第533話 「会議」
「では、これから会議を始めます。 進行は私、メイヴィスが務めさせていただきます」
数日後、場所は変わってオラトリアムの屋敷にあるエントランスだ。
会議室が別で存在するが、今回は人数が多いのでこちらに椅子を持ち込んで会議を行う事になった。
一番奥に司会進行役のメイヴィス。
脇にファティマと残りの姉妹達。 反対側にディラン、アレックス、サブリナ、イフェアスと元グノーシス組。
その正面の最前列の席に俺、隣に首途、ヴェルテクス。 少し離れてアスピザル、夜ノ森、石切が椅子に座っている。
首途、夜ノ森、石切は図体がでかいのでわざわざ持ち込んだ四角くカットした岩に座布団を敷いて座っていた。
後ろにはアブドーラを筆頭にドワーフ、トロール、オークの代表がそれぞれ座っており、その更に後ろには連中の部下やライリー達改造種やレブナント、ダーザインの元幹部とその部下がずらりと並んでいる。
「まずはオラトリアムの今後についてです。 兼ねてより重要排除対象として捜索していたテュケの本拠の位置がほぼ固まりました」
メイヴィスが小さく何事か声をかけると近くに控えていた助手役のレブナントがでかい装置のような物を手押し車に乗せて現れた。
全員の正面に装置を設置して起動。
どうもプロジェクターの類だったらしく、中空に大陸の地図が浮かぶ。
「まず、オラトリアムがここ。 そして標的である選定真国オフルマズドはこの位置になります」
メイヴィスは北端を指揮棒のような物で指した後、南端を指す。
「移動に関しては最近手に入れた転移魔石を使用する事で解決しましたが、攻めるに当たって問題が一点」
映像が切り替わる。
地図からオフルマズドの大雑把な形になった。
「こちらは我等の手勢が時間をかけて調査した。 オフルマズドの外観となっております」
偵察に行った連中が頑張って描き起した絵のようで中々、詳細に描かれており分かり易い。
ただ、流石に内部は無理だったようで、完全に外観のみとなっている。
絵とはいえ、実際にその外観を見てみるとその面倒さが良く分かるな。
絵なのでサイズ感については何とも言えんが、外壁の高さは数十メートル。 もしかしたら百に届くかもな。 よくもまぁこんなでかい外壁を築けたものだ。
不意に隣で異音。
何だと横を向くといつの間にか首途が樽を持ってきており、中に入っているキュウリか何かの漬物をボリボリと食っていた。 その隣のヴェルテクスも無言で樽に手を突っ込んでキュウリを齧っている。 何をやってるんだこいつ等は。
俺は無言で肘で首途を小突く。
「何や?」
「少し分けてくれ」
「おぉ、食え食え」
どこから用意したのかキュウリが大量に入った容器を差し出された。
受け取って口に放り込んで噛み砕く。
あ、美味いなこれ。 話を聞きながら次々に口に放り込む。
何故かアスピザルが羨ましそうに見ていたが無視した。
やらんぞ、これは俺のだ。
ポリポリと漬物を食いながら意識をメイヴィスの話に戻す。
メイヴィスは外壁の高さや周辺の環境、攻める場合の問題点などをつらつらと挙げていた。
その途中でアブドーラやディランが挙手して質問をしたりしている。
質問内容は空から仕掛けた場合や、街の様子を悟らせない仕掛けに防御性能はあるのか?
地中からはどうだろう? 船を奪って侵入は可能か? 等々。
メイヴィスは事前に下調べを済ませていたのか回答は驚く程スムーズだ。
一つ一つの質問にしっかりと答え、それに対して相手に納得できるように言葉を選んでいる。
中々進行が上手いな。 はっきり言ってファティマがやるより上手くやっているのではないだろうか?
まぁ、真面目な話、周囲は遮蔽物のない平原。 細工のしようがないな。
アラブロストルの国立魔導研究所のように転移魔石で転移を狙うかとも思ったが、下手な事をやっているとあの様子なら直ぐに感づかれる上、規模が桁外れだ。 実行しても確実にしくじるな。
仮にどこかに飛ばせたとしても、防備を崩せるわけじゃないので微妙だ。
布陣の手間は省けるが裏を返せばそれだけだしな。
改めて見ると何とも面倒な場所だ。
あれだけの敷地面積にも拘らず出入り口はたったの二ヵ所。
北と南に一ヶ所ずつで、南に至っては港なので船以外では入れない。
仕掛ける場合は必然的に北側一択となる。
一通り情報が出揃った所で周囲の反応を確認。
首途はボリボリと他の野菜を齧りながら黙って前を見て話を聞いており、ヴェルテクスもそれは同様で無言で野菜をボリボリ齧りながら話を聞いていた。
アスピザルは話を聞いてはいたが、俺達が食っている物が気になるのか時折、ちらちらと樽に視線を向けて来ていた。 夜ノ森はそのアスピザルを窘めており、石切は――寝てやがる。
お前は一体、何をしに来たんだ。
アブドーラはかなり熱心に話を聞いており、部下にメモを取らせていた。
トロール王のアジードは理解しているのかいないのかぼんやりとしている。
オーク王のラディーブは何故かやや前かがみでやる気を漲らせている。
ドワーフ代表のベドジフは落ち着かないのかそわそわしている。
元グノーシス組は不動。 聞いてはいるが特に反応を示さない。
この辺は慣れの差か。 聖騎士は割と大人数での作戦行動の経験もあるし、定期的に訓練を受けていたようなので気負いはないようだ。
「これで敵の情報は以上となります。 この後は休憩を挟んで続きとなります。 何か不明な点があれば個別の質問は受け付けておりますので私、メイヴィスまでお願いいたします」
各々、トイレに行く為に退室する者、話し込んだりする者、メイヴィスに質問をする者と様々だが、俺は特にやる事もないので黙っている。
ちらりと横を見るとアスピザルが首途に漬物を分けて貰っていた。
それを見て夜ノ森が首途に申し訳なさそうに頭を下げるが首途は気にするなと手を振っている。
数分の休憩を挟んで、再開となった。
今度はこちらから侵攻に使用できるであろう戦力についてだ。
それに加えて、オラトリアムの業務や防備に出る影響などの説明から始まった。
こちらも事前に資料を集めていたようで、メイヴィスの説明には淀みがない。
ゴブリン、オーク、トロール等の亜人種に始まり、レブナントに改造種がどれぐらいの数を出す事になるか。
次に武装や役割についてだ。
オラトリアムで支給している装備はかなり質が良い。
亜人種に使わせる武装もそこらの冒険者が使う物より高品質だし、ゴブリンに至っては魔導外骨格まで与えているので、今では立派な戦力だ。
当初はゴブリンに使わせて大丈夫かとも思ったが、連中用に調整しておいた方が万が一奪われた場合、扱うのが難しいという利点もある。
何せ搭乗席はゴブリン専用にサイズ調整してあるので、人間では子供でもない限りは入れない。
後はしっかりと訓練を積ませれば十二分に性能を引き出せる。
複座型にすれば管理する機能も半分になり、搭乗者の負担も減り弱点であった死角も減らせると。
首途の考案したアイデアだったらしいが、訓練でもかなりいい成績を収めているので今回の主力としての活躍が期待されている。
そんな事を考えながら俺はメイヴィスの話を聞き続けた。
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