第520話 「時稼」
地底から出て来たのは――山?
そうとしか表現できない代物だった。
――ロー、取りあえずこっちでも胴体が出て来たのは確認したから取り付いて作業に入るけど、これ周りにへばり付いてる土、地層みたいに――と言うか地層か。 ヴェルと何とか掘り返してみるからもうちょっと頑張って。
不意にアスピザルから魔石で連絡が入ったが返事を待たずに切れた。
奴もさっさと作業にかかるつもりなのだろう。
さて、後は穴が開くまで時間を稼げばいいだけか。 逃げ回らずに飛び回る方針に切り替えだ。
サベージも理解しているので逃げずに突っ込む。
待ってましたとばかりに九つの首が襲って来る。 俺は回避をサベージに任せて観察を続けた。
まずは首が九本。 これ以上はないようだ。
見た限りでは攻撃手段はその馬鹿げた質量を活かした首による体当たりや振り下ろし。
攻撃それ自体は単調な大振りなので、見切ること自体は難しくない。
ただ、サイズ差があるので横薙ぎの攻撃が来れば飛行や跳躍する手段がなければまず潰されるな。
実際、エンティミマスの戦力はそれだけで全滅した。
魔導外骨格もタイタン鋼を使っており、それなり以上に頑丈だがあの重量差はどうにもならなかったようだ。
単純な物理攻撃でここまでの破壊力を発揮できるのだから大きさと言うのは立派な武器だな。
幸いにも飛び道具は持っていないようなので、攻撃を躱すのはサベージならそう難しくない。
余裕をもってひらひらと躱し、突っ込んで来る首をあしらう。
サベージも目が慣れて来たのか、突っ込んで来た首の上に飛び乗って走り回って、他の首の攻撃を誘って同士討ちまでさせている。
俺も適当に魔剣で攻撃して適度に怒らせてこちら以外に関心が向かないようにしているが、いい加減飽きて来たな。
魔石でアスピザルに連絡を入れる。
――まだか?
――今やってるよ! 悪いけどこっちも余裕ないからちょっと待って!
返ってきた返事は随分と切羽詰まっているようだが、何かあるのか?
本体はこっちで引き付けているのに何を遊んでいるんだ?
――……さっき外殻らしきところを見つけてヴェルが掘削を始めたんだけど、掘り始めた途端に胴体部分の外殻の隙間から例のゴキブリが湧いて来たんだよ。
あぁ、そうか。 それは大変だな。
――ヴェルは掘削作業で動けないから、僕とトラストさんだけで捌いてるんだけど、全然減らないから嫌になっちゃうよ! それに――
不意にアスピザルの言葉が途切れる。 言い淀んでいるというよりは余裕がないといった感じか。
声に若干の苛立ちと焦りがある。
――例の人型も出て来たんだけど、こいつらが本当に鬱陶しい!
話している余裕もないのか、終わったら連絡すると言って切られた。
相変わらず九つの首は怒り狂って執拗に襲いかかって来るが――どうした物か。
アスピザル達はあの様子だとやられはしないだろうが、作業を終えるにはしばらくかかりそうだし、ここは多少俺の方で弱らせた方がいいかもしれんな。
そうなると狙いを絞った方がいいか。 そうなると――あれだな。
俺が最初に魔剣の光線を喰らわせた首だ。
攻撃をサベージに躱させながら、あちこち焼け焦げている首に視線を向ける。
さて、どの辺りが脆そうか――考えるまでもないか。
やはり最初に喰らわせた個所だな。
サベージに指示を出すと奴は素早く俺の指示を理解して
俺はタイミングを合わせて、魔剣を第二形態にして傷口を狙って光線を喰らわせた。
黒い光が傷口に突き刺さり、全ての首が苦痛にのたうつ。
やはり全体にダメージが入るなら一ヶ所に集中して痛めつけてやった方がいいな。
サベージに回避行動を取らせつつ魔剣の光線を同じ個所に喰らわせ続ける。
相応に消耗はするが、魔剣は自前で魔力を生成できるので適度に休めば俺の負担はそこまでじゃない。
見た所、傷口がそのままになっている以上、極端な再生力はないようだ。
時間をかければ恐らく仕留められるな。
ただ、耐久力が半端じゃないので中枢を狙わないとこのデカブツは死なないだろう。
その証拠に魔剣の光線を結構な回数喰らっているにも拘らず、弱っている気配がない。
結局の所、ここでいくら頑張っても嫌がらせの域は出ないと言う事か。
――とは言ってもしばらくは暇なので、やれる事はやっておこう。
考えている内に魔剣の魔力が回復したのでサベージに良い位置取りをさせて発射。
当然のように命中するが、貫通しない。
呆れた頑丈さだ。 さっきから同じ個所に叩き込んでおり、それなりに抉ってはいるのだが、完全に貫通しないのだ。
気が付けば日がすっかり傾いている。
仕掛けたのは昼になる前だったはずだが、そろそろ夜になりそうだな。
不意に下の方で無数の光が瞬く。
何だと思った矢先に火球や岩塊、氷の槍が放物線を描いて飛び表面に着弾。
目を凝らすと冒険者や聖騎士らしき集団が各々武器を構えていた。
恐らくエンティミマスの生き残りか。
第一陣が全滅したので立て直して再度仕掛けたと言った所だろう。 反対――南側を見て見ると同様に小規模な爆発や衝撃音が響く。 前回と同様に同期して仕掛けたようだ。
正直、下手に注意を散らされると迷惑なのでギャラリーに徹して欲しかったが、効果的な攻撃を仕掛けている訳でもなさそうだし放置で問題ないか。
わざわざ視界が悪くなりつつあるこの時間帯に仕掛けたと言う事は戦力をかき集めて即仕掛けたと言った所だろう。
連中も余裕がないのだろうな。 そう考えて小さく嘆息。
放っておいてくれれば俺が処分してやったというのに困った連中だな。
まぁ、死にたいなら好きにしたらいい。 意味もなさそうだし俺は俺のやる事に集中しよう。
連中に取っての幸運はミドガルズオルムにダメージを与えられる程の火力がない事だった。
その為、奴は他を完全に無視して俺を執拗に狙っている。
俺にとっては好都合なのでどんどん向かって来てくれ。
それに、そろそろいけそうだ。
回避はサベージに任せているので意識は魔剣に集中。
そろそろ撃てそうだ。
射線を取るように指示を出し、狙いを付ける。
いい加減こちらの狙いに気付いて損傷の激しい首を庇うような動きを見せるが、でかすぎる図体が災いして庇いきれていない。
寧ろ庇う事によって攻勢が弱まるので狙い易くなるくらいだ。
射線に割り込むように入ってきた首を飛び越えて狙いを付けて発射。
もう数十発は食らわせているのでいい加減にして欲しい物だと思いつつ黒い光線はばっくりと口を開けた傷口に突き刺さり――遂に貫通。
……おや? やっと抜けたか。
そしてそれは致命的な物だったらしく、ブチブチと嫌な音がして自重で首が千切れ――落ちた。
首だけでも結構な質量で落下の衝撃は凄まじく、その周囲にある物を平等に叩きのめす。
さっきから散発的に起こっていた無駄な攻撃が止んでいる所を見ると、下に居た連中も衝撃で吹っ飛んで行ったようだ。
さて、残り八本だが、一本落とすのに半日以上かかるのか。
アスピザル達はまだか?
そろそろ催促の連絡でも入れようかと考えていると――
――ロー、お待たせ! こっちは終わったよ!
そんな連絡が入った。
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