第591話 「慰霊」
こんにちは。 梼原 有鹿です。
少し前にオフルマズドという所で大規模な戦争があったらしいけど、一晩で終わったらしく今は撤収作業を行っているとか……。
かなりの数の魔導外骨格や亜人種の皆さんが戦地に行って来たとかで、ボロボロになった機体がいくつも帰って来たのを見れば戦いの凄まじさが良く分かった。
同時に帰って来なかった人たちが居たのも実感となって胸に広がる。
死んだ人達の中には農作業を手伝ってくれた人たちもいたからだ。
勝利と言う名の興奮でオラトリアムは活気づいてはいるけど、悲しいと思う事は止められそうにない。
わたしと同じような事を考え、沈んでいる人は結構居る。
そんな人達を見ていると何か出来る事がないのかと思う。
……わたしに何かできる事はあるだろうか……。
考えたけど特に思いつかなかったので――
仕事の基本はほうれんそう!
――誰かに相談しよう!
そう考えたわたしは休日を利用して、話を聞いてくれそうな人に相談する事にした。
「……何か出来る事……ねぇ……」
場所は変わってジェルチさん達の住居。
最初に思いついたのは夜ノ森さんだったけど、彼女は居なかったのでジェルチさん達に話を聞く事にした。
周りには彼女の部下の人達もいる。
……あの、くすぐったいからあちこち撫でるの止めて貰えません?
部下の人達にわしゃわしゃされながら、何かできる事はありませんかと相談するとジェルチさんは難しい顔で唸る。
「うーん。 死んだ人達の為に出来る事はないか……かぁ。 咄嗟には出てこないけど、考え自体は良いと思う。 アタシ達って死んだら終わりって思う所があるから、そういう習慣があんまりないのよ。 だから、そう言う考え方っていいなって思うわ」
彼女の言葉に部下の人達も小さく笑って頷く。
ジェルチさんも笑みを浮かべるが、一転難しい顔になる。
「ただ、悪いんだけど。 具体的にこうっていう案は出てこないなぁ……」
「ジェルチさん達は何かこう、誰かがその、居なくなったら何かするとかはないんですか?」
何かのきっかけになればと切り口を変えるとジェルチさんは少し考えて顔を上げる。
「……そうね。 その日の夜に少し夕食を豪勢にして居なくなった娘達の事を想うわ」
――結局、これと言った案は出なかったので少し話した後、その場をお暇する事となった。
次に思いついたのはメイヴィスさんだったけど、少し前に担当の採掘都市に戻ったとかで会う事が出来なかったので、他を探す。
うんうんと唸っていると何かゴブリンさんと――何だろう、あんまり見かけない人がいる。
ゴブリンさんに雰囲気は似ているけど体が大きいし、筋肉凄いなぁ。
畑が気になるのか部下らしき人と何やら話しながら頷いたりしていた。
ついつい気になったのもあったけど、知らない人なら何か変わった視点を持っているかもといった期待もあり、話しかけてみる事にした。
「こんにちは!」
「……? おぉ、どうもこんにちは。 収穫班の方ですかな?」
「はい! 班長をやっています。 梼原といいます!」
「これはご丁寧に。 私はアブドーラと申す者。 まぁ、ゴブリンみたいな物ですな!」
そういってアブドーラさんは豪快に笑う。
話を聞くといつもはシュドラスで仕事をしているのでこっちに来る機会が少なく、折角なのでと色々と見て回っていたそうだ。
畑の話を色々と聞かれたので答えたり、山脈の様子を教えて貰ったりと話は中々弾んだ。
わたしも一時は輸送班に居た事もあったので、話には付いて行けたのも大きい。
見た目が若そうだったけど、アブドーラさんは結構、いい歳らしく経験も豊富で話も面白かった。
どうもゴブリンではなく、ゴートサッカーという上位種らしいけど、詳しい事は良く分からなかったので親戚か何かと解釈した。
折角なのでわたしは先の戦争の事と死んだ皆の為に何かできる事はないだろうかと相談する事にしてたのだけど……。
「……なるほど。 お話は理解しましたが……そうですな。 これは自分の話なのですが、以前に身内を亡くしまして、その弔いの為に墓を作りました。 亡骸は辺獄に消えるのは分かっているのですが、忘れぬように、そして見た時に去った者達を想えるようにと建てたのですが……」
お墓――お墓かぁ……。
「はは、あまり参考にはならなかったようですな?」
「いえ! かなり参考になりました! ありがとうございます!」
何か見えた気がする。
やっぱり方向性としては行事的な物の方が良いのかもしれない。
――まだ、アイデアが形にならないのでアブドーラさんと別れて次なる場所へと向かう。
「――で、儂ん所へ来たっちゅう事か。 それにしても若いのに偉いなぁ、儂やったら絶対考えへんわ」
いい時間になってきたので、最後に首途さんの所へとお邪魔する事にした。
出してくれたお茶をすすりつつ事情を話したのだけれど……。
「ま、方向性が決まっとるんやったら、後は形にするだけやからなぁ」
「えぇ、だけどその形がいまいち出てこないと言うか……」
「ほー、ならちょっと前提の話しよか?」
……前提?
首途さんの言いたい事が良く理解できず無意識に相槌を打つ。
「言うだけやったら絵に描いた餅と一緒でタダやろ? 嬢ちゃんの考えとる催しはその辺、どこまで想定しとんのかなって思うてなぁ」
「えっと? つまりは予算って事ですか?」
「有り体に言えばそうや。 要は銭だすのか銭かけずに気持ちだけでやるかやな」
首途さんはそう言って指で輪っかを作る。
「ま、まぁ、言い出しっぺなのでお金を出す事を渋る気はありませんけど……」
流石に支払い能力を超えた事はできないけど、お金で済むならそれに越した事はないと思う。
首途さんはそれを聞くと大きく頷く。
「なら、ちょうどええのがあるで。 戦争とか結構な人死にが出た時はそれを建てて死んだ連中を偲ぶんや」
首途さんのアイデアを聞いてわたしは思わずなるほどと頷いた。
まさにそれほどまでにしっくり来る物だったからだ。
「慰霊碑かぁ」
首途さんの研究所を後にしたわたしは貰ったアイデアを反芻する。
弔うと言う習慣があまりないこの世界の人からはちょっと出てこない発想だった。
それだったらわたしでも何とかなりそうだ。
ちょっとした小さな祠みたいなのぐらいなら、そんなにかからないしどこか場所を借りて置かせて貰えばいい。
少しでも皆の慰めにでもなればいい。
わたしはそう考えて実行に移す為、具体的な事を考える。
人目に付く所がいいけど、うーん。 どこがいいだろう?
そんな事を考えながら家へと向かう。
今日はもう暗くなったので本格的に動くのは休みになってからだ。
「よし、がんばるぞ!」
私は気合を入れると少しだけ歩調を早めた。
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