第633話 「入店」

 「――ま、待って――」


 いいから黙って死んでろ。

 もう何人目となるか分からない尾行していた連中を仕留めた俺は何食わぬ顔で路地から出る。

 少なくともダース単位で始末しているはずなのだが、いくらでも居るな。


 鬱陶しい連中を始末しながら街を練り歩いていたら日暮れどころかすっかり朝になってしまったじゃないか。

 路地の出口で待たせていたサベージに至っては退屈なのか欠伸をしている。

 まぁ、それなりの数を始末して、連中の在庫も打ち止めらしいのでしばらくは出てこないだろう。


 そう考えたのには理由がある。

 途中から連中の死体が爆散しなくなったのだ。

 妙だなと記憶を探ると、俺の動向を探るように金を貰って依頼された部外者だったらしい。

 

 当然ながら外部の人間なので大した情報は持っていなかったが、依頼して来た奴に関しては分かったのでそいつを探し当てて親類縁者を片端から始末していたらすっかり時間が経ってしまったのだ。

 明らかに何も知らなさそうな女子供も居たが――まぁ、些細な事だな。


 お陰でこの街は俺にとってはだいぶ過ごしやすくなったはずだ。

 ついでに持っていた金も奪っておいたので懐もそれなりに温かい。 大した事は分からなかったが、労力に見合った収穫はあったと思う事にしよう。


 取りあえず、厩舎のある宿を探してサベージを預けて――飯にでもするか。

 一晩中動き回ったので少し腹が減った。 幸いにも吸い出した記憶から食事処には心当たりがある。

 さっさと食って動くとしよう。



 取りあえず適当に飯を食って腹を満たした後は張り切って続きと行こう。

 サベージは厩舎付きの宿――がなかったので、適当にデカそうな宿で店主に金を掴ませて倉庫を間借りして押し込んでおいた。


 埃っぽい倉庫に押し込まれたのが不満なのか若干嫌そうな顔をしているサベージを無視して出発。

 宿の連中には適当に餌をやるように頼み、妙な事をすると喰われるぞと釘を刺しておいた。

 さて、一人になって身軽になった所で街の探索を始めるとしよう。


 魔法で索敵を行う。 今の所は特に怪しい気配はなく、進む足に迷いはない。

 何故なら行く先はもう決めているからだ。

 仕留めた連中の中に爆散しなかった奴がいたので、そいつらからは記憶を頂く事が出来た。


 当然ながら依頼人の詳しい事情は知らされていなかったが、この街に関してはそれなり以上に明るい。

 その為、この街で怪しい輩が身を潜める場所やそう言う依頼・・・・・・を振って来る相手にはいくつか心当たりがあったようだ。


 手始めにそこから――


 「――いや、その前にやる事があるか」


 少し考えたが思い直して目的を変更する。

 俺だって多少は学習するからな。 アメリアの時のようにチョロチョロ逃げ回られても鬱陶しい。

 先に逃げ場と手下を潰しておこうか。



 向かった先はやや大きい建物で、表むきはアパートのような居住施設兼倉庫らしい。

 まずは正面の入り口へ向かいやや強めにノック。

 しばらく待つと中から足音。 気配は扉の前で停止。


 「車輪は?」


 中からくぐもった声が聞こえる。 車輪? 何を言ってるんだとも思ったが、ややあって符丁か何かかと納得した。 知らないので魔剣で扉ごと串刺しにする。

 刺さった個所を部分的に第一形態に変形させて扉の上半分ごと瞬時に挽き肉に変えてやった。


 扉の向こうで爆散した気配がしたので魔剣を引き抜いて下半分だけになった扉に手を掛けるが開かないな。 なんだ、閂が残っていたのか。 

 両開きなので扉の隙間に魔剣を通して鍵を破壊。 中へ入る。

 入った先はエントランスなのか広々とした空間だった。 軽く見回すと、騒ぎを察知したのかわらわらと獣人共が湧いて来たので<茫漠>で悲鳴が漏れないように音を消した後、魔剣を第四形態に変えてばら撒く。


 魔剣から分離した円盤が次々と浮遊して獣人共に襲いかかる。

 手近に居た獣人が斧で叩き落そうとしたが、斧ごと両断されて派手に血と臓物を撒き散らして爆散。

 取りあえず、ここで間違いはなさそうだな。


 他の連中は察しのいい奴と悪い奴とで若干ではあるが、結果に変化があった。

 悪い奴は魔法道具や武器で何とか叩き落そうとしてさっきの奴と同じ末路を迎え、両断されて爆散。

 良い奴は回避しようとしていたが、その瞬間に円盤が分離して間に張られたワイヤーでやはり両断されて爆散した。


 ……弱すぎる。 雑魚と言って良いぐらいに歯応えがないな。


 オフルマズドで出くわした臣装とかいう装備を使っている連中の方がまだ歯応えがあったな。

 正直、突っ立って円盤の操作をしているだけで片付いてしまったじゃないか。

 魔法で索敵をしながら下から順番に動いている奴がいる部屋へ踏み込んで片付けた後に次の部屋へ。

 

 反応に引っかかった奴を片端から仕留めて行く。

 途中、明らかに関係がなさそうな奴も居たが、記憶を抜いてから始末しておいた。

 何か関係ないから助けて欲しいとか言っていたが、そんな事情こそ俺には関係ないな。

 

 施設を一回りして生きている奴がいなくなった所でその場を後にする。

 どこへ向かうかと言うと、さっきのどさくさに紛れて逃げた奴がいたのでそいつ等の行先だ。

 案内して貰う為に敢えて逃がしたので特に焦りはない。 どうせ、どうやってか俺の動向はバレている以上は無理に証拠を隠滅しようとしても無駄だしな。


 そんな事より、逃がして次に襲っていい場所を教えて貰った方が合理的だ。

 向かった先はさっきの倉庫よりも更に大きな建物で今までに得た記憶を参照すると、それなりに大きな商会の本部らしい。


 裏には商品を保管する為の巨大な倉庫が併設されているので、結果的に施設自体が大型化したと。

 そんなどうでもいい情報を脳裏で反芻しながら裏口を蹴破って魔剣を第三形態に変えて切り離す。

 こちらは第四形態と違って半自動とでも言うべき特性を備えており、制御すれば狙った対象を攻撃するが制御せずに手綱を手放すと手近に居る生きている奴に襲いかかるようにできているらしい。


 難点は敵味方の判別が出来ない事だが、敵しかいないこういった場では中々便利だ。

 建物から出ないようにあらかじめ戦闘エリアを制限しておけば、建物内に居る生き物を皆殺しにするか仕留められるかするまで暴れまわる。


 さて、裏で勝手に暴れさせて俺は表に回って正面から中へ。

 店に入ると店員がいらっしゃいませと寄って来るが、俺は無言でその首を魔剣で刎ねた。

 それを見た客の一人が悲鳴を上げる。


 事前に<茫漠>をかけているのでいくらでも叫んでくれ。 どうせ外には聞こえないしな。

 入り口前に陣取って近くに居る奴から次々と首を刎ねる。

 それにしても店員は爆散しないのか。 関係ないのか組織を分けてるのかは知らんが、まぁいいか。

 

 どうせ皆殺しにするし考えても仕方のない事だな。

 取りあえず店舗のエリアに居る連中から処分する事にしよう。

 俺は魔剣を第四形態に変形させながら次はどいつを殺すかなと周囲に視線を巡らせた。

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