅により、後方で行われていた戦闘の気配は消え去り、眷属の出現も完全に止まっていた。 それは他の戦場でも同様で、背水の陣を敷いていたオラトリアム、センテゴリフンクスの両戦場で猛威を振るっていた個体群も本体の消滅と同時に全て消え去る。


 


 タウミエルの眷属群の消滅を知ってエルマンは大きく目を見開いた。

 もう建物の中に入られていたので指揮の必要がなくなり、指揮所にいる者達を引き連れて迎撃に出ようと駆け出している時に入った報告に思わず窓から外を見る。


 さっきと同様に何らかの手段で一時的に消えたのかと視線を出現する穴に向けるが、追加が来る気配はない。


 「――これは終わったのか?」


 本当に? オラトリアムはあの化け物をどうにかしたのか?

 俄かに信じられなかったが、あちこちから敵の消滅とこれからどうすればいいのかの指示を乞う連絡が入る。 少しの間、呆然としていたが、エルマンは思い直して負傷者の治療と警戒を指示した。



 

 「――は、信じられねぇ。 俺、生きてんのか?」


 装備が半壊し、立っている事すら難しくなった北間がそう呟き、彼に肩を貸している葛西も半ば信じられないといった表情で呆然と空を仰ぐ。 一時的に敵を退けはしたが、そう時間を置かずに追加が襲いかかってきた。

 それにより立て直せた事も大きかったが、街はほぼ全壊。 残っているのは指揮所のある建物だけだ。


 その建物も敵の攻撃に曝されて半壊しており、あちこちで内部が露出している。

 

 「葛西、何人残った?」

 「……為谷さんと道橋はどうにか無事だが、他は――どうだろうな? 姿が見えない」

 「あぁ、きっつい。 これ、終わったのか?」

 「分からん。 エルマンに連絡は入れてるから指示が入るだろ。 取りあえずちょっとは休めそうだな」


 葛西は北間を近くに座らせて周囲を見回すが、無傷の者は一人もおらず誰も彼もが満身創痍だった。

 視界にいる限りで生き残っている彼の知り合いはハーキュリーズとゼナイドぐらいだ。

 ハーキュリーズも限界が近いのか小さく目を閉じて建物に背を預けており、ゼナイドは座り込んでいる。 動ける者達は終わったのかと半信半疑の表情で敵が消え去った空を眺めていた。

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