第534話 「妙案」

 「んー、やっぱり座りっぱなしって疲れるねー」


 会議が終わるとアスピザルが思いっきり伸びをする。

 仕事がある者は早々に業務へと戻って行き、その場に残っているのは俺と首途、ヴェルテクス、それにアスピザル、夜ノ森だけだ。


 「あ、首途さん。 野菜ありがとね美味しかったよ」

 「おぉ、そうか。 あんなんで良かったら好きなだけ分けたるわ」

 「アス君! すいませんもう……」


 夜ノ森が保護者のように首途に何度も頭を下げる。

 首途はええよと言って手を振っていた。

 

 「さて、わざわざ残って貰ってごめんね? 取りあえず、さっきの会議聞いてたんだけど――行くんだよね?」

 「そのつもりだが?」


 アスピザルの質問に俺は即答。

 それを見て奴は苦笑。


 「はは、ローらしいね。 でも、実際問題どうするのさ? 正直、正面からの力押し以外に思いつかないんだけど」

 「俺は最初からそのつもりだが?」


 いや、正面から以外は入れないんだろう?

 なら正面から行って堂々と家探しすればいい。 それにこちらの戦力を見せる以上、オフルマズドの連中は皆殺しだな。


 なんだ、規模に少し気後れしていたが焼き払えばいいだけの話だし、もしかしたら今までで一番気楽かもしれんな。

 それを聞いて首途が手を叩いて笑い出す。


 「よう言うた! 流石や兄ちゃん! 今回は勿論、儂も連れてってくれるんやろうな?」

 「来たいなら好きにしたらいい。 ファティマが渋れば俺から言っておいてやる」

 「おおきに! やっぱり兄ちゃんは話が分かるなぁ。 研究所奪う時もそうやったけど、儂の作品が暴れるのを直に見れるとか最高やな。 ヤバいなぁ、今から楽しみになってきたわ」


 そう言って首途はにやにやと含み笑いを漏らす。

 

 「うわぁ……流石ローの友達。 言う事が違うなぁ」

 「こら、アス君」


 アスピザルはそう言いながら表情を引き攣らせている。

 夜ノ森が窘めているが、こちらも表には出さないようにしているだけでかなり引いているな。

 

 「ま、まぁ、それは置いといて、敵の戦力規模も不明。どう言った物を繰り出してくるかも不明。ついでに内部の詳細も不明と、こう分からない事ばかりじゃ厳しいんじゃない? 攻めるにしても何かしらの勝算がないとって思うのはもしかして僕だけ?」


 そんな事を言っているアスピザルの肩を首途が軽く叩いて、小さく首を振る。


 「坊主、若いのにそんな小さく纏まってたらあかんで? 男やったら突っ込んで目に付く敵を皆殺しや! 敵が居なくなるまで殺し続けたら勝ちやろうが!」

 「首途の言う通りだ。 居なくなるまで殺せば勝てる」


 首途の言う事は全くの正論だったので俺は大きく頷いて同意した。


 「……あれ? あれぇ? おかしいのって僕? え? 僕が間違ってるの? ね、ねぇ、ヴェルはどう思う?」


 アスピザルは引き攣った表情のまま、ヴェルテクスに縋るような眼差しを向けるが、無視して樽に入っているナスを齧っていた。 ナスもあったのか。 後で少し貰おう。

 

 「え、えぇ……」

 「あ、あの、あなた達? 言っている事の意味理解している? というかさっきの会議でメイヴィスさんの話を聞いてたの? 敵の戦力が分からないから迂闊な事は慎みましょうって……」

 「何を言うとんねん。 儂ら一回死んどるんやぞ、しくじってもどうせもっかい死ぬだけやないかい。 そんな事より、儂は今まで作ってきた作品がテュケとか言うボケナス共を捻り潰すのを一刻も早く見たいんや」

 

 首途の回答は夜ノ森の想像を遥かに超えていたらしく絶句。

 アスピザルに至っては半笑いだ。

 

 「ま、まぁ、二人の考えは良く分かったし、こっちの戦力も充実してきてると思うよ? 僕もこれだけ揃えれば国の一つや二つは落とせそうな気はするんだけど、本気で正面から行く気? もうちょっと合理的な作戦はないの? 僕としてはまだ死にたくないから明確な勝ち筋が見える作戦に出たいんだけど……」


 なるほど。 アスピザルの言う事も理解できなくはない。

 要は確実な勝算が欲しいと。

 俺はふむと考える。 どう言えばこいつが納得するのだろうかと。


 実の所、成功するかは不明だが、全くの無策と言う事はなかったりする。

 だから俺は安心させるかのように大きく頷いて見せ、アスピザルの目を真っ直ぐに見てこういった。


 「心配するな。 俺にいい考えがある」


 ……ん? 何だ? そんなこの世の終わりみたいな表情をして……腹でも痛いのか?






 「……にしてもさっきの会議で改めて見たけど、オフルマズドっちゅうのは引き籠りの集まりか。 陸海空どのルートからかの防備もガッチガチ、行くのは決定なんやろうけどめんどいのは確かやな」

 「どちらにしても攻め入るのはしばらく先だ。 その間に俺達は準備をしておけば良い」

 「せやな。 祭りは準備も楽しむもんや」

 

 場所は変わって首途の研究所地下スペース。

 取りあえず完成させた改造種のテストを行っており、首途が用意した試験を行う。

 全ての項目で一定の成績を収めれば晴れて量産化といった流れになる。

 

 首途は物を作るという行為には一切妥協をしない。 

 実際、スレンダーマンの作成に当たってもプロトタイプのイフェアスには相当な数の厳しい試験を課して量産化までは随分と時間がかかった覚えがある。


 拘り過ぎではないのかとも思ったが、懸けた時間に見合う成果を出しているので俺が文句を言う事はない。

 本来なら外で行うべきチェック項目もあったがここは充分に広いので問題なくテストを行えた。

 数十あったテストを全てパスしたので、目の前の奴は完成と言う事になる。


 大雑把に見えてこの手の作業では首途は驚く程有能だ。

 恐らく俺一人ではかなり長いトライアンドエラーの果てで、適当な所で妥協という形に落ち着くだろう。

 

 「どうだ?」

 「おぉ、ええやないか。 兄ちゃんの作ったコンガマトーは優秀っちゃ優秀やけど、粗がちょっと多いな」

 「目の前のこいつを見せられると全く否定できんな。 ともあれ完成か。 量産は流石に今のままでは少しきつい。 後で食料を調達してからになる」

 「それもええけど、その前に外でこいつを乗り回さへんか?」


 首途は目を輝かせて巨大な改造種へと視線を注いでいた。

 乗りたくてたまらないといった感じだな。 ここ最近は割と一緒にいるので虫みたいな顔から段々、表情が読み取れるようになってきた。


 さて、目の前のデカブツは簡単に言うとコンガマトーの上位種として作成した改造種だ。

 テストのみで実戦はまだだがスペック上ではコンガマトーを遥かに凌ぐ。

 航続距離もそうだが積載量が大幅に増加しているので、色々と役には立つだろう。


 ただ、問題はでかすぎるのであまり数は作れそうにないと言う点か。

 いっそ幼体を大量に作って育てさせると言うのも手かもしれんな。

 まぁ、それは今考える事じゃないか。 取りあえず、直近で使う分だけ作るとしよう。


 「おーい、兄ちゃん! 早う、早う!」


 首途が急かすように手招きするのを見て俺はそちらに足を向けた。

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