第1167話 「綻始」

 銃弾は不自然な軌道を描いて襲いかかって来る。

 まぁ、静止後に地面を潜って下から飛んで来ている時点で自然とは程遠いが。

 障壁の下を潜ってきたので黙って見ていると普通に打ち抜かれる。 俺は防ぐべく影を展開。


 銃弾は障壁に接触したと同時に炸裂し、影を吹き散らした。

 驚いた。 こんな事も出来るのか。 恐らくは魔法的な効果をキャンセルする効果でもあるのだろう、突破というよりは解除された感触がする。

 防御を剥がされたので体で受けようかとも思ったが、当たったら何が起こるのか怪しいので魔剣を左手に持ち替えて半数を叩き落とし、残りを右腕に着けた仕掛けを起動して対処。


 籠手に似たそれは内蔵していた機能を発揮し、扇子のように折りたたまれていた円形の小盾を展開する。 厚さ数センチもない薄っぺらい盾だが謎の銃弾とそれに付随した衝撃を完全に防ぐ上、傷一つついていない。


 それもそのはずだ。 この盾は俺が破壊した例のオブジェクトの残骸を加工して作った物なので頑丈さは折り紙つきだった。 加工法が確立しなかった難物の素材だったが、聖剣なら傷を付けられるので夜ノ森と弘原海の二人が聖剣でチマチマと削って作り上げた力作だった。


 完成後、夜ノ森は疲れて早々に消え、弘原海には後で「頑張ったので大事に使ってくれると嬉しいです」と言っていたので中々に苦労したようだ。

 その苦労のかいあって凄まじい防御性能を誇り、魔剣や聖剣由来の攻撃以外では傷一つ付かない。

 

 大抵の攻撃には通用する盾ではあるが、あくまで小盾で防御範囲が狭い欠点がある。

 その為、散らして飛んでくる攻撃全てに対応はできないので、半分は魔剣で防ぐ形になったのだが――防いでからしまったと内心で失敗を悟る。


 攻撃自体は防げたがそれにより鞘が砕け散ったのだ。

 さっきの一撃を防いだ時点でもう限界が近かったらしい。 盾として使うつもりで持って来ていたのに早々に砕けるとは一瞬で状況が悪くなったな。 元々、盾と同じ素材で鞘も作ろうかとは思っていたのだが、加工できるのが俺と聖剣使いだけだった事と変な砕け方をしていたので結局、出来なかったのだ。


 破片を継ぎ接ぎして体裁を整えてはみたが隙間が空く所為か肝心の魔力の流出を抑える効果が発揮しない上、衝撃を与えると接合部分から分解し、メッキのように張り付けても衝撃を与えると剥がれるといった非常に難のある素材だった。 盾も砕けはしないが固定部分に負担がかかりすぎると分解するので無敵ではなかったりする。


 ……ともあれ、これは不味いな。


 鞘が砕けた事により魔力の漏出を隠せなくなり、周囲の雰囲気が大きく変化する。

 こうなってしまった以上は仕方がないと割り切って魔剣を第二形態に変形させて発射。

 七本ある上、供給を受けられるここなら一秒足らずでそれなりの威力を出せる。


 薙ぎ払うように振り回す。 剣持ちとリボルバー使いはそのまま消し飛んだが拳闘士はそのまま掻い潜ってくる。 鬱陶しいので光線を出しっぱなしにして強引に当てて消し飛ばす。

 最初にいた連中は仕留めたが魔剣が開放された事により、追加が次々と湧いて来た。


 相手にできない事は分かり切っているのでもうゴリ押すしかない。

 一応、こうなった場合を想定していたので用意しておいた手がある。 魔剣を分離させて二本にし、片手で一本ずつ握った。

 

 片方を第二、もう片方を第四に変形させ、光線で進路上の敵を焼き尽くしながら背後や周囲の敵には円盤を嗾けて牽制する。 無理に撃破する必要はない――というよりは無駄なので障害物として捌ければいい。 同時にフォカロル・ルキフグスの障壁やグリゴリ由来の防御を張り巡らせる。


 これだけあれば少々の攻撃はどうにかなる。 突破するような危険な攻撃は盾で防げばいい。

 簡単にやられる事はないだろうが――

 

 神剣までまだまだ距離がある。 障害物がない状態ならそこまでの時間はかからないが、この連中を突破した上でとなるとかなり厳しい。

 正直、想定していた中でも最悪のパターンだ。 こいつらを引き連れて神剣へ到達する事を考えるとこれは駄目なんじゃないかと思ってしまう。 突破できたとしてもさっきの派手な攻撃を仕掛けて来た連中が奥で控えている事を踏まえると下手すれば――いや、しなくても詰んだか?


 円盤は攻撃に使いつつ敵の気を引けるように派手に魔力を撒き散らして俺から離れる。

 手近な魔力源に襲いかかる習性上、円盤にも向かうので敵の気を逸らし、俺への攻撃を減らす事に一役買っていた。


 ……はっきり言って気休め程度の効果しかないが。


 それにしてもと攻撃と防御に意識を割きながら敵の姿を観察する。

 事前に聞いていた通り本当にデザインに統一感がないな。 分かり易い全身鎧にいかにもといった感じのガンマンに武者みたいな装備を身に纏った奴までいる。


 様々な職種の見本市としか形容できない光景だった。

 攻撃はどれも強力でまともに喰らえば危険なものばかり。 それでも前に進めているのはあくまで劣化コピーの群れだからだ。


 それ故にオリジナルの半分も実力を発揮できていない。 本来の能力そのままで来ているなら今頃俺は跡形もなくなっているだろう。 それだけの力を感じさせる攻撃と動きだった。

 出て来る数に限度があるなら逃げ回りながら一匹残らず削り落として先に進むのだが、無尽蔵に出て来るのでそれは使えない。


 ……こうなってしまった以上は精々、最後まで足掻くとしよう。


 これは不味いなと思っている事にはもう一つ理由がある。 さっきから魔剣――ゴラカブ・ゴレブからの声がどんどん小さくなっているのだ。

 触れているので何となくだが分かる。 さっきから吐き出している光線の負荷に軋みを上げ、末端からボロボロと崩れ始めているからだ。


 普段なら静かになって大変結構と喜ぶところだが、せめて今回の一戦が終わるまでは保って欲しいのだが――これは無理か? 一本減れば供給量が落ちるので不利になる。 そこまで考えてふと思い直す。 一本減ったとして状況が変わるだろうか? 答えは即座に出た。 あまり変わらない。


 ……だったら別にいいか。


 そう思い直し、魔剣での攻撃を継続する。

 第二形態の光線を発射しながら振り回しているので遠くから見れば長大な闇色の光の剣を振り回しているようにも見えるかもしれない。 障害物もないここだからこそできる戦い方だな。

 

 碌に狙いもせずに振り回しているのでどこまで減らせているかも分からない。

 一応は当たっているので多少は減っているはずだが、減らした端から増えているので減ったように見えないのだ。 俺は状況を正しく理解していたが、同時にどうにもならない事も理解していた。


 連中は魔力に群がるのでこうして追い払う為に派手に力を使えば使う程に敵が増える。

 増えた連中を処理する為に大きな力を使う必要がある。 それによってまた敵が増えると、どうにもならない悪循環だ。 戦えば戦う程に状況が悪くなるのはどうにかならないものか?


 そうこうしている内に最初の破綻が訪れた。 敵が円盤に見向きもしなくなってきたのだ。

 光線を出しっぱなしにして振り回している俺の方が攻撃の優先度が上になったからだろう。

 効果がないならと図体が大きく、攻撃範囲が広い第三形態に切り替えて解き放つ。


 手近な敵に襲いかかるように指示だけ出して次々にと送り出す。 壁ぐらいの役には立ってくれればと期待を込めたのだが、結果は瞬殺だった。


 ……対処される分、無視されるよりはマシか。

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