第637話 「会食」
まったく、余計な時間だったな。
首と胴が分離したガブジャリルの頭部を拾って記憶を検める。
死なないならさっさとこうするべきだった。
聞いた話に嘘がないか裏を取った後、根を植え付けて倒れている胴体に切断した首をくっつけて蘇生。
後はいつも通り適当にやっておけと言って店を後にした。
まぁ、収穫はあったのでそれなり以上に満足はしている。 中でも最大の収穫は連中の正体が少しわかった事か。
ホルトゥナ。
この国に根を張っており、あちこちで技術をばら撒いている組織の名称らしい。
ダーザインの例もあるから隠れ蓑に使っているフロント組織かもしれんが、少なくとも俺から魔剣を奪おうとした連中で間違いないようだ。
流石はテュケの同類だけあって拠点などの情報は全く出てこなかった。
接触も資材や人員の供出も連中の指定した場所で間接的に行っていた為、全容は分からないと。
……とは言っても手がかりが全くない訳じゃない。
これまでの過程でそれなりの人数から記憶を吸い出したのでこの街の情報や地理に関してはちょっとした物だ。 奪った記憶を頼りに怪しい場所を片端から調べれば何かしらは出て来るだろう。
ガブジャリルとの取引などを行っている所を見ると高い確率で街の中に何かしら拠点を構えていると考えられる。
候補はあるが、今まで休みなしであちこちの拠点を潰して回っていたので、そろそろ食事休憩でもするとしようか。
俺は近場にある適当な飯屋へと足を向けた。
――なるほど。 お話は分かりました。
場所は変わって街中にある食事処。
俺は適当に頼んだ料理を食いながら、ファティマに今までの経緯を話していた。
――妙な組織に捕捉されたと聞いていましたが、今回は随分と大きく動かれたようですね?
――あぁ、だが出くわした連中は皆殺しにするか洗脳したから問題はないだろう。
存在しない以上、目撃者はゼロなので全く問題ないな。
何故かファティマは何か言いかけて、思いとどまるようにやや深く呼吸する気配が伝わった。
――……ともあれそのホルトゥナと言う組織は怪しいですね。 例のテュケとの関連が濃厚である以上は細心の注意を払うべきです。
何を言ってるんだ? ちゃんと注意はしているぞ?
出くわした連中はしっかり後腐れなく皆殺しにするか洗脳したし、これから出くわす連中も皆殺しにするか洗脳するからな。
――……ロートフェルト様、ご不興を買う事を承知で言わせていただきます。 今からでも遅くはありません。 護衛を付けるべきです。 数も数名に絞れば邪魔になる事はな――
――要らん。 必要になればその時にでも呼ぶから、今は必要ないな。
――……申し訳ありません、出過ぎた発言でした。 ですが、くれぐれも注意を。 決して侮っていい相手ではありません。
その点は良く理解している。 実際、アメリアは随分としぶとかったからな。
俺自身、死んだと思い込まされていたのは、かなり厄介だった。 その為、取り逃がすと面倒な事になるのも分かっているつもりではある。
だが、そんな連中を意識しすぎて本来の目的である旅が出来なくなるのは本末転倒ではないか。
そんな訳で護衛や戦力は必要になるまでは要らん。
ファティマもその辺は理解しているのかしつこく言わずに、話題を変えて来た。
その後、いくつか簡単な情報交換や連中の取りそうな行動についての考察などを行って今回は終了だ。 ちょうど食事も終わったしな。 相変わらず行動に注意しろと口やかましいファティマに分かったと返事して通話を終える。
会計を済ませて店を出ようとすると、店員が手紙を預かっているとか言って寄越して来た。
誰が寄越したのか聞いても知らないと答えたので、礼を言ってチップを渡す振りをして近づいて洗脳した。 嘘を吐いているかもしれんしな。
調べたが本当に知らなかったようだ。 疑ってすまんな。 まぁ、悪いとは欠片も思っていないが。
さて、誰からの手紙かな?と開いてみると特に名前などは書かれておらず、内容は何と食事のお誘いだった。
夜、場所はこの街にある高級店で今後の事についてご相談がありますといった内容が凄まじく回りくどく書いてあったので解読に若干の時間を要した。
何故いきなり天気の話から入るのか意味が分からない。
……まぁいい。 呼び出しと言うのなら行くとしよう。
ついでに飯も奢ってくれるらしいし、行かない理由はないな。
急な招待のお陰で予定が白紙になった為、街を適当に見て回って時間を潰した。
正直、知識はあるので時間潰し以上の意味はなかったが、まぁいいだろう。
日が暮れた所で指定された店に行き、入り口で手紙を見せるとあっさりと中へと通された。 店員に案内されながら周囲を見回す。
店内には気配は殆どなく、魔法で軽く調べると従業員やコックらしい気配以外は奥に三つ存在しているのが分かる。 恐らくこいつ等が俺を呼び出した連中と言う事だろう。 伏兵の気配はないが、索敵を掻い潜った奴がいるかもしれんので楽観はできん以上、罠かそうでないのかの判断が付かんな。
案内された場所はテラスになっており、大理石っぽいマーブル模様の高そうなテーブルに椅子が二つ。 内一つは俺の手前にあり、奥にあるもう一つには一人の女が座っていた。
年齢は――若いな。 十代後半から二十代前半と言った所か。 長い金髪を結い上げ、服装はやたらと装飾の多いドレスに左目に付けた
顔は――まぁ、パーツ配置は悪くないので美人なんじゃないのか?
そして珍しい事に人間だった。 この獣人の領域で人間が居るのは少し意外だった。
女はモノクル越しに碧色の瞳で俺をじっと見つめる。
その顔には表情は浮かんでいないが――明らかに無理をしているのが一目で分かる。
平静を装ってはいるが、恐らく虚勢だろう。 呼び出しておいて随分と余裕がない。
必死に隠しているが呼吸は微かに乱れており、額には汗が滲んでいた。
そして左右には側近らしい奴が二人だが――虎と象の獣人。
……じゃないな。
見た目は獣人っぽくしているが、雰囲気に覚えがある。
転生者か。 今までに散々見ているので流石に見分けがつくな。
俺が無言で席に着いた所で女が口を開いた。
「まずは招待に応じてくれた事に礼を言おう。 私はベレンガリア。 ベレンガリア・ヴェロニク・ラエティティア。 ホルトゥナと言う組織を率いている」
率いている? 今一つ信じられんな。 正直、目の前の女が組織のトップには見えなかった。
本物に言われて代わりに座っている影武者ですと言われた方が信じられるな。
それほどまでに目の前の女からは上に立つ者特有の威厳のような物を感じなかったからだ。
「ご丁寧にどうも。 俺はローという。 まぁ、旅行者のような物だ。 ……ところで控えている二人は自己紹介してくれないのかな?」
俺がそう言うとベレンガリアは二人を見て小さく頷く。
「俺はエレファンとでも――」
「あんたら転生者だろ? 本名を名乗ってくれるとありがたいが?」
偽名を名乗ろうとした象にそう言ってやると二人は微かに動揺するように言葉に詰まる。
象と虎は少し迷う素振を見せたがややあって本名を名乗った。
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