第729話 「砦落」

 気が付けばこのエントランスにいた連中はほぼ全滅か。

 残りは――振り返るとサベージが聖堂騎士二人を相手にしていたが、これはもう終わりそうだな。

 跳躍して尻尾を一閃。 表面から刃のような物を生やした尻尾が伸びて聖堂騎士に襲いかかるが、二人は危なげなく回避。

 

 尻尾はそのまま床に突き刺さる。 サベージは尻尾を戻さずに着地。

 引っ張るような仕草をするが、突き刺さった尾は抜けないのか動かない。

 好機と聖堂騎士の片割れが斬りかかるが、その足元から尻尾の先端が飛び出し股間から入って胴体を貫通して口から飛び出す。 串料理みたいになったなと思ったが尻尾が太かったので縦に二つになった。


 「おのれ!」


 仲間が殺されて激高したのか怒りの声を上げるが、サベージはふんと鼻を小さく鳴らして尻尾を戻しながら爪を伸ばして腕を振るう。 聖堂騎士はそれを掻い潜って懐へ。

 そのまま喉を貫こうとしていたが胸の部分が大きく開き大量のスパイクが飛び出す。 いくつかは鎧に弾かれたが関節部分など比較的脆い部分は通ったようで突き刺さる。

 

 そのまま引き込んでバキバキと何度も噛み砕くように咀嚼。 鎧が頑丈な所為で何回もガキガキと金属を砕くような音が響いたが数回もすると肉と骨を砕く音へと変化。

 聖堂騎士は最初こそ抵抗していたが、音が変化した辺りで動かなくなった。

 

 サベージはそのまま丸呑みしてゴリゴリと体内で磨り潰す。

 あれから体内を改造してやったので、本来なら喰えないような金属類でも吐き出さずに体内で固めて糞として尻から出せるようにしておいた。


 お陰でこいつの食欲に拍車がかかったが、些細な問題だろう。

 何せ餌が欲しければその辺で拾い食いするからな。


 さて、邪魔者も居なくなった事だし頭の中を覗けるか試させて貰うか。

 俺はゴミみたいに転がっているヘリベルトへと近づく。

 ヘリベルトは出血の所為か青を通り越して白くなった顔で俺を睨みつける。


 「そ、そう、か。 貴様、辺獄の――魔剣、操られた――だな?」

 

 何を言っているんだ? ぶつぶつと譫言みたいに何か言っているがよく聞き取れんな。 はっきり喋れ。

 まぁ、話は脳に直接聞くからどうでもいいか。 頭を掴んで持ち上げると、ヘリベルトはニヤリと笑みを浮かべる。


 「邪悪な化け物め! これが神罰だ!」


 同時にヘリベルトの目が輝い――バキリと頭を握り潰す。

 自爆か何かするつもりだったようだがさせる訳ないだろうが。

 

 「……あぁ、しまったな」


 うっかりやってしまった。 取りあえず記憶を抜けないか脳を調べるが、魂らしき物が見当たらないな。

 これはエルフの時と同じで抜き取られている感じか? 死にたてなら行ける筈だったのだが――

 どちらかは判断に迷うが、あの様子ならできなさそうだしまぁいいか。 興味が失せたので頭が潰れたヘリベルトの死体を投げ捨てる。


 さて、これで迎撃に来た連中は全部か。

 追加が来ない所を見ると後は大した事のない雑魚か、居ても精々重要人物とその護衛ぐらいだろう。 

 投げ捨てたヘリベルトの死体をサベージが貪り食っているのを尻目に俺は奥へと向かう。


 魔法で構造を確認。 奥に広い空間と大量の人の気配。 感じからして非戦闘員と言った所か。

 奇襲のつもりだったが、割と避難している奴っていたんだなと、そんな事を考えながら目的の部屋に入る。

 どうも食堂か何かのようで、かなりの数のテーブルや椅子が並んでいる。


 そこに避難していたであろう住民らしき連中が身を寄せ合っていた。


 「こ、この野郎!」


 子供がナイフで斬りかかってきたので魔剣で首を刎ね飛ばした。

 派手に血を噴き出して頭部を失った胴体がどさりと倒れる。

 それを見て思わず首を傾げた。


 何だったんだ?

 わざわざ正面から斬りかかって来るぐらいだから何かあるのかとも思ったが普通に死んだな。

 戦闘員でもないのにわざわざ向かって来るとは自殺でもしたかったのだろうか?


 ……何がしたかったのかいまいち理解できなかったが、どうせ結果は同じだしどうでもいいか。


 たった今出来上がった死体を見た連中から「ジョシュアー!」と悲鳴が上がるが無視して軽く見回すが、裏口らしき物は見当たらない。 奥の厨房にはありそうだがそこまで大きくなさそうだな。

 

 特に興味を引かれるような奴もいないしサベージの餌で良いな。


 「喰っていいぞ」


 俺がそう言うとサベージが嬉々として連中に襲いかかった。

 背後の悲鳴を無視して俺は上を目指す。

 途中で傭兵らしき獣人が何人か襲って来たが、大した事のない雑魚だったので魔剣で処理。

 

 流石に聖堂騎士に比べると格がかなり落ちるな。

 魔法で生体反応を探りながら虱潰しにしていくが、まったく歯応えがない。

 一応は記憶を抜いてから仕留めているが、大した情報は入っていないな。


 聖剣使いについてもある程度は知っていたが、アイオーン教団の聖女とやらは全身鎧なのでどこのどいつかさっぱり分からんし、もう一人のヤドヴィガとかいう獣人女はくたばったらしいので知った所で余り意味がない。


 要はどうでもいい情報って訳だ。 使えん奴らだな。 そんなこんなで最上階まで到着。

 生体反応が固まっている部屋に向かうと、会議室らしく何人かの獣人が待ち構えていた。

 護衛らしき連中が襲いかかって来るが、第一形態で片端から挽き肉に変換。 弱すぎて話にならんな。 楽だからいいけど。


 「き、貴様! 一体、何者なのだ!? 何故このような惨い真似を――」


 ここ最近、何度も聞いた質問に俺は小さく嘆息。

 

 どいつもこいつも似たような質問ばかりしてくるな。

 説明してやってもいいが、これから死ぬ奴がそんな事を知ってどうするんだ?

 答える意味もないので上等そうな服を着ている奴を片端から掴んで記憶を吸い出す。


 確認した記憶から一応、このセンテゴリフンクスの代表らしいのだが、驚く程に何も知らないな。

 最低限、聖女の素顔の情報ぐらいは入っている物かと期待したが、それすらなし。

 本当に使えん奴らだな。 生かしておく価値もないので、全員処分。


 さて、重要拠点の砦は陥落したが後は外にいる連中か。

 窓から外を見ると空中で戦闘が繰り広げられていた。 こちら側の戦力はマルスラン。

 相手をしているのは子供枢機卿だ。 分が悪いようで、マルスランは必死にミサイルを撃ち込んで応戦しているが、子供枢機卿は魔法で防ぎつつ、光る剣を片手に高速で飛行して斬りかかる。


 マルスランは必死に後ろを取られまいと飛んでいるが、スピードは枢機卿の方が上のようで追いかけまわされている。

 この様子では負けるな。 面倒なと思いながら魔剣を第二形態に変形させて構える。


 高速で飛び回っているので狙いが付け辛い。 第二形態は威力はあるが精密射撃には向かん。

 まぁ、マルスランを仕留める時に動きを止めるだろうし纏めて消せばいいか。 そう考えながら狙いを付けしようとして――<交信>が入る。

 

 ――話を聞いて発射を保留。 一先ずは見物と行こう。


 マルスランはスピードで敵わないと察して逃げ回らずに何とか接近戦に持ち込もうと飛び方を変える。

 逃げ回る動きから攻める動きへとだ。 緑の炎を纏った剣で枢機卿と切り結ぶが、三合辺りで剣が保たなかったのか圧し折れる。 子供枢機卿の斬撃が襲いかかり紙一重で回避したが、ギリギリで間に合わずに背中のフライトユニットに傷が入り――爆発。


 流れ星のように落ちて行った。 決着か。

 子供枢機卿も相応に消耗したのか肩で息をしており、次へ向かおうと振り返った瞬間に吐血。

 同時にその背後から魔法で姿を消していたサブリナが姿を現し、錫杖で子供枢機卿の心臓の辺りを刺し貫いていた。


 子供枢機卿は驚愕の表情で振り返ろうとするが、サブリナは笑顔で複数の腕を用いて体と頭を掴む。

 そしてその首をゴキリと回転させて仕留める。


 サブリナは死体を回収しようとしたが小さく眉を顰めて投げ捨てる。

 すると子供枢機卿の体は空中で炎に包まれて瞬く間に燃え尽きた。

 見た感じ背中の羽の炎が燃え移ったようにも見えたが、権能の副作用か何かだろうか?


 サブリナはこちらに小さく会釈した後<交信>で指揮に戻りますと降りて行った。

 さて、こちらもほぼ終了だな。 後はファティマ達の方か。

 あの様子では俺の出番はなさそうだし、どこかで適当に飯にでもするとしよう。


 俺は魔剣を鞘に納めてその場を後にした。

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