第724話 「柱折」
ふむ、概ね情報通りか。
俺はサベージに跨ったまま、第二形態に変形させた魔剣を真っ直ぐに突き出しながらそんな事を考えていた。
事前に集めた情報だとグノーシス教団の本国であるクロノカイロスから大量の増援が派遣されており、その目的は俺の視界の先に見える黒い柱の処理。
発生原因は魔剣と聖剣の消滅の結果らしい。 どうやって消滅したのかの詳細は不明だが、問題はその現象を放置しておくと危険であり、どうにかする為にグノーシスが色々とやっていると。
持ち込んでいる装備類からどう言った方法で対処するかの手段については当たりを付けたらしいが、俺からすればそこまで難しい事でもないので敵の主力を掃除するついでに処理しておけば良いな。
魔力の再充填が済んだ魔剣を再度発射。
流石に早い。 ゴラカブ・ゴレブとフォカロル・ルキフグスに機能の大半が死んではいるが魔力の供給機能は生きているナヘマ・ネヘモスと三本分の供給を受けているので能力的に底上げされて扱いやすくなった。 許容量的な物も増えたのか威力の方も向上している。
辺獄だと魔剣は非常に強力で、消耗はほぼゼロなので第二形態の砲も魔力に物を言わせて撃ち放題だ。
一射目で都合よく密集陣形を取っていた連中の大半を薙ぎ払ったのだが――全滅はしていないようだな。 一部はどうにかして防いだようだ。
頑丈だなと思いつつ、二射目を発射。 一射目で大幅に数が減った生き残りを更に消し飛ばす。
……これなら連れて来た連中は要らなかったかもしれんな。
ライリーを筆頭にジェヴォーダンに騎乗したシュリガーラとフューリーの部隊をオラトリアムから大量に出張させたのだが、他に回すべきだったか?
ファティマが連れて行けとうるさいから同行させているだけなので正直、居ても居なくても変わらないが――まぁ、何かあればやらせればいいか。
前方にいた連中の生き残りがパラパラと散発的に魔法を撃ち返してくるが射程外なのか届いていない。
中々タフだなと俺はそんな事を考えながら三射目を撃ち込むと、埃か何かのように連中が散らばっていく。
流石に三発目を防ぐのは無理だったようで、反撃がなくなった。
目を凝らすと何か動いている奴がちらっと見えたのでもう一発撃ち込んだ。
当初の予定では俺が適当に薙ぎ払って連れて来た連中が残敵の掃討と言った流れだったのだが、掃討する残敵がいなくなってしまったな。
到着まで暇だったのでもう三発ほど撃ち込んで死体蹴りをした後、連中の駐屯地だった場所に到着。
流石にあれだけ撃ち込んだ後だと綺麗に更地になったな。
「――で? 結局、アレは何なんだ?」
視線は空にでかでかと広がる亀裂。 そしてそれを抑えるかのような光の柱が三本。
その下では戦闘が繰り広げられており、こちらの接近に気が付いたのか一部が向かって来ようとしていた。
……取りあえず、あの抑えている柱は破壊せずに亀裂を広げている闇の柱を消せばいいんだったな。
うっかり消し飛ばす危険もあったので魔剣を第二から第四形態に変形。
大量に円盤を生成して嗾ける。 居るのはグノーシスの聖騎士共に、連中が戦っているであろうマネキンの出来損ないみたいな連中だ。 見れば見る程、奇妙な連中だった。
人型のシルエットだけの形状に各々剣や槍などの得物らしき物を持っているが、アレは恐らく武器じゃなくて体の一部か何かだろう。 少なくともまともな物体には見えない。
興味はあるが捕獲は難しそうだな。 理由は見た感じ、実体がなさそうな事と――連中が視界に入った瞬間から魔剣が怒り狂い始めたからだ。
グノーシスの連中に対してもそうだが、特にあのマネキン擬き共が相当気に入らないのか消せ消せとやかましい。 つまり視界に入っている連中の全てが気に入らないと。
やらされているようで若干不快だが、これも依頼の範疇と考えるならまぁいいかと言った気分にはなる。
連れて来た連中に包囲して逃がさないように指示を出すのと、円盤の群れが連中に襲いかかるのはほぼ同時だった。
凄まじい悲鳴が上がり聖騎士共とマネキン擬きを次々と切り刻む。
……ん?
俺はおやと首を傾げる。
聖騎士は防具ごと両断。 聖殿騎士は接触を数秒に抑えれば凌げはするみたいだが、即座に群がられて細切れとなる。 聖堂騎士は流石に動きが良く、上手に躱すが今も俺が増産し続けている円盤の物量に前に次々と屈している。
最後にマネキン擬きだが驚いた事に円盤を叩き落そうとして勝手に切り刻まれて消えて行く。
攻撃のキレ自体は聖堂騎士にも引けを取らないが、挙動――というか反応がおかしいな。
何と言うか手近な存在に襲いかかるだけと言った感じだ。 機械的と言った印象を受けるな。
そして一定以上の損傷を受けると霧散すると。
湧いて来る辺獄種と似たような感じで魔力の塊と言った所だろうか?
最低限の敵味方の判別機能しかないようで、動きがいいだけのお粗末な代物と言った感想だな。
それであのマネキン擬きが何処から湧いて来るのかと言うと――俺は空の亀裂を見上げる。
雨漏りみたいにポツポツと降ってきているのがそうだろう。
何だ? 辺獄の空って言うのは思って居た以上に安普請なのか?
今一つどう言った物か良く分からんが、面倒事らしいので消せば安心だな。
サベージに跨ったまま向かっている間にほぼ掃除は済んでいるので、その辺には死体しか転がっていない。 死んだふりをしていた奴も切り刻まれて次々と死亡。
健気に息を殺していたが、五体満足の死体になる訳がないのででかい塊は念の為に細切れにさせている。 まぁ、無駄な努力だったな。
マネキン共は相手するのが面倒なだけの雑魚なので、落ちて来る前に空中で切り刻んで処理。
さて、そうこうしている間に例の闇の柱の前に到着。
例の枝の事もあったので襲われないかと警戒していたがその気配もなさそうだ。
触ると不味いのは女王が身を以って教えてくれたので、対策は取っている。
サベージにも念を押しているので変化があれば即座に反応するだろう。
こういう何だか良く分からんが面倒そうな代物は消し飛ばすに限る。
周囲の柱が射線に入らないように気を付けて魔剣を第二形態に変形。
凄まじい勢いで魔力が充填されて行く。 怒り狂っているので驚く程の早さで魔力が溜まって行くな。
しばらくそのままで置いておくと魔力が溜まり過ぎて魔剣がどす黒く輝き始め、バチバチと放電するみたいに魔力が漏れだした所でそろそろいいだろうと発射。 流石に充填に時間をかけただけあって凄まじい威力だった。
光線は闇の柱の根元を瞬時に消し飛ばしたが、放出が収まらないので出し切る為に魔剣を空へと向けると辺獄の空へと長い尾を引いて消える。
柱の消滅による変化はすぐに現れた。 空間が軋む様な音が発生し、見上げると亀裂が徐々に塞がっていっている。
……これで終わりか?
マネキン共も徐々に落ちて来なくなり、ついでにグノーシスの連中も皆殺しにしたので、このままだとやる事がなくなってしまうな。 どうした物かと考えたが、残りのマネキンを片付けたら暇になるので折角だし街にいる連中の掃討に手を貸すとしよう。
方針を決めた俺はさっさと片づけるべく残ったマネキンの処理を開始した。
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