第945話 「関与」
「その勢力にグリゴリが先に仕掛けた事により、交戦状態に入ったと?」
「ヒュダルネス殿。 ヴァルデマル枢機卿は直近と仰られています。 質問は話をすべて聞いてからにしたほうが良いかと」
ヒュダルネスが疑問を口にしようとした所で、サンディッチが止める。
彼としても情報が出揃ってから頭の中で纏めたいと思っていたので、聞ける話は先に聞いておきたいと考えていたからだ。
ヴァルデマルは大きく頷くと話を続ける。
「次に関与が疑われているのはヴァーサリイ大陸南部――オフルマズドの壊滅です」
オフルマズドに起こった不可解な滅びはクロノカイロスにも伝わっている。
実際、何の前触れもなく国が消え失せたのだ。 あの事件に関しては分かっていない点も多く、管理している教団の者達も残らず姿を消している。
そして何があったか分からないようにする為か更地になっていたが、隠しきれない戦闘の痕跡が殲滅された事実を物語っていた。
オフルマズドの崩壊はそこで管理されていた第三の聖剣と魔剣の喪失を意味している。
第九の消失に第三の喪失。 この時点でその組織の危険性がはっきりと理解できるだろう。
「他にもヴァーサリイ大陸中央部アラブロストル、チャリオルト間での戦争にエンティミマスでの魔物騒動、そしてアラブロストルの北方で発生した第五の領域――ザリタルチュの氾濫。 この三つの事件は関連性は低いかもしれませんが、時期が近いので怪しいと睨んでいます」
一同はサンディッチの言葉通り、最後まで聞いてから口を開くつもりなので何も言わない。
ただ、色々と尋ねるつもりではあるのでそれぞれ頭の中で考えを纏めていた。
「特にザリタルチュの一件には気になる事もありますが、今はいいでしょう。 そしてアイオーン教団の発足の契機となったウルスラグナ王国の王都襲撃事件。 特にウルスラグナは大規模な事故や事件が多発し、かなりの死傷者が出ているのでもしかしたら……」
一通りヴァルデマルの話を聞いた一同は沈黙。 ややあって最初に口を開いたのはヒュダルネスだ。
「ヴァルデマル殿はその全てに謎の組織が関わっていると?」
「はっきりとした証拠がないので疑わしいといった段階ですが、裏に何かがいるのは明らかかと」
「……話を聞く限り、アイオーン教団はその良く分からん連中とかかわりがあるのは濃厚。 ならば関係者を捕らえて吐かせれば良いだけではありませんか!」
ヒュダルネスは全てに関与しているは飛躍しすぎではないのかとやや懐疑的であり、フェリシティは分かっている所から責めれば良いのではないかとシンプルな結論で話を纏めようとする。
それを見てサンディッチは何の為に話をしているのか理解しているのかこの馬鹿はと思いつつ、脳裏で情報を纏めていた。
「おい! フローレンス! お前も黙ってないで何とか言ったらどうだ!」
フェリシティは他の反応が芳しくないと思ったか、さっきから一言も発しない同僚に声をかける。
フローレンス・ジンジャ・ストラウド。 ジオセントルザムの北方守護を任されている救世主だ。
年齢的にはフェリシティより一つ上だが、見た目だけなら彼女よりやや若く見える。
艶やかな長い髪にどこかぼんやりとした雰囲気を身に纏っており、この場では浮いた雰囲気を醸し出していた。
「……知らない。 私は教団が斬れと言った相手を斬るだけ」
「だからその斬る相手を見定める為に――」
「知らない」
「おま――」
「知らない」
流石のフェリシティもここまでバッサリと切り捨てられると黙らざるを得ない。
そもそも会話をする気がないので、何を言っても無駄なのだ。
ヒュダルネスとサンディッチはいつもの事なので気にしない。 ストラウド――本人は名前のフローレンスと呼ばれる事を好むのでそう呼ばれている彼女は、こと戦闘においては非常に頼りになる存在なので、放っておいても勝手に仕事をしてくれると割り切っているのだ。
特にサンディッチはうるさくない上に馬鹿な事を言ってイラつかせない分、フェリシティよりも付き合いやすいとすら思っていた。
フェリシティが静かになったタイミングでサンディッチが口を開く。
「……取りあえずですが、話を整理しましょう。 流石に情報が多すぎます。 まず、グリゴリを滅ぼしたのはアイオーン教団とそれを裏で操っているか何らかの形で支援している謎の組織。 実在こそ怪しいが、世界各地で関与を臭わせる事件を起こしているので存在していないとも言い切れない」
サンディッチは話しながらヴァルデマルの語った内容を整理しつつ考察を進める。
言葉にするのはいいと彼は考える。 言葉にする事により考えが纏まりやすくなるからだ。
「ここは実在すると考えた方が無難でしょう。 重要なのは何を目的としている組織なのか? どれほどの戦力を持っているのか? そして我々、グノーシスに対して何をしようとしているのか? 大きく分けてこの三点でしょう」
目的、保有戦力、そして周囲に対しての立ち位置。
知る必要があるのはこの三点だろうとサンディッチは考える。
「……目的に関してははっきりしない印象を受けるな。 あちこちで大きな勢力に対して何らかの工作を行っているといった感じだが……」
「ええ、ただそれは全ての騒動に関与していればの話です。 個人的な意見ですが、エンティミマスの魔物騒動とザリタルチュの氾濫、アラブロストル、チャリオルト間の戦争は無関係かと」
「根拠は?」
「魔物騒動はグリゴリを襲撃した勢力が巨大な魔物を使役している点を加味すれば怪しいと考えられますが魔物は処理されています。 本当に関与しているのであれば使役を試みない理由がない。 単に失敗した可能性も捨てきれませんが、考え難いかと思います。 次にザリタルチュの氾濫ですが、辺獄の氾濫は魔剣の力が原因とされている以上、人為的に起こしたと言うのは考え難い。 それに発生時期はかなり前だったと記憶しています。 その為、関連付けるのは不自然かと。 最後の戦争に至ってはわざわざ起こす意味が分からない」
「確かにその三件に関しては無関係かもしれんな」
どの事件も断片的にではあるが、彼等の耳に入っているので判断する為の材料は元々持っていたのだ。
特にサンディッチは性格上、他国の事件の情報も積極的に仕入れていたのでその言葉には淀みがない。
実際、エンティミマスはダンジョンの正体が巨大魔物であり、死亡した事により都市は壊滅。 貴重なタイタン鋼の鉱床も失われ、誰も得しない結果となっており、アラブロストル、チャリオルト間の戦争に至っては結果が出たにもかかわらず、明確に得をした者が存在しない。
確かにチャリオルトの山々はアラブロストルの領土となったが、死傷者の数と破壊された新兵器の魔導外骨格の損害を考えれば明らかに赤字だ。 そもそもあの兵器は実戦ノウハウが足りていないので、投入自体が突発的なものだったという事は簡単に想像が付く。 仮にアラブロストルから仕掛けたにしても、ザリタルチュ氾濫の直後というのは時期が早すぎる。
そして最後のザリタルチュの氾濫についてだが――
「ヴァルデマル枢機卿。 ザリタルチュの氾濫に関して気になる事とは?」
――こればかりはサンディッチも知らない事だったので、ヴァルデマルに話を振る事となった。
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