第824話 「人形」
食事で釣る方法は上手く行かなかったので、次は女で釣る方法に切り替える事にした。
アスピザルと夜ノ森はオラトリアムに戻った所で解散したので、傍に居るのはサベージだけだ。
そのまま研究所に戻り、格納庫でサイコウォードの改修作業をしていた首途に場所を借りて作業を始める事にしたのだが――
「場所だけ貸してくれれば良かったんだが?」
「そない冷たい事、言わんと見せてーな」
――何故か首途が付いて来たので奴の目の前で制作作業を行う事となった。
「結局、飯で釣るのははあかんかったみたいやな」
「満足はしていたようだが、それ止まりだったな」
「――で、今度は女で釣るんやな?」
そうだなと適当に肉を捏ねまわして人間の女を作る。
「いつ見てもおもろいなぁ。 儂にも出来るようにならへんやろうか……」
首途が後ろで羨ましそうに俺の作業を見ていたが構わずに続ける。
身長と体形は平均的な成人女性と同程度にし、後は顔だが……。
適当に整った造形にして――……どうすれば良いか思いつかんな。
「顔の造形が思いつかん。 何か案はないか?」
折角いるので意見を求めようと振り返るが首途は悩むように首を傾げる。
「好みもあるやろうしなぁ……。 適当にタイプの違う女を何人か用意したらどうや? 顔で困っとるんやったら日本のアイドルっぽい顔にするとか、兄ちゃんが今まで会った美人の顔をベースに組むとかどうや?」
ふむ。 元々が日本人と言う事を考えると女の好みもそれに即した物になると言う事か。
取りあえず、日本人っぽい造形にして後は適当にパーツ配置を整えて――……こんな物かな?
「おー、いい感じやないか?」
出来上がったのは日本人形みたいな顔の造形に長い黒髪と黒い瞳。
取りあえず分かり易い形にしてみたが……。
首途の反応は悪くないが、果たして弘原海に効果があるのだろうか?
「数撃てば当たるかもしれん。 適当にもう何体か作るか」
「いやー、あんまりこういうのやらへんから新鮮でおもろいな」
適当に素体となる人型を作りながら少し気になった事があったので、首途に話題を振る。
「そう言えばヴェルテクスの奴はどうなった?」
「あぁ、術後の経過は良好や。 怪我する前より元気になっとるぞ。 今は新しい体と例の魔導書の調子を掴む為に色々やっとるわ。 ……ありがとうな、アイツの我が儘を聞いてくれて」
「礼を言われる事じゃない。 奴は短期間で魔導書の解析を行う事を条件に俺に取引を持ち掛け、俺はそれを了承した。 そして奴は完璧に契約を履行したので俺もそれに応えただけの話だ」
お互いに決めた事をやった、それだけだ。
そうこう話している内にのっぺらぼうな人型の人形が十体ほど完成。
後は形を弄るだけだな。 適当に系統が違う顔の女を作ったり体格に幅を持たせたりと、とにかくバリエーションを豊かにする。
その内の一体をファティマに似せようとしたのは流石に不味かったのか首途に止められたので、代わりにクリステラとアメリアに似せた奴を作っておいた。
後は体格――要はプロポーションだな、巨乳、貧乳と一通り取り揃え、奴の性癖が特殊だった場合に備えて人妻っぽい――首途曰く色気を醸しだすタイプの女や、反対に幼い感じの見た目の女を用意し、どれか一つぐらいは刺さるであろう布陣を整えた。
最初は十体ほどだったのだが、気が付けば三十体近く作ってしまったな。
「ま、これだけ居ったらどれか一つぐらいは好みが居るやろ。 むっつりかもしれんし、反応はよう見ときや」
「……どうでもいいが、これで効果がなかったら俺はとんだ間抜けだな」
意味もなくマネキンを量産したのだ。 間抜け以外の何だというんだ。
思い返してみると酷く無駄な事をしたような気がするのは――いや、まだ結果が出ていない以上、結論を出すのは早計か。
「がはは、物は試しや! あかんかったらまた別の手を考えようや!」
「……そうだな。 失敗する前提ぐらいの方が気楽にやれるか」
作ったマネキン共に適当な服を着せて準備は完了だ。 首途は仕事に戻ると格納庫に戻って行ったので、サベージに乗って再度出発。 気が付けば日付が変わっていたが、些細な事だ。
俺が大量のマネキンを引き連れているのが珍しいのか、研究所を出るまで割と注目されたが、こちらも些細な事だな。
転移施設を経由して島へと戻る。
事前にエゼルベルトに打診はしているので既に弘原海を連れて屋敷で待機させて、対面の準備は完了だ。
流石に翌日にまた呼び出されるとは思っていなかったのか、やや困惑していた。
その理由の大部分は俺が連れているマネキン軍団かもしれんな。
「あ、あの彼女達は一体……」
「あぁ、弘原海のやる気の元になればと思ってな」
全員一気に並べて気に入ったのをくれてやろうかとも考えたが、印象付けと反応を見る為に個別に対面させるべきだと首途にアドバイスされたので、それを参考に弘原海は個室に放り込んで面接方式で対面させるつもりだ。
「いや、もうちょっと詳しく説明を。 明らかに正気じゃないように見えるのですが、奴隷か何かですか?」
「あぁ、こいつらか? 昨日、肉を捏ねて作った人形みたいな物だ。 お前が思っているような代物じゃない」
「え? 人形?」
エゼルベルトは顔に困惑を張り付けたまま、先頭を歩いているマネキンに失礼と声をかけて触る。
肩に手を乗せ、口元に手を持って行って呼吸の有無を確認し、手首を軽く掴んで脈を見ていた。
「いや、どう見ても人間にしか見えませんが……」
「よくできているだろう?」
機能面では人間と変わらんからな。
正直、かなり面倒くさかったが、必要経費と割り切ってやった。
「あのやる気を出させるというのは? 具体的に彼女達に何を?」
「……? 取りあえず、話し相手にでもと……あぁ、そう言う事か。 別にそう言う用途で使っても構わんぞ。 そっちの機能も内蔵しているから――しまったな、人間と同じ強度にしているからサイズ差で壊れかねん」
造形にこだわって機能を疎かにするとは失敗したな。
気に入ったのがあれば骨格を弄って可動域と柔軟性を改良して馬でもいけるように改造しておこう。
「あ、いや、僕はそんなつもりじゃ……」
エゼルベルトは何故か顔を赤くして慌て始めた。
何だ? さっきからごちゃごちゃとはっきりしない奴だな。
言いたい事があるならはっきり言えといいかけたが、ややあってそういう事かと察する。
「何だ? お前も欲しいのか? なら余った奴を二、三体くれてやろうか?」
だったらはっきり言え。 どうせ余ったら廃棄する予定だし、欲しいならくれてやるぞ?
「い、要りません!」
上擦った声を上げるエゼルベルトに俺はそうか?と首を傾げた。
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