第903話 「霊魂」
「転生者の皆さんの魂の形は非常に歪な形で成立しています。 当初は異なる生き物と融合する事で発生した歪みとも考えられましたが、霊という要素を加えればそれも含まれていると思われます」
エゼルベルト自身もどう言えば伝わりやすいのかと考えながらなのか少し詰まりながらも言葉を並べる。
「恐らくですが、あのワーム状の姿は霊と魂が混ざった事で形成され、他の生物との融合を経る事で変異。 ワーム状になるのは肉体という要素を欠いた状態が大きな要因と思われ、その結果として異形の肉体と魂を持つに至ったと言うのが現状で導き出した推論です。 加えて性質自体にも変化が出たのでしょう。 皆さんが魔法を行使できている点がそれを物語っています」
元々、肉体を欠いた霊と魂が混ざる事でミミズになり、原形を留めていない状態で他の物を取り込んで変異する物だから更に訳の分からない形になると。
なるほど、ただでさえおかしくなっている状態で別の生き物と融合して肉体まで変異しているから魂がまともな形をしている訳がない、か。 状況だけで推測したのだろうが、的を射ているとは思える内容だな。
……まぁ、その霊とやらが本当に実在するのならだが。
反応に関してはそれぞれ異なっており、アスピザルはやや感心、夜ノ森はやや懐疑的なのか僅かに首を傾げている。 首途はあまり興味がないのか反応を示さず、逆にヴェルテクスは気になるのか興味深いと言った感じで聞き入っている。 珍獣は大人しいと思ったら無言でメモのような物を取っていた。
俺としてもそこまでおかしいとは思わなかったので、そのまま頷く。
完全に信じた訳ではないが、筥崎も似たような事を言っていたので信憑性は高い。
奴の言葉は意味深なだけで今一つ理解できなかったが、エゼルベルトの話と併せるとやや見えて来る物もある。
……構成する三つの要素の一つだったか。
それが肉体、霊、魂を指すと言うのなら筥崎の話の信憑性も自然と増す。
これはますますもう一度奴の住処へ行く必要があるな。
「転生の概要に関しては以上となります。 あくまで僕達が調べた情報を基に組み上げた推論なので、それが正解なのかと言われるとはっきりと断言はできませんが……」
「個人的には結構、面白かったしそこまで乱暴な説でもないと思ったよ?」
「……そうだな。 こいつの言う霊とやらが実在するなら、信じてもいいんじゃねぇか?」
アスピザルは特に何もなく、ヴェルテクスは俺と同様に前提が正しければと但し書きを付けて同意を示す。
「……転生関係の話題は一通り出た感じかな? 僕としては個人的にはこの先の話題が気になるかな? 今後の動きにも直接絡んできそうだし」
だろうな。 正直、転生に関しては確認以上の意味があまりないので、知った所で何かが変わる訳でもない事もあって興味深い内容といった感想は出るがそこまでだった。
今までの話題は前置きに近かったので、そろそろ本題に入るとしよう。
「世界の滅びに関してだ。 お前は以前に言ったな。 この先の戦いに備える為と」
エゼルベルトはやや緊張した面持ちで頷く。
「……まず、世界の滅びに関してはヒストリアの首領が持つべき情報を与えられていない僕にははっきりとした事は言えません。 ですが、状況からそれは確実に訪れると断言できます」
「それに関しては疑う気はない。 滅ぶと言っている奴が多すぎる現状で、妄言と切り捨てるには無理があるからな」
問題は具体的にどう滅ぶかが問題だ。 何が起こるのかが分からんので、対策の練りようがない。
最低限、何がどうなって滅ぶかぐらいのヒントは欲しい所だな。
「正直、最初は辺獄の侵食でそのままって考えだったけど……「
俺も居合わせた訳ではなく、後で報告として聞いたので何とも言えん。 離れた位置ではあったが、例の闇の柱が立ち昇った瞬間とその後にセンテゴリフンクスで「虚無の尖兵」とかいうマネキン擬きとは出くわした。
正直、動き自体は良かったが、手近な存在に自動で襲いかかるだけだったので、はっきり言って動ける雑魚以上の感想が出てこない。
辺獄だったので魔剣をフルに使えたと言う事も大きいが、それを差し引いても脅威度はそう高くないと考えている。
「在りし日の英雄」達があの連中の前に斃れたと言うのは考え難い。 あんな雑魚なら百万いても連中を仕留める事は不可能だろう。
「あの者達は単なる先触れにしか過ぎません。 僕も詳しくは知りませんが、比べ物にならない程に強力な上位個体が存在すると聞きます」
……だろうな。 あの連中が負けるレベルの相手となると相当の物だろう。
「……その詳細は?」
そう尋ねるとエゼルベルトは力なく首を振る。 何だ知らんのか。
「第一段階としては辺獄の侵食。 第二段階として「無」を冠する者達の出現。 ここで問題なのは辺獄の侵食により、世界が辺獄に包まれると言う事です。 辺獄の環境下では転生者の生存は難しく、聖剣の力は失われます。 その為、必然的に魔剣の力が有効となります」
だろうな。 辺獄の浸食が進めば聖剣は役立たずとまではいわんが、性能は大きく落ちる。
対抗戦力として魔剣を欲しがるのは理解できるが――
「魔剣と聖剣って今は全部で九本ずつでしょ? その穴ってのは消滅で発生するんだから、今のところは問題ないんじゃない?」
――アスピザルの言う事ももっともだ。
魔剣は五本が俺の手元に、聖剣は三本がオラトリアム内に存在する。
後はアイオーン教団に聖剣が三本と魔剣が一本。 後はグノーシスが二本ずつ回収したと言うのは聞いたな。 ワンセット足りないが――
「恐らく最後の領域はクロノカイロスに存在する筈です。 つまりは――」
「グノーシスが押さえている可能性が高いと」
エゼルベルトが肯定するように頷く。
全十八本中、オラトリアムが八、アイオーンが四、グノーシスが六となる訳だ。
所在がはっきりしているのは分かり易くていいな。
「……というかこうして考えるとこっちでほぼ半分を独占してるのは凄いね。 後は余計な事をしなければ――」
「いえ、そう言う訳にはいかないでしょう」
アスピザルの言葉をエゼルベルトがやんわりと否定。
「既に第九の聖剣シャダイ・エルカイと魔剣リリト・キスキルが消滅している以上、あの地に再び穴が空くのは時間の問題かと」
あぁ、そう言えばそうだったな。 確かグノーシスが建てた奇妙な柱が聖剣の代わりを担っているという話だったが、言われてみればいつまでも保つ代物とは思えないな。
放置すればどちらにせよあそこにまた穴が空くと。
「つまりは根本的な処置が必要になると言う訳だな。 ――で、その様子ではお前はそれを知らないと」
「……はい。 ですが、知っている者には心当たりがあります」
瞬間、アスピザルとヴェルテクスの顔色が露骨に変わる。
これに関しては気持ちは分からんでもない。 何を言い出すのかが分かり切っているからだ。
「僕は皆さんにグノーシス教団の本拠――クロノカイロスへの侵攻を提案します」
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