第619話 「放送」

 こんにちは。 梼原 有鹿です。

 最近、冷え込みが厳しくて作業に支障が出ており、魔石を用いた携帯用暖房器具を使っているけど寒い。

 一緒に働いているゴブリンさん達ももこもこと温かそうな上着を着て作業に従事している。


 ……それにしても――


 収穫前の作物に視線を向けると、仕事場の畑は野菜や果物がしっかりと実をつけていた。

 それ自体は慣れているからいいんだけど……。

 大量に降っているお陰で雪を被っている。 うーん、果物って寒い間は実をつけないんじゃないのかなぁ。


 稲ですら雪を被っているにもかかわらず、しっかりと実っている。 

 普通じゃないとは思っていたけど、いつ見ても不思議だなぁ。

 もう深くは突っ込まないけど、気にはな――まぁいいか。 考えるのを止めた。


 パチパチと巨大な焚火が燃えている。

 今は休憩中で皆は各々食事を取りながら雑談していたけど、今日はちょっとしたサプライズがあるんだよね!


 「はい! 皆、ちょっとこれを見て貰っていいかな!」


 声をかけると食事をしていたり、雑談をしていた周囲のゴブリンさん達やオークさん達が集まる。

 ちなみにジェルチさん達は昼食を配った後、寒い寒いと言って早々に引き上げてしまった。

 ま、まぁ、気持ちはわかるかな?


 皆が集まった所で首途さんから預かった機材をセット。

 一抱えぐらいの大きさの箱に同じぐらいの大きさのスピーカー。

 えっと、時間もそろそろかな? 一緒に貰った懐中時計に視線を落とし、問題ないと判断。


 スイッチを入れる。

 スピーカーからザリザリとノイズのような音が漏れていたけど、ややあって意味のある声が聞こえて来た。


 『はい、どうもこんにちは! 最近寒いっすね。 本日より開始のオラトリアムラジオ、略してオララジ始まります。 パーソナリティは知らない人ばかりだと思うっすけど、瓢箪山 重一郎が、シュドラス城放送局からお送りしますので、よろしくお願いします!』


 流れて来たのはラジオ番組だ。

 瓢箪山さんが引き抜かれて行ったので何かなと思ったらこっちだったのかと納得した。


 『ぶっちゃけ台本の大半がアドリブとか言う超絶無茶振りなんですが、命が惜しいので頑張ります。 はい、本当に頑張りますからどうか殺さないで下さい。 マジで頑張りますので』


 な、何だか大変そうだなぁと考えている傍からスピーカーからごそごそと何かの音が響く。


 『はい、じゃあ記念すべき最初のコーナー行ってみましょうか。 えっと、リスナーのお便り――って、あの、初回放送なんですけど、これどっから来たの? え? いいから黙って読め? あ、はい、読みます』


 瓢箪山さんは訝しみながらも読み上げる。


 『はい、ラジオネーム――ひぇ!? し、失礼『正妻』さんからです。 えぇっと何々、『オラトリアムは結果を出す者には寛容ですが、出さない者にはその限りではありませんので結果を出しなさい』…………あー……』


 わたしも思わず「あー……」と声を漏らしてしまった。

 

 『いや、これってパワハラ――ひっ!? 何も言ってないっす! 頑張ります! 超頑張ります! さ、さぁ、気を取り直して次のコーナー行ってみましょうか! 今日の夕方から明日の朝ぐらいまで、やや激しい降雪が予想されます。 防寒対策と雪かきは必須ですので準備をしておくといいかもしれないっすね』


 これに関しては事前に聞かされていたので知っていた。

 シュドラス城に気象台があるけど、効率のいい情報伝達の手段が思いつかなかったらしい。 そんな時、首途さんがラジオでもやればといってこの流れになったみたいだ。


 通信魔石を改造した物で送信側に対して受信側が複数の魔石を使って作成したとか。

 その為、この番組はオラトリアムの要所要所で放送されているみたい。

 番組の司会に瓢箪山さんが抜擢されたのは分かるけど、これって大丈夫なのかなぁ。


 明らかに慣れてない感じだけど……。

 

 『はい、これでお天気コーナーは終了となります。 あのー、すいません。 台本に昼休み終了まで適当に間を繋げってなってるんですけど、何やればいいんすか? え? 自分で考えろ? 酷ぇ!? 方向性すらアドリブなのかよ!? あ、いえ、何でもありません! やらせていただきます』


 ……うわぁ……。


 とんでもなくグダグダだったけど、ゴブリンさんやオークさん達は面白いのか、珍しいのかは分からないけど聞き入っている。

 うーん。 渡された時、周りの反応を報告しろって言われているけど……これって好評? なのかな?

 

 個人的には反応に困るなぁ。 正直、お天気コーナーはありがたいし、瓢箪山さんには幸せになって欲しいからなるべくいい感じの報告をしておきたいけど……。

 スピーカーから瓢箪山さんが必死に話題を探して自己紹介とオラトリアムで今まで何をしていたかを話したりと自分語りをやって場を繋いでいたけど、それすらなくなった所で閃いたのか得意のギターで演奏を披露してくれた。


 昼休みが終わった所で終了の時間になったようで演奏が止んだ。


 『は、はい、時間が来たので、第一回の放送はこれで終了となります。 次回は――え? 明日? もう天気予報だけでいいんじゃ――あ、はい、頑張ります。 はい、あ、告知です。 手紙を送ってくれる人募集します。 お便りコーナーで読み上げるので気軽に送ってください、応募方法は朝礼の時にメイドさんが、応募用のボックス――じゃなくて箱と用紙を用意してくれるので、番組への要望とかもあればそれも合わせてお願いします。 ネタに困ってるのでマジでお願いします。 はい、では本日はこれで! お相手は瓢箪山 重一郎でした。 またねー……』


 一時間ぐらいの放送だったけど、かなり消耗したようで瓢箪山さんの疲れ切った声を最後に放送は終了した。

 

 「う、うーん」

 

 思わず唸る。 コメントに困るなぁ。

 周りを見ると亜人種の皆さんは馴染みのないラジオ番組に困惑していたけど、瓢箪山さんの演奏は気に入ったようで、反応自体はそう悪くないと思う。


 わたしは提出するラジオ番組の感想や所感の内容を考えながら、そろそろ昼休みも終わりなので皆に声をかけた。


 ……取りあえず、最初だし様子を見てから判断しましょうみたいな方向でいいかな?

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