第901話 「転生」
「まずは転生者がどのようにこちらの世界に来るのか? そして何故、このような姿になるのか? 考えたのはそのメカニズムです。 まず全員に共通する特徴は線虫――黒いワーム状の見た目と周囲の生き物に捕食を促す匂いを発する事です」
……匂い?
それは初耳だっ――いや、確か俺が転生した直後に始末したゴブリン共がそんな記憶を持っていたな。
「――どうもあのワームは周囲の生き物に自身を捕食させる為にフェロモンのような物を放出するようですね」
「ほー、道理で周りの虫やらが目の色変えて襲ってくる訳や」
「はい、その為、転生者の外見は最も近くに居た生き物がベースとなる事が多いです」
なるほど、納得のいく話ではあるな。 あのミミズは無意識に美味そうな匂いを出して自身を喰わせ、この世界に居る転生者の肉体の出来上がりと言う訳だ。
「……えぇ、そんな匂い出してたの? まぁ、状況を考えれば納得できなくもないけど……」
「この辺りは皆さんもご存知だと思いますが、その後は捕食した生き物と融合。 肉体を構成する為に必要な養分を摂取した後、人間と捕食した生き物のハイブリッドが出来上がります」
この辺は既知の情報だな。 前に首途から聞いた覚えがある。
「……そうね。 この姿になって落ち着くまでの間は記憶が飛んでいたわ」
「儂もやな。 なんか、目の前は真っ赤になってぶつ切りやけど、目に付いた物を手当たり次第に食うとった記憶があるなぁ」
その過程は俺にはなかったから、何とも言えんな。
「僕は人格の統合に時間がかかっただけで、それは起こらなかったかな?」
アスピザルは小さく肩を竦めるとエゼルベルトは興味深いと言った表情を浮かべる。
「……アスピザルさんのような人間ベースは人格の統合が上手く行かないケースが殆どです。 結果、廃人となって死亡するので、生きて今まで過ごせていたと言うのは驚きです。 頭痛や人格分裂による多重人格化する事はなかったのですか?」
「うーん。 最初は記憶が二つある事の齟齬でかなり混乱したけど、落ち着いてからはなくなったかな? ただ、元の二つの記憶の主――要は日本で過ごした自分と、元々のアスピザルの事を他人みたいに感じちゃうようになったけどね」
エゼルベルトは感心とも尊敬ともつかない視線をアスピザルに向けて何度も頷いている。
「凄い。 完全に統合に成功しているのか。 代償にかつての人格との乖離が発生したのか……」
「僕の事は別にどうでもいいよ。 こうなった所為かもしれないけど前の自分に未練とかないし」
「え、えぇ、では話を続けましょう。 次は転生者がこちらに呼ばれる理由です」
それは中々面白そうだ。 正直、俺の見解としては特定の条件を踏んだ結果で、稀に起こる自然現象に近いものといった認識だったのだが、何かしら理由でもあるのだろうか? だとしたら興味深いな。
「理由? 何それ? 実は世界を俯瞰している神的な存在が居て、僕達を送り込んで何かやらせようとかそんな感じ?」
「なんやそれ? 昔のゲームみたいに勇者様魔王を倒してくださいっちゅう奴か?」
「いや、それだったら真っ先にローを倒せって言われるかもね」
「がっはっは、兄ちゃんやったら勇者っちゅうより寧ろ倒される魔王やな!」
アスピザルと首途が顔を見合わせて笑う。 明らかに理由があると言う事に懐疑的だ。
夜ノ森が「ちょっと二人とも」と窘めるの見てエゼルベルトは苦笑。
「そんな恣意的な理由で呼び出すような存在はいないと思いますが、転生者を引き寄せる存在が居るとは考えられています」
「ふーん? その正体は?」
「辺獄です」
エゼルベルトがあっさりと口にした答えは少し意外な物だった。
それを聞いてアスピザルはやや疑わしいと眉を顰める。
「……なんでここで辺獄が出て来るのさ? やっぱりあそこはあの世か何かで、実は日本で死んだらあっちに行くとかって話?」
「いえ、先程、辺獄の話をした時にあの地の特性はご理解頂けたかとは思います」
「魔力を喰うって話? それが――あぁ、そう言う事?」
途中で理解したのかアスピザルの表情が納得に変わる。 俺も途中で気が付いた。
辺獄は魔力を喰らう。 そしてそれを防ぐには魂と肉体が揃っていなければならない。
これだけの情報が揃っているなら何となくだが見えて来る。
「……つまりは転生直後の姿は魂だけかそれに近い姿で常に辺獄に引き寄せられている状態と言う訳か」
俺の根が外気に触れるとあっさり消滅するのはそれが理由だと考えると納得が行く。
「ほーう。 つまりこっちに落ちて来るのは辺獄に行く途中で引っかかった結果っちゅうこっちゃな」
「はい。 つまり転生者の本来行くべき場所は辺獄ですが、皆さんの居た世界と辺獄との間にこの世界が存在する事によって結果的に現れたと見ています」
「つまりこの世界はフィルターみたいな物って事?」
「認識としてはそれで正しいと思います」
面白い話だ。 納得の行く点も多いので、信憑性も高い。
どう言う訳か転生者の魔力保有量は人間と比べれば桁が一つ違うレベルで高いので、辺獄が魔力を喰らう特性があると言う前提で考えれば転生者を喰いたがるのはあり得ない話ではないな。
「整理すると辺獄は何らかの手段で日本で条件を満たしてくたばった連中をこちらに引き寄せているが、その過程でこの世界に引っかかるので結果的に転生する形でこの世界に出現するといったところか?」
「はい。 転生者の魔力保有量は個人差こそありますが、この世界の基準で見ると並外れています。 辺獄の魔力を喰らって大きくなる特性を考えれば非常に
エゼルベルトの発言に俺を含めた転生者達は各々、驚きを露わにする。
「……なんとまぁ、これに関しては素直に驚いたよ。 なら辺獄の氾濫で侵食が進んでたらかなり危なかったって事だよね?」
「少なくとも転生者にとっては安住の地とは言えなくなるでしょうね」
「でもその橋を踏まなければ大丈夫なんでしょう?」
「恐らくとしか言えんな。 少なくとも俺の時は一度拒めばもう出てこなかった」
「ま、その辺は意識して注意せいって事やな」
首途がそう纏めた所で一瞬ではあるが話題が途切れて場が静かになる。
「僕達が転生した経緯は分かったけど、転生者に日本人が多い理由と魔力保有量が多い理由に関してはどうなんだろう? 何か分かる?」
ふと気になったのかアスピザルはそんな疑問を口にした。
確かに気になる話ではあるな。 人種的な体質、または異世界人は何らかの補正でも働くのだろうか?
流石にそんな事までは分からんだろう――
「えぇ、まぁ、一応ではありますが、仮説はあります」
――と思ったが、一応は考察しているらしい。
「皆さんが日本という地域出身の方々である事は聞いています。 そして転生者の大半が日本人でした」
「あれ? 大半って事は外国の人とか居たんだ?」
エゼルベルトは大きく頷く。
「はい、非常に少ないですが存在はしました。 ただ、その人達は日本人ではありませんでしたが、日本で亡くなったとの事です」
「……つまりは日本という土地自体に何かあるという訳か」
俺が結論を口にするとエゼルベルトは大きく頷く。
「はい、推測の域を出ませんが、あの地には死者を連れ出す穴のような物が開いているのかもしれません」
……まぁ、こればかりは調べようがないので推測するしかないか。
日本から引っ張られる事に関しては済んだと判断したのかもう一つの話に移行するのだが――
「それと魔力保有量についてなのですが……」
――さっきの話より自信がないのかエゼルベルトの歯切れはかなり悪い。
「……皆さんは魂についてどう思いますか?」
不意にそんな質問をしてきた。
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