第631話 「向先」
さて、絡んで来た良く分からん連中の処分は済んだが、追加が来るのは目に見えている。
どうやって俺を捕捉したのかも不明なので、間違いなくまた湧いて来るだろう。
あの様子だと素直について行った所で寝首を掻かれるのは間違いないから対応としては適切だったとは思うが、情報を抜けなかったのは痛いな。
何せ魔剣を剥がす為の鎖まで用意していたからな。
素直について行った所で、適当言って奪い取るつもりだったと見て間違いないだろう。
本来なら鬱陶しいと連中の本拠に乗り込んで皆殺しにするのだが、いつかのダーザインと同じで情報が引っこ抜けない以上、相手が尻尾を出すのを待つ必要がある。
……面倒な。
死体が消滅するギミックといい、連中の正体は高い確率でアメリアのお友達だろう。
死んでいるにもかかわらずどこまでも纏わりついて来る女だな鬱陶しい。
俺は何食わぬ顔で路地から出て、大通りを歩きながら考える。
まぁ、本格的に炙り出すなら下から順に辿って行く必要があるが、何処から調べた物か。
手っ取り早くこの街の権力者を適当に殺せば情報は得られるだろうが、誰を殺せばいいのだろう?
ここで街に関しての情報がないのも痛いな。 そもそも国内の情勢自体に疎いのは不味いか。
取りあえずやや強引ではあるが、さっさと情報を集めるとしよう。
情報と言えば定番の酒場だろう。 人も居るから真偽はさておき、最低限の事は分かる筈だ。 夜を待って向かうとしようか。
昼間の内に街の地理を把握し、酒場を探し当てる。 その後は適当に時間を潰して夜を待つ。
今まで俺は結構な数の生き物を殺して記憶を喰って来た。
記憶は嘘を吐かない以上、喰った連中から得た情報は事実ではあるのだろう。
ただ、あくまでそいつにとっての事実であっても他から見れば違うのかもしれない。
要は知識は嘘を吐かないが真実ではないかもしれないと言う事だ。
なら真実を得る為にはどうすればよいのか? 答えは簡単、数を揃える事。
一人の知識では怪しいが、十人の共通認識であれば信憑性は格段に上がる。
何が言いたいのかと言うと、こういった情報収集には数が必要と言う訳だ。
ここで話は戻るが、何故俺がわざわざ夜を待って酒場に来たのかと言うと――一人も逃がさない為に決まっているだろう?
酒場に居た客は二十人ぐらいだったが、これだけ居れば充分か。
手始めに<茫漠>で外に音が漏れないようにした後、全員記憶を吸い出して洗脳を施した。
当然ながら抵抗されたが、大した事のない連中だったので面倒なだけで難しい作業ではなかった。 流石にこれだけの人数を消してしまうと不味いので、こういった手段を取ったのだが――
ここで誤算が一つ。
数人が爆散したのだ。 どうやら連中のお仲間が混ざっていたらしい。
まったく、どこにでも居るな。 少しだけオールディアでの事を思い出して不快になったぞ。
あそこでも情報が中々集まらずに鬱陶しい思いをした物だ。
まぁ、引っこ抜けた連中の記憶と知識から使えそうな情報を仕入れられたので良しとしよう。
消し飛ばした集落とは違い、こっちは街なので住民の持っている情報も多岐に渡った。
さて、このモーザンティニボワールという国についてだが、領という括りでは存在せず、大雑把に四つの勢力に分割統治されている。
まずは国の南部から中央にかけてがアジュアベバとか言う部族が幅を利かせているらしい。
同様に地名としても通っており、基本的に姓のない獣人だが族長は代々アジュアベバの姓を名乗っている。
荒野や平原が多く、起伏が少ない平坦な地形が多い地域で族長は随分と好戦的らしい。
俺が消し飛ばした集落もこのアジュアベバに属している。
次に大陸中央部に存在する山間部を挟んで北西部に存在するカスビカズカザフ。
言い辛い名称のこの地域は西側の海に面している事から港町が存在するらしい。
どうやら西側の海の魔物は比較的ではあるが、危険度が低いので漁なども行えるようだ。
そして三つめが現在、俺が居る地域で北東部――要は山を挟んでカスビカズカザフの向かい側にあるサマサルポール。 この国では珍しく鉱石の採掘などを行っている部族だ。
採掘で得た鉱石をヴェンヴァローカに売り払う事で外貨を得ている事もあり、他に比べれば金回りは良いらしく、街並みを見ればそれが良く分かる。
最後に中央の山間部――その最奥に存在する小さな部族――ンゴンガンギーニ。
こいつ等に関してだけは良く分からなかった。 どうも山奥に引き籠っているので、今一つ分からないようだ。 少なくとも奪った知識からは大した情報は出てこなかった。
まぁ、分からん物は仕方がないので、山奥の引き籠り連中に関しては今は放置でいいだろう。
調べた限りではこの国で一番大陸の情勢などに明るく、勢力として確立しているのはこのサマサルポールと言う事らしい。
詰まる所、連中が本拠としている可能性が高いのはこの地域と言う事だ。
なら当面はこの近辺を調べるという方針で問題ないだろう。
まぁ、分かり易いのは王――いや、こっちでは族長か。
取りあえず、どうするかは後で考えるとして、次の目的地はそいつのいるであろう街でいいか。
場所は分かっているので向かうだけだ。
絡んで来る連中は鬱陶しいが、明確な目的と方針が決まると多少ではあるがやる気が出るな。
そんな事を考えながら俺は街を後にする。
ちなみに洗脳した連中は普段通りに過ごせとだけ言っておいた。
街を後にした俺は隠れていたサベージを呼んで跨るが、どうやら何かあったらしく機嫌が悪い。
詳しく事情を聞くと何かローブを身に着けた獣人連中が捕まえようとしてきたらしいので皆殺しにしたようだ。 結構な数だったらしく、仕留めた端から爆散した所を見ると街で絡んで来た奴のお仲間と見て間違いないだろう。
追加が来ないと思ったらこんな所で遊んでいたのか。
期待はしていないが、何か気が付いた事があるかと聞くとサベージはつまらなさそうに雑魚だったとだけ答えた。 まぁ、爆散するから餌としての価値もない以上、サベージからすれば何の価値もない連中なのだろう。
その点に関しては俺も同意見だ。 爆散するので記憶も抜けない、無駄に労力だけがかかる鬱陶しい連中だしな。 さて、詳しい事は上に居るであろう連中に直接聞けばいい。
サベージに向かう方角を指示。 行先は北――大陸の北端に近い位置だ。
そこにサマサルポールの首都が存在する。 族長とやらはそこにいるらしいので、必要であれば記憶を引き抜いて色々と教えて貰うとしよう。
仮に違った場合は知っていそうな奴を適当に当たればいつかは辿り着く。
今の所は特に差し迫った事態にもなっていないようだし、気楽にやるとしよう。
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