第1025話 「膠脱」
攻撃を仕掛けようとしたガブリエル=エストラジオールが腰から両断されて即死。
味方が撃破された事にも怯まずにこの場に居る最も脅威度の高い存在に襲いかかるが、攻撃対象――クリステラは全く意に介さず次々と返り討ちにする。
撃破した数が数百を超えた所でガブリエルが生み出した眷属達の特性は凡そ把握できていた。
ガブリエル=エストラジオール。 巨大な人型の天使のような姿をしており、最も強力な個体ではあったが、動きが単調なので攻撃を誘い、食いついた所をカウンターで仕留めていた。
痛覚がないので手足の切断は無意味。 弱点は頭部の完全破壊か胴体胸部奥に存在する魔力の結晶――魔石に近いそれを破壊すれば消滅する。
強度自体はそれなりの物だったが聖剣の前には大して意味はなかった。 ただ、弱点がはっきりした段階で聖剣より拳の方が早いと考えたのか、途中から素手で殴り殺し始めていたが。
ガブリエル=エストロン。 全身鎧に大楯や武器。
サイズは人間よりやや大きく、エストラジオールより数が多い。 装備は盾がメインで武器は補助に扱う傾向にあるようで、戦闘時の動きは盾を用いて味方を守る傾向にあった。
そこを抑えれば対処は一番楽な部類で、半殺しにしたエストラジオールへ遠距離攻撃を仕掛けようとすると守る為に割って入ろうとする所を纏めて鉄塊で叩き潰した。
要するに勝手に集まって来るのでその瞬間に防御を上回る攻撃を叩き込んで一掃しているのだ。
クリステラからすれば比較的厄介なエストラジオールを片付ける際に勝手に巻き込まれに来るので、ついでに仕留めているといった感覚だった。
そして最も厄介だったのが最後の一種。 ガブリエル=エストリオール。
形状は鉱物のような物で構成された蟻などの虫に近い。
個体としての戦闘能力は最低レベルだったが、とにかく数が多かった。
エストラジオール、エストロンの二種をかなり減らした所でいきなり大量に湧いて来たのだ。
クリステラからすればはっきり言って数以外に脅威と感じる部分のない雑魚だったが、その数が問題だった。 行動傾向も近くにいる敵に襲いかかるだけなので、誘導も出来ないので足止めされている。
クリステラとしてはさっさと元凶である三種を生み出しているガブリエル=エストロゲンの処理をしたかったのだが、生み出された眷属を下手に放置すると友軍に犠牲が出るので可能な限り排除したかった。
問題のガブリエル=エストロゲンはクリステラが観察した限りでは戦闘能力は皆無。
精々、身を守る為に魔力で障壁を張る程度だろう。 だが、脅威度という点では最も高い。
さっきから無尽蔵に眷属を生み出しているからだ。 一定量出すと溜めが必要なのか動きが停止するが、時間が経過すると追加で敵を吐き出している。
欠点は停止時間と一度に出せるのは一種類だけと言う事だろう。
何度か強引に守りを突破して何体か叩き潰しはしたが、まだ百以上残っている事と大本であるガブリエルが健在なので全滅させても次が来る可能性が高い。 実際、何処からともなく聖職者らしき者達が転移で現れてエストロゲンに変化している。 否、させられているというべきか。
ただ、最初は次々と増えていた聖職者の出現が途切れたのだ。 原因は街の外で別動隊が暴れているのでそれどころではなくなった事にあるのだが、クリステラにそれを知る術はなかった。
本来ならユルシュル戦の時のように巨大な鉄塊で薙ぎ払えればと思ったが、エストラジオールの動きを全て捉えるのが難しいので直接叩き潰した方が効率がいいとの判断で使用していない。
そろそろ撃破の累計が数百から千数百を越えた所で状況に変化が訪れた。
さっきから凄まじいまでの存在感を放っていたガブリエルの姿が徐々に薄れ始めたのだ。
どうやら大本を断つ事に成功したようだと、クリステラは内心でほっと胸を撫で下ろす。
ガブリエルさえいなくなればエストロゲンが増えることはないので、全て叩き潰せばもうこれ以上増えることはないからだ。
「もう一息と言った所ですか」
クリステラはそう呟くと手近な敵を叩き潰すべく聖剣を振るった。
グノーシス側の継戦能力を支えていたのは出現した四大天使――ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルの四体だが、脅威度の高さで言えばクリステラが抑えているガブリエルも高いが同等以上に放置しておけないのが味方の傷を治療するラファエルの存在だった。
治癒効果はオラトリアム側の権能を凌駕し、致命傷ですら瞬時に癒す。
その為、即死させないと敵の数が減らないといった状態となっていたのだが、そこに介入した者が居た。
それにより効力が大幅に落ち、即死させないと死なないといった事にはならなかったが――
「流石に多いな」
――そんな重要な存在に何の守りもないと言う事はあり得なかった。
彼は周囲を聖殿騎士や聖堂騎士に囲まれており、一部は例の聖剣を剥がす鎖まで持っているのでラファエルに集中できないのだ。 ただ、近くにいるだけで干渉はできるので、ここで粘る事には意味があった。
「その聖剣は我等グノーシスの所有物。 汚らわしい異邦人如きが軽々しく触れていい物ではない!」
さっきから入れ替わり立ち代わり似たような事を言って来るので弘原海としてはいい加減、うんざりしていた所だった。 正直、何を言っているのか良く分からなかったからだ。
いや、言葉自体は理解できるので、言っている事は分かる。 ただ、問題はその主張にあった。
グノーシスの主張としては「聖剣は自分達の物だから返せ」だ。 彼は担い手としてアドナイ・メレクが自分の手に来るまでに辿った経緯は聞いていたので、言っている意味がさっぱり分からなかったのだ。
何せ最初に安置されて居た場所はグノーシスに全く関係ない場所なのだからそう思うのも無理はないだろう。
当然ながら渡す気は欠片もないので無視。 そうすると「異邦人は言葉も分からない畜生」と言って斬りかかって来るのだ。 これは煽られているのだろうかと思いつつも相手の手数が多いので、苛立っている余裕がない。
聖殿騎士が真っ直ぐに突っ込んできて死角を突く形で聖堂騎士があちこちから斬り込んで来る。
連携としてはかなりの完成度だった。 だが、そう言った連携を崩す訓練はしてきたので、弘原海としても簡単にやられる気はない。
「<
足に風の塊を発生させ、爆発させる事で瞬間的に加速。 それを二連続で発生させる。
躱すように一気に下がったと同時に一気に跳躍。 一瞬だが一部がその急激な動きに弘原海の姿を見失う。 空中でなるべく多くの敵を射程に捉え、聖剣を一閃。
「<
自身の体内を巡る力の流れに意識を向け、風を纏った刃を一閃。
数名の聖殿騎士がまともに喰らって吹き飛ぶが、殆どが反応して回避。 敵の人数が多い時はとにかく人数を減らすのがセオリーだが、ラファエルの治癒の所為でまったくと言っていいほど減らないのだ。
お陰でここで足止めを喰らう形になっていた。
――だが、その膠着状態にも終わりが訪れた。
ラファエルの輪郭が薄れその姿が溶けるように消えて行ったからだ。
それを見た敵味方の全てが目を見開く。 聖騎士は驚愕し、弘原海はやってくれたかと拳を握る。
「よし、これなら行ける」
弘原海はラファエルの妨害へ割いていた聖剣の能力を眼前の敵に向ける。
まずはここの敵を一掃するべく、弘原海は攻勢に出た。
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